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私の20代と、2回の『ハイライト』

tacicaがくれた「自分」

今までたくさんのバンドを好きになった。
今までたくさんのバンドのライブに行ってきた。

でも、楽しいはずのライブ中に、泣いたことがある。

2011年9月14日 tacica/THE NOVEMBERS/People In The Box合同イベントツアー「TOMOE」。22歳の時。
お目当てはtacicaのライブ。その年の4月に発売したアルバム、「sheeptown ALASCA」がとても好きで、リリースの直後というタイミングもあり楽しみにしていた。

“重傷と解っていて 怯えながら夜を跨ぐ生命へ 今日は少しだけ悪い夢を観ただけ”
「sheeptown ALASCA」の5曲目、『ハイライト』はそんな歌詞から始まる。ライブが中盤に差し掛かったころ、猪狩さんがそのフレーズを歌い始めた。
その時私は大学4年生で、9月にも関わらず内定がなく、将来がまったく見えない大学生だった。やりたいことはあった。たくさんのエントリーシートを出し、全国各地を回った。でもうまくいかなかった。上手くいかない自分を責めた。ダメな自分が嫌いだった。私も自分が重傷であることは十分に解っていた。重傷というより限界だった。
Cメロが終わって、一瞬の静寂ののち、演奏は猪狩さんの歌とギターだけになる。猪狩さんのまっすぐで力強い歌声が、ほぼアカペラで聴こえた。その時に初めて、私は自分が泣いていることに気付いた。気付いたあとはなぜか涙が止まらなかった。ぬぐってもぬぐっても涙があふれてきた。結局曲が終わるまで泣きっぱなしだった。

『ハイライト』は印象的なサビが2回出てくる。
“演奏に会いたくて 聴こえもしない音符を また丁寧に掻き鳴らされる 思い出に因る逆襲の罠”
一方で、こんなフレーズもある。
“永遠に会えなくて 祈るより泣いた後に 繰り返して踊る この体温は 不思議と希望を讃えている”
当時の私はこの曲をこう捉えた。
【自分の過去の栄光をまた再現したいけど、それはできない。出来ないけど、これからの自分に希望はある。】傷ついた自分自身を慰めながら進んで行く人の物語だ。
当時、私は自分がなぜ泣いているのかよくわからなかった。でも今考えると、ちょうど自分の状態にぴったりだったからだろう。就活で自分を見失い、自分が嫌いで未来に希望もない。本音を言えばこんな気持ちになる前に戻りたい。心は傷ついて泣いている。でも今日も明日も生きるしかない。例え希望はなくとも、誰かに大丈夫だと言ってほしかったのだろう。その気持ちをこの歌にのせたのだと思う。今でも当時の気持ちを思い出すと苦しくなる。

しかし、その年の12月、突然就職が決まった。目指していた職種だった。
本当に突然で、結果の連絡が来たときは茫然としてしまった。私は重傷だったけれど、とても運が良かった。私の体温は希望を讃えていた。

そして、2012年、4月。23歳の時。私は社会人1年目を迎えた。
誰しもそうだと思うが、1年目は上手くいくはずがない。失敗も多かった。何回も怒られた。新しい仕事を始める日、緊張とストレスから嘔吐が止まらなくなり勤務中にもかかわらず病院に運ばれる、なんてこともあった。その時も、やっぱり上手くいかない自分を責めた。やっぱり、ダメな自分が嫌いだった。

2013年、2月。ある人と出会った。
その人はとても努力家で、自分の目標のために色々な方法を考え、最適な方法を実践し、今まで確実に歩みを進めてきて、そして今も進み続けている人だった。自分の欠点に向き合い、それを直して自分を確立し、自分の生き方に自信を持っていた。とても輝いて見えた。
と同時に、私は自分自身の生き方にも疑問を持った。このままなんとなく生きて、なんとなく死んで行くんだろう、と思って生きてきたが、それでいいのだろうか?私にはもっとできることがあるんじゃないか?私もこの人のように生きてみたい!

2013年11月27日 シングル『HALO』が発売。24歳の時。
その中のフレーズに衝撃を受けた。
“又 性懲りも無く目指しちゃった アナタからは 只 遠退く日々 先送りになる安らかな眠り 僅かな光に似た希望が 君の細胞に絡まった日から 一向に離れない”
まさにその通りだ。その人になりたい、でも届かない。まだ私は死ねない。
『ハイライト』とは違う希望が、私の細胞に絡まった。

それから、私のそばにはいつも、ある人の存在と『HALO』があった。
その人を性懲りも無く目指しちゃったら、結構大変だった。自分の嫌なところに向き合い、直す努力をした。足りないと思ったことは勉強でも、何かしらの経験でもなんでもやるようになった。仕事も大勢の人に改善点を聞き、時には議論をし、よりよい結果を目指した。時には、そのある人とも喧嘩になるくらい討論をした。思考や経験など、比べてみてもますます遠退くばかり。生き方、仕事、コミュニケーションの取り方から趣味に至るまで、私の考えがとてもぼんやりしたものだったことに気付いた。

その中で一番大きな収穫は、私にとって「自分自身」がとても大切なものだということだった。
“代わりは一人も居ない舞台に 諦める事も許されないから”『HALO』
私がどんなに嫌でも、私はやめられない。だったら自分自身を好きになって、私を精いっぱい使って、私を生きたほうがいい。そう考えられるようになった。
自分自身のことが分かってくると、私だけのやり方も見つけやすくなる。私は徐々に自分のことを嫌いではなくなっていった。

仕事が軌道に乗り、後輩の指導も経験して、だんだんと大きな仕事も任されるようになった。プライベートも忙しくなった。新しい趣味もできた。周りから「安定感がある」「信頼できる」と言われるようになった。

2016年4月6日 アルバム『HEAD ROOMS』発売。26歳の時。
『フラクタル』が私の背中を押す。
“何度も朝と夜を巡っても 記憶にない程 雨が降る その度 君を切り抜けて来た 途方に暮れながらだって”
失敗や困難は、途方に暮れながらだって、私らしく切り抜けられる自信がもてるようになった。

しかし、徐々に迫ってくる30代を目前に、このままで良いのかと思うことも多くなった。持っているスキルを生かして、もっと私にもできることがあるかもしれない。周りの人や、社会のために、役に立つことがあるかもしれない、と。

2017年、3月。27歳の時。
色々なタイミングが重なり、仕事を辞めた。フリーランスになる一方で、資格試験の勉強を始めた。合格率は決して高くはなかった。簡単な道のりではないことは分かっていたが、もし取得できたら、と考えると夢が広がった。あまり不安はなかった。
“きっと 誰もが羨む様に舞う この歪なフラクタルを” 『フラクタル』
今は大変でも、きっと誰もが羨む様な私になりたい。30歳までに合格することを目標に勉強を始めた。

受験勉強は自分と向き合う時間が多くなる。私は、自分の長所と短所をとらえて、一番私に合う方法で勉強するように心がけた。私だけの切り抜け方を考えて取り組んだ。一方で、フリーランスの仕事はほとんどなかったため、お金がなかった。30歳を目前にしてアルバイトを始めた。そのため勉強時間もなかなかとれなくなった。でも目標があったから辛くはなかった。それに、この時も私にぴったりの歌があった。
“何者でもない者 眼を光らせた 只の独り善がりだって良いさ”『発熱』
“まだ何者でもない 丘の星空に僕宛の言葉 探したよ”『諦める喉の隙間に新しい僕の声が吹く』

2016年、『発熱』の発売以降、
tacicaの楽曲には「何者でもない」という言葉が多く出てきているように感じる。
私はこの言葉が好きだ。プラスにとらえられる言葉なのだ。
何者でもない、だから何でもできる。何者でもない、だからこれから何にでもなれる。
何者でもない、でも自分は自分。何者でもない、だから失敗しても大丈夫。
様々な曲を通して、何者でもない私は、勇気をもらった。

2017年11月25日 tacica ツアー2017「PLEASURE FOREST」。28歳の時。
なかなか縁がなく、実に6年ぶりになったtacicaのライブだった。
ライブの中盤、猪狩さんがギターを持ちかえて音を鳴らした瞬間、ハッとした。『ハイライト』だ!
6年前の自分がそばにいるような不思議な気持ちだった。希望もない、自信もない、あの時の惨めな気持ちが蘇ってきた。
でも今の私は違う。あの時に自分に声をかけられるなら私はこう言うだろう。「今は目標も夢もある。尊敬する人もいる。自分には希望だらけで、戻りたい過去なんかない。大変なこともあったけど、今の私で生きる今が一番好きだ」と。曲が終わっても、私は泣かなかった。

そして今。29歳。
私は目標より早く試験に合格し、新しい就職先を探している。きっと来年の春には希望の仕事を始められるだろう。(と、非常に楽観的に考えている)
そして、憧れていたある人は、私からの熱烈なお願いに折れて、パートナーとして一緒にいてくれている。今でも目指していて届かないが、大切な人だ。
tacicaの歌に励まされてきた20代はもうすぐ終わる。
30代もこれからもずっと、私らしく、私なりに進んでいきたいと思う。

“煌々と紅い血は誰が為に 何者でもない僕の為に 一生 使い切るまで贅沢に 鳴らして 鼓動を”
“体温を上げろよ 息を切らせ 他の誰でもない僕の為に 喜怒哀楽だらけの毎日が続くのだろう”『煌々』

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