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【普通】という概念との闘い

MOROHAの呪縛を考察する

私は、しがないバンドマンです。
普段は冴えない只の営業マン。

月曜日から金曜日まで馬車馬の様に働き、週末の夜街に飲みに出る同僚を横目に汚いレンタカーに乗り込む。夜通し高速道路を飛ばしてたどり着くのは800km先の街。ステージに立ち上がるたった30分足らずの為だけに、12時間かけてたどり着いて、薄暗い地下のハコで、一瞬だけの光を放ち、くたびれたビールで乾杯。黙々と機材を片付け、帰路に就くべく再び車に乗り込んで。男達と箱詰めの12時間、自身も車内も少し獣染みた匂いで我が家に辿り着くのは太陽も随分登った頃。そのまま気絶するように眠り込み、私の週末はお終い。翌朝は月曜日、また仕事場に向かう。
大学を卒業して5年、気付けば二足の草鞋もだいぶ板に付いた生活。お陰様で、毎週の様に外に出掛けるうちに、全国のあちこちに少しずつ友人が出来た。自分達の音楽を、口ずさむ人が増えた。嬉しかった。これが我々の、日常。
音楽で売れるつもりはない。音楽で飯を食うつもりはない。生活があるから、私たちの音楽がある。音楽を生活に売り渡すつもりはない。
だから辞めるつもりもない、それでいい。
それで、いい。
 

「俺さ、思うんだよね
ぶっ飛んでる奴なんか 何にもすごくないと思うんだよね
イかれてる奴なんか 何にもすごくないと思うんだよね
シド・ヴィシャスも カート・コバーンも
人生半ばで死んだヘタレじゃねえか
俺達は 真っ当は真っ当なりに
職場の上司も殴れずに バイトのブッチも出来ずに
今日の昼飯代を考えて 目の前の人を好きだって言って 告白する時は足震えて
自分に可能性があんのか 出来んのかどうか迷いながら
迷いながら迷いながら 迷った結果 踏み出す一歩が
俺はロックンロールだと
俺はヒップホップだと
俺はパンクロックだと思うんだよね」
 

彼らの事を最初に知ったのは、ライブハウスでもCDでもなく
SNSで流れてきた切り取られたMCだった。
たった2分20秒のアフロの言葉は痛くて痛くて
私の涙は溢れて止まらなくなった。
 

【普通】だと、分かっている。
特別な人間にはなれないと、とうの昔に知っている。
私達の音楽で、世界を変えられない事ぐらい、分かっている。
売れるつもりがないんじゃない。
売れる訳がないのだ。こんな音楽。
それでもバンドを辞めるつもりはないし、辛くても、忙しくても、身体が悲鳴を上げても
数多のスポットライトの中に立つたった30分を失う事は出来なかった。
誰の為でもなく、自分の為に
自分の為だけに続けている音楽なのだから。

褒めて欲しいわけじゃない。
売れたいわけじゃない。
特別な人間になりたいという気持ちも、いつのまにか消えた。

それでいい、と言われたかった。
憐れみの感情など無く
【普通】でいい、と
誰かに言って欲しかった。

《DREAMはCOMEしてTRUEにならず
DREAMはGOしてTRUEにしていく
叶う叶わぬは別 それさえあれば人は輝く》
ー 三文銭/MOROHA より
 

まだバンド続けてるの?
メジャーデビューしないの?
東京に行かないの?
やっぱり売れたいの?

いい歳して音楽を続ける自分に投げられる言葉。
音楽をしていた人間までがそんな言葉を投げてくるから驚きだ。

違う、違う、そんな話をしたいんじゃない。
売れる売れないだけで自分の音楽の話をしたいんじゃない。その癖どうせ興味ないだろ、お前ら。私達の音楽なんて、微塵も興味ないだろ。
理解してくれるのは、同じように音楽を続ける人間だけだ。
同じ言葉の刃を、向けられ続けた人達だけだ。

《頑張る事しか出来ない同志達へ
自分を客観視なんてすんな 俺達の目はここに付いてる》
ー 三文銭/MOROHA より
 

音楽だけの話じゃない。
なんだかんだと生き辛い世の中だ。
ナンバーワンよりオンリーワンだと言う。
個性個性と世間は騒ぐ。
オンリーワンにすらなれないその他大勢はどうやって生きれば良い?
 

《若いとも言われたし青いとも言われた
だからなんだよ? てめぇさっさと構えろ
さぁ勝負だ 今 時代に風を吹かす》
ー 三文銭/MOROHA より

彼等は今の音楽シーンにおいて、誰よりも【普通】な存在だ。
【普通】の事を【普通】に歌う。
【普通】のまま、今の音楽シーンで闘おうとする。
誰しもが出来る事じゃない、誰だって言葉を飾ろうとする、出来事を美化しようとする、頑張って上手いこと言ってみようとする。
MOROHAはそれをしない。【普通】の喜びも、幸せも、悲しみも、怒りも、悔しさも、全てそのままリリックやMCに乗せる。
だからこそ彼等の言葉は、音楽は、【普通】である事に悩み苦しむ人に共鳴するのだ。
 

2018年BAYCAMP、真夜中に彼等のアクトを見た。
強風の吹き付けるテントステージ、最初は勢いで拍手や拳を突き上げ、歓声を上げていた客席が、次第に緊張感に満ちていく。

《なんの感情もない拍手や
周りに合わせてする生温い手拍子
そんな事ばかりして来た手のひらで
一体何掴むつもりなんだよ》
ー ストロンガー/MOROHA より

それは心地の良い緊張感だった。
私の大好きな、音楽に、打ちのめされたような感覚。
涙腺が壊れたかの如く涙の止まらない私の周囲も、次第に鼻を啜り、目を潤ませる人が増えていく。
彼等のステージは割れんばかりの拍手と、熱の篭った歓声や怒声に包まれて終演となった。
 

ただ、そんな彼等を見ながら時折思う。
彼等が【普通】で無くなってしまった時、
彼等の音楽は、どうなってしまうのだろうか。

《勝てなきゃ皆やめてくじゃないか
勝てなきゃ皆消えてくじゃないか》
ー 勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ/MOROHA より

勝てなきゃ消えてくとアフロは歌う。
それでも、勝ち続けて、いつか彼等が【普通】でなくなってしまったら、
 

私たちは、どうすれば良い?
 

メジャーデビューを祝う周囲に「馬鹿にしてんのか」と彼等は怒った。
今までの俺たちを何だと思っていたんだ、と。
彼等はきっといつまでも【普通】だ。【普通】のまま、勝ち上がろうとしている。
しかし、勝ち上がり続ける彼等は、必ずいつかどこかで【普通】ではなくなるように思う。
いや、もしくは【普通】である限り、彼等の望む最上級の結末は来ない。
その未来が見えた時、MOROHAという存在は、どうなってしまうのだろう。
彼等は自分で自分に呪いを課している。次第にわたしにはそう見えるようになっている。
 

【普通】である事に苦しむ人間が解き放たれる時など来ない。誰よりも分かっている、私自身がそうなのだから。
それでも構わない。【普通】で良い、とMOROHAは言った。【普通】のまま、きっとMOROHAは闘い続ける。
【普通】のまま、共に地獄まで歩もう。近い未来で、彼等が辿り着く世界の果てまで。

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