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希望のロックバンド

DIR EN GREY『The Insulated World』に寄せて

 圧倒的で最強の感動を与えてくれるロックアルバムである。「感動」という一種の穏やかで感傷的な感じのする言葉の前に「圧倒的」や「最強」という聞いた相手の心をざわつかせるような言葉をつけたくなるのは『The Insulated World』で鳴らされている音が、歌われている歌詩が、まさしくそれだからだ。
 今までDIR EN GREYがリリースしてきた楽曲の中には、感動を与えてくれる楽曲が幾つもあった。例えば、「THE FINAL」や「鼓動」や「VANITAS」や「空谷の跫音」がそれだ。しかし、『The Insulated World』に関しては、アルバム13曲を聴き終えた時の感動やカタルシスが過去最高にあるのだ。それは、過去最高レベルに闇(病み)で毒で攻撃的で激しいアルバムが最後に

叫び生きろ 私は生きてる(「Ranunculus」より引用)

という場所に行きつくからだ。

 『The Insulated World』は、冒頭から自己否定の嵐のような歌詩が続く。ビートはとてもスラッシー。声、ギター、ベース、ドラムの音は、聴いてる者の心を抉るように激しく重く鳴っている。

俺さえ死ねばいい
さあ祝えよ 傷に(「軽蔑と始まり」より引用」)

生きてる事が最低
そんな事を思いながら
自分自身を愛する事も出来ない(「Values of Madness」より引用)

 このように、解りやすいストレートな言葉で歌われる表現は、はっきり言って、とても痛い。ほとんどの曲で自分に対する否定的な表現がされており、詩を書いている京(Voice)の描いた「隔離された世界」がダイレクトに伝わって来る。単純に聞いているだけでは、リスナーへの、分かってほしい、共感してほしい、共有してほしい、といった欲求は少しも感じられない。むしろドンッと突き放すような印象を受ける。優しくないし、好き嫌いははっきり分かれるだろうし、マジョリティではない。まさしく「隔離された世界」。
 しかし、僕はその「隔離された世界」にどんどん惹きつけられて、能動的にその世界にもっともっと浸りたい、理解したいと思う。共感など求められていなくても。なぜなら、僕の中の「隔離された世界」にも京の中の「隔離された世界」に触れられている気がする部分があるからだ。

 僕には死んでしまいたい、自分には生きている価値がない、と思ってしまう自己否定的な所がある。過去の様々な経験からそうなってしまっている。自己否定的な自分は完全に消滅はしないし、時々浮かびあがってくることもある。何よりそいつと一緒に今の自分は生きている。
 世界を見てみても痛みの連鎖は僕に止められない。意志を持ってまっすぐに生きたいだけなのに、壁にはしょっちゅうぶち当たるし、それで逃げ出したくなるし、ずるい奴らがどんどん上になり追い越していく。というかお前は奴らのことをとやかく言えるほど立派なのか、そうじゃないだろ卑怯者の弱虫め。
 そう思うことがあるから、京の中の「隔離された世界」、もっというとバンドの創造した「隔離された世界」に触れられている気がする部分があるのだ。何か、自分の気持ちを代弁してくれている気がするのだ。勝手に。そう思える表現に出会うことができたんだから、求めずにはいられない、大好きにならずにいられない。

 そんなに自己否定するならさっさと死ねばいいじゃん、と思う人もいるかもしれない。けれど「自殺する」という考えや行動にどうしても至らないのは、DIR EN GREYの音楽が、どんなに暗闇や痛みを表現しても、最後には希望や感動、カタルシスを与えてくれるからだ。『The Insulated World』に関してはアルバム1枚を通して、過去最高に。アルバム最終曲の「Ranunculus」のなんと感動的なことか。アルバムリリース前のライヴで、曲単体でも感動し涙した僕は、アルバムを通して聴いて、ライヴで感じた以上の感動を「Ranunculus」から得ることができた。2019年にはアルバムのツアーも始まる。『The Insulated World』をしっかり聴きこんでからライヴという音源とはまた違った生の表現でアルバムを体感できると思うと来年が楽しみで仕方がない。ライヴに行けるかはチケット運次第だが、そうやってバンドがまた何か新しいことに挑戦し続けることのアナウンスだけでもワクワクできるんだから簡単に死ねない。

 ずっと思っていることがある。乱暴で短絡的な考えだけど。年間3万人近い人が自殺しているこの日本で、その人たちの何人かが、もしDIR EN GREYの音楽に触れる機会があれば、その何人かは自殺をしないでくれるのではないか、と。20年近く彼らの作品に触れ続けてきて、もしDIR EN GREYの音楽に触れることがなかったら今自分は生きていただろうか、と思えるくらいに僕がDIR EN GREYの音楽に救われたから。
 明るい言葉の歌詞や音楽、誰かを励まそうとする音楽のほとんどに僕はあまりリアルを感じることができないし救いを感じることができない。そうした音楽の真逆とも言えるDIR EN GREYの音楽にリアルや救いを感じることができる。だって、この世界は残酷だから。僕の心は叫んでいるし叫びたいし、僕と世界の間には目に見えないけれど激しいノイズがあって、それをDIR EN GREYの音楽から感じ代弁してもらえていると思える。自分は1人だけど孤独じゃないと思える。
 特に『The Insulated World』は、過去最高と思えるくらいに圧倒的で最強の感動を与えてくれるアルバムだからよりそう思ってしまう。アルバムの曲には多く「死」という言葉が使われている。だけど最後に前述した「Ranunculus」の歌詩の様に、『The Insulated World』には「それでも生きる」という強い生への意志が込められていると思う。まあ、状況は変わらないんだろうけど『The Insulated World』がたくさんの人に届くといいな。そんな風に思うのも『The Insulated World』がとても、とても素晴らしいロックアルバムだからだ。

 もう一つ、ずっと思っていることがある。僕にとってDIR EN GREYは、希望のロックバンドだ。

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