1455 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

一夏の恋と金木犀

きのこ帝国が歌い上げてくれたこと

 

文字通り、一夏の恋だった。

彼とは北海道で出会った。
夏のど真ん中、8月。といっても、昼は涼しく夜は少し肌寒い。
関東出身の彼はそれを好きだと言ったけど、北海道出身の私にとっては関東の蒸し暑さが異常なのだと、よくそんな冗談を言って笑った。

2ヶ月間を、そんな夏の中で過ごした。

第一印象は、「よく笑う人」だった。そんでなにかやらかしても憎めないタイプ。
見かけによらず頭はよくて、ゲームはしない、本を読むのが好き。たまに考えなしで、
行動力の塊。落ち込んだ私をよく励ましてくれる優しい人だった。

2ヶ月は短い。でも誰かを好きになるには、十分だったりする。
だけどこの恋が、長く続かないのはお互い承知の上だった。
イギリス留学中の私は、10月から始まる新学期のためにすぐにまた向こうへ戻らなければいけない。
 

日本滞在最後の数日間を東京にある彼の部屋で過ごした。
遠距離恋愛はしないと、彼が私に言った。
9月の末、その日はフライトの3日前だった。

きのこ帝国「金木犀の夜」を聴いたのはそんな時。

<<あの頃のふたりは 時が経っても消えやしないよね>>

聴いて一番、素直に驚いた。
ああこれは、すぐ先の未来の私の歌なんだなと思った。

北海道では、金木犀が咲かない。だから私は金木犀の香りを知らない。
でも彼は「金木犀の香りが、一番好き」だと言った。

次の日に原宿で、金木犀の香水を買った。
それがわたしの、夏の終わりだった。
 

彼と過ごした最後の時間は一瞬で過ぎて。
成田空港の駅、「ここで終わり」と彼は言った。
でも私は置いていくことなんかできなくて、
金木犀の香水もこの夏の思い出もなにもかも全部スーツケースに詰め込んでしまっていて。

<<いつか他の誰かを 好きになったとしても忘れないで>>

彼と別れたあと、12時間のフライトのなかで、無意識に何回も歌詞を反芻していた。
イギリスについたら、もう秋が始まっていた。
 

それから1ヶ月、忙しい日々の中で、私はまだなにも昇華できずにいる。
香水瓶の中身が底をついた時にはもう、彼とこの夏のことを笑って話せるようになっているのだろうか。

金木犀の咲かない国で、金木犀の香りを纏いながら。
この曲を聴いて、今はまだ一夏の恋に想いを馳せている。
 
 
 
 
 
 
 

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい