1497 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

向上心のない自分に寄り添ってくれた4人へ

"2度"好きになったASIAN KUNG-FU GENERATION

 大学受験に失敗し、入校式を終えた予備校のクラス分けテストの帰りのコンビニで、なんとなく聞き覚えのあるボーカルの声が聴こえた。

“足りない心を満たしたくて駆け出す
はじめの一歩目で景色さえも消えるよ”

サビで叫ぶ後藤正文さんの声が、漫画雑誌を立ち読みしようと差し出した右手を止めた。受験勉強を怠った罰が当たったのにも関わらず、また時間を浪費しようとする自分に向けられているようだった。

“助走もつけずに思い切って飛び乗る 蹴り出す速度で 何処までも行けるよ きっと… 光だって 闇だってきっと…”

聞き取れる歌詞を検索してヒットした「或る街の群青」。やり場のない感情を、荒削りだけどありのままに叫ぼうとするサウンドを聞いて、初めてアジカンを好きになった。コンビニを出て、地図アプリを頼りにレンタルショップへ走った。
 「或る街の群青」が収録されているベストアルバムを確認しては、中村佑介さんに描かれたジャケットをカゴへ突っ込んでいく。レンタルに必要な身分証明で予備校の生徒手帳を見せることの恥ずかしさなんか、4人への好奇心には敵わなかった。買ったままで空き容量だらけのウォークマンが、アジカンの楽曲で埋まっていった。

 通学途中は「ワールドアパート」や「ムスタング」を聞いて。模試の日には「ネオテニー」を聞いて。いつもはシャッフル再生で飛ばしていた楽曲に励まさせることもあった。センター試験の直前にリリースされた「Right Now」は、緊張でまともに食事も取れない自分にとって唯一の支えだった。

進学先が決まり、高校時代ぶりにSNSのアカウントを再開した。実際の友人だけでなく、同じアジカンファンと繋がるためのアカウントも作成した。共通の好みを持つ人をフォローして、フォローされて。しばらく人間関係が希薄だった自分にとって、何人もの人と繋がることに快感を覚えていた。

 でも、タイムラインを流れるのはアジカンへの思いではなく、ファンとファンの、生産性の無いマウントの取り合いだった。曲の解釈なんて人それぞれでいいのに、フォロワーはリプライで自分の価値観を押し付け合う。「僕の方が、私の方がアジカンが好きなのだ」という意志が、画面の中でぐちゃぐちゃに交差しているようで、もう嫌になってアカウントを削除した。それから、なんだかアジカンの楽曲が草刈機みたいな騒音にしか聞こえなくなってしまって、それ以来4人の楽曲を聴かなくなった。

大学3年になり、就職に向けて行動するようになる友人達のことも、冷めた目で見ていた。インターンだ、キャリアだ、大して資格も得意な事もない自分を棚に上げて、どうしてそれっぽい横文字を並べて大人になったフリをするのだろうと思っていた。みんなが変わっていくことから目を逸している自分は、数年前の、向上心のない自分から何も成長していなかった。

 スマホの画面を下になぞってツイッターのタイムラインを更新したときに流れてきたのは、友人がリツイートしたアジカンの新曲のMVのURLだった。「ボーイズ&ガールズ」。タップして始まるMVの冒頭で映る、陰鬱な表情で夜景を眺める荻原みのりさんがなんとなく自分と重なる。

“そんな日も 生き急ぐように
きっと ねえ Boys & Girls 教えてよ
そっと 夢と希望
まだ はじまったばかり
We’ve got nothing”

 夢を追いかけるダンサーさんが、ギターの喜多さんが微笑む。メンバー4人で笑う。荻原さんも、最後にはぎこちない笑顔を浮かべる。
 かつては自分を叱咤激励し、背中を押し出してくれていたアジアンカンフージェネレーションは、自分が見ない間に背中を優しくさすってくれる存在になっていた。大丈夫だよ、オールライトだよと言ってくれているような気がした。

 部活も引退して、卒論も本格的に始めなければならない。浪人時代に経験した時のような危機感を覚えた。けどその危機感は決して自分を不快にさせるものではなかった。

“We’ve got nothing
It’s just begun We’ve got nothing”
 まだ始まったばかり。まず目先のことに目を向けて、もう少し頑張ってみようと思う。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい