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井乃頭蓄音団 ライブレポート

いの祭りat渋谷クラブクアトロ

 バンド名がまずいい。井乃頭蓄音団。いのかしらちくおんだん。漢字が並んだときの見た目と、発音した時の気持ち良さ、そんな、通称いのちくの10周年企画、いの祭りが10/10に渋谷クラブクアトロにて行われた。
 すでに告知されていたスペシャルゲスト、鈴木茂、坂崎幸之助 (THE ALFEE) 、 暴動(グループ魂)のおかげもあって、開場時刻にはすでにたくさんの人、人、人。
 2部構成であることがアナウンスされ、19時30分に1部が開始。出囃子無しでメンバーが登場。この時点でとても絵になるバンドだ。ギターのヒロヒサカトーは背は低いけれどイケメン。同じくギターのジョニー佐藤はでっかいアフロ、ベースの大貫真也は長髪に髭のヒッピー風、サポートではあるが、ドラムの佐藤謙介もこれまたイケメン。そこに遅れて登場したのが、なぜかいつも茶色のジャケットの普通のおじさん風、ボーカル松尾よういちろうだ。一見、現国とか社会科の先生なのかな?と思ってしまいがちだが、ロックバンドのボーカリストである。
 カトーのイントロから始まった1曲目は「文豪気取り」。小気味のいいリフにフロアが身体を揺らす。ベースとドラムが絶妙に絡み、そこにジョニーのギターが被されば、あっという間に極上の音空間が出来上がる。さらにそこに松尾の詩世界が乗ると、ちょっと訳がわからない位のエンターテイメントになる。曲の終盤では早くもカトーとジョニーのギターバトルが繰り広げられ、井乃頭蓄音団がぎゅっと凝縮されたような始まりだった。 
 「さよならと言ったわけ」では、松尾がラップを決め、「昔はよかった」では、ぐっと愛しい切なさにフロアを引き込む。しかし松尾は3曲目の終わりにして「さあ、そろそろ始めようか〜」など、少々トンチンカンなことを言っていた。
 この日がニューアルバム「INOTOPIA」の発売日でもあった彼ら。次はその新譜から「悲しむといい」。カトーと松尾の共作だが、その詩が素晴らしい。悲しい時に、無理してでも頑張りなさない、だの、ほらもう一歩前へ、だの、と言われるより、この曲の通り「悲しむといい」と言われたほうが、よっぽど救われるのではないか。
 続いても新譜から、ベースの大貫が作詞した「コスモス」。大貫の繊細で切ない詞に見事に寄り添う松尾の曲(逆の場合も考えられるが)のセンスが光るスローバラードだ。皆、一言一言を噛みしめるように聴いていた。
 そんな、優しい風さえ吹きかねないフロアを一掃するかのように始まったのは、「タスマニアエンジェル」。キワモノ曲というか、いや、これこそがいのちく!というべきか。曲終わりの松尾の「なんじゃこの曲!?」発言からすると、やはり前者なのかもしれない。
 立て直し?とばかりにカトー曲、「グッバイ東京」へ。東京のど真ん中、渋谷で歌ってしまうのが格好いい。
 さらにジョニーがバンジョーに持ち替えて、そのジョニーが作った名曲、「ぼくら風まち」へ。サビから入り、松尾、カトー、ジョニーとボーカルをリレーしていく曲だ。

古い船乗りが言っていたんだ
ぼくら旅人たちが風を運ぶんだ
街から街へ 心から心へ

 特に松尾が歌うこの部分がぐっとくる。そして1部がこれで終わり、いよいよ2部が始まれば、まさに風を運んできて、今も風をどこかに運び続けている豪華ゲストの登場となる。
 少しの休憩を挟み、再びいのちくメンバー登場。ジョニーはバンジョー。カトーはマンドリンを提げてカントリーロック「ようこそ我が家へ」を。演奏と曲の良さもさることながら、松尾の詞に思わず膝を打ちたくなる。
迷わなかったかい? 道のことじゃなくてさ 
迷わなかったかい? ここに来るか来ないかってこと
 これは個人的に松尾詞の中の、断トツの名文句だと思っている。
 そしていよいよ最初のゲスト、まずは坂崎幸之助の登場だ。大歓声に包まれて登場するや、6年前になるという、いのちくとの出会いを語りだし、ふと隣のカトーに「あの時中学生だっけ?」と小ボケをかまし、「はい、あの時まだ詰め襟で」とカトーが乗っかると「そうか、あの時まだ俺も大学生だもん」と爆笑をかっさらう。これが百戦錬磨のMCだ。
 そんないい雰囲気の中、吉田拓郎の「今日までそして明日から」を。いのちくにぴったりのチョイスだ。勝手な解釈だが、元々、松尾のフォークソングをどうバンドに落とし込むかというところで、井乃頭蓄音団は始まってる気がしていて、だからこの曲が似合わないはずがない。とまれ、坂崎と並んで歌う松尾の満面の笑顔が、とても印象的だった。
 曲終わりで、息子がいたらいのちくぐらいの世代、と坂崎が語り、「いたら厳しいんだろうね。なんだそのスリーフィンガーは!とか」と言うと、以前共演したときに、スリーフィンガーを練習するように坂崎に指示されていた松尾はちょっとした息子気分だ。律儀に1年練習したという松尾のそのスリーフィンガー奏法で「あの素晴らしい愛をもう一度」へ。曲終わりで松尾がすかさず「どうですかお父さん?」と言うや「まずまずだな」と坂崎。曲が終わってもスリーフィンガーの話は続き、独学で練習したという松尾に、坂崎は「独学でもそれがその人のクセになって、それも極めればいいもんだよ、泉谷しげるなんかもそう。ただ欠点は伸びしろもないってとこ」とまたフロアを爆笑へと誘う。
 さらに、高田渡や喜劇王、榎本健一などがカバーした「私の青空」を坂崎とセッション。この3曲はジョニーがスティールギター、カトーがマンドリンと、それぞれ曲を豊かなものにさせていた。ふと、坂崎はいのちくメンバーで、曲もこのバンドのレパートリーと思ってしまうぐらい、両方自然に歌い、弾き、そして歌われていた。
 さあ、そしていよいよ待ちに待った瞬間が。呼び込まれたのは鈴木茂。まさにリビングレジェンドである。坂崎の縁で鈴木茂とも知り合えたといういのちく。ここからなぜか二人でLPレコードよりもっと前のSPレコードの話で、若干、お客さんを置いてけぼり、いや、とても貴重な話を皆、真剣に聞いていたのだと思う。そして坂崎がはけてから、鈴木茂の「砂の女」へ。鈴木茂の生演奏を聴けるだけで、鳥肌ものだが、それよりも鈴木茂の歌唱に驚いてしまった。まず声が凄く出てるし、裏声を駆使する曲なのだが、これがとても聴いていて気持ちがいい。凄いものを見てしまった。
 さらに鈴木茂が「花いちもんめ」を、と言うと、至るところで歓声が。はっぴいえんどがここで聴けるのである。しかも本人の演奏と歌唱で。その金字塔的なイントロが耳に届くと、まるでフロア全体が一つの塊になってしまったような、少なくとも一瞬はそう見えてしまった。それは、皆が一音一音を耳に焼き付ける、という意思と、その行為がそう錯覚させたのかもしれない。
 圧倒や、幸福や、衝撃やそれに似た何かを、それぞれに誰もが感じていたであろうところに、松尾から次の曲が「アンゴルモア」であることを告げられると、その誰もの頭の上に感嘆符と疑問符が浮かび上がった。言ってしまえばこれもキワモノ曲に属するのかもしれない。それをレジェンドと…
 さすがに鈴木茂はコーラスには一度も加わらなかったが、なんだか楽しそうでホッとした。さらにこの曲ではお決まりがあって、間奏で、松尾がエアギター、さらに口頭でギターの音を奏でる(?)といった流れがあり、今日はそこで、なんと、鈴木茂とギターバトルの流れに。松尾がギターソロを口頭で奏でる、鈴木茂の超絶ギターソロ、口頭で松尾、超絶ソロ鈴木茂、が繰り返されるという、とんでもない迷場面を作り上げてしまった。 
 そんなこんなも含めて、日本のすべてのバンドマンが嫉妬してしまうだろう、濃厚な3曲を鈴木茂と駆け抜けたいのちく。この恩をどのような形で返していくのだろうか。楽しみである。
 最後のゲストは暴動。少し照れ気味に登場すると、鈴木茂のギターやアンプ等が自分の立ち位置の割とすぐ後ろにあるので、気が抜けないと言い、フロアを和ませて、やる曲はグループ魂の「チャーのフェンダー」。「コピーとかされるの初めてだと思う」と暴動。いのちくパンクバージョンとでも言おうか、凄い音の厚さであった。松尾は破壊よろしく、高音のボーカルも決め、暴動も松尾以外のメンバーとのコーラスがかなりハマっていた。
 その暴動は、曲が終わるや後ろを振り返り、「茂のギターをだーってやりてぇ…やらないけどね」と爆笑を取る辺りはさすがだ。
 来年の大河ドラマの脚本をおそらく絶賛執筆中のクドカン(暴動)は、はじめ、モチベーションが見つからずにいたが、この曲に救われた、これでいいんだ、と何かを見出したという。その暴動からのリクエストで「東京五輪」へ。カトー作のバンドを代表する曲で、これもまたボーカルをリレーしていき、暴動も歌う。サビでは大合唱となり、とにかく名曲なのだが、歌唱部分が終わってからも見所が満載だ。ジョニーとカトーのギターソロがとにかく凄い。ふたりともテクニックが優れているのはすぐわかるが、決して上手いだけじゃないギターの音なのだ。きっとお互い誰よりもギターが好きで、いまだに暇さえあればギターを触っているのでは、と勝手にそんなことを思う。この日はそこに暴動のソロも加わり、最後は松尾のエレアコも含め、4人のギタリストがセンターに集まり演奏。ここのシーンはTHE BANDのラストワルツとかの雰囲気を感じてしまった。
 ここでゲストコーナーは終わり、新譜から「THE財閥」、「イキテク才能」を披露、前者はまたやべぇ曲作っただろう?と松尾がニヤリ、後者はいのちくの定番ナンバーになるであろう、ジョニー、カトー合作の傑作であった。
 さらに続けて鳴らされたのは「カントリーロード」。いのちくライブでは定番のカバー曲だ。おそらく松尾がつけたであろう、日本語詞が刺さる

カントリーロード 今の場所が
目的地だったかわからないけど
振り返るとそこにあるのは一本道でした

 それまでのすべてを肯定してしまう凄い言葉だ。
 本編最後の曲となったのは「帰れなくなるじゃないか」。バンド初期の曲で、いのちくのコンセプトであったかもしれない、松尾の弱さや情けなさを歌ったもので、曲中で、強くも優しくもあれません と歌うが聴いているうちに松尾の強さが、優しが、浮かび上がってくるのが不思議だ。
 大拍手の中メンバーがステージを後にし、その拍手のままアンコールへ。いのちくメンバーが板につくと、誰もが期待したであろう、ゲスト全員集合へ。この豪華な面子でやる曲は、「親が泣く」。こちらも初期の松尾の曲。サビの親が泣く〜では坂崎は泣き真似をみせ、間奏では「またもやレジェンドの無駄遣い!」と松尾の、
「父親の定年退職に怯え」
のセリフから鈴木茂のギターワンフレーズ。さらに松尾のセリフ、
「母親からの電話は全て無視をして」
ギュイーン(鈴木茂のギター)
という、またしても凄いことをやってしまう。その次は「宮藤さん、何か親不孝のエピソードを」と振ると、クドカン普通に喋り出し「うちのお母さんが薄毛で悩んでるんですけど、レディースアートネイチャー的なやつをやってて、ただそれが、がっつりというかふんわりみたいな、乗せてもまだちょっと薄いんですね、急に変わり過ぎないように。それをこの前捨てちゃいました。」と言ってフロア全体が大爆笑の中、ワン、ツー、スリー、フォー、のカウントからまた親が泣く〜の大合唱へ。これだけのゲストを要して、それでもどこまでもいのちくらしい終わり方であった。始まりから3時間経っていたが、それすらも短く感じるような、つまりとてもいい10周年のお祭りであった。
 井乃頭蓄音団は、来年辺りからフェスの出演とか一気に増えると確信しています。観れば、良さはすぐにわかります。

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