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日食なつこが放つ光

歌声と歌詞に心臓を撃ち抜かれて

暗闇に包まれた夜の海に放たれる一筋の光。
指標となる真っ直ぐで力強い灯台の光は、闇夜を切り裂く――。
 
日食なつこさんの歌声を初めて聴いたときに、連想されたイメージだ。
 
〈断崖絶壁切り立った崖のその切っ先に立ってんだ/もう1秒だって今の自分で居たくないんだ/目下に広がる大展望は未来の気配を孕んでいる/始めることも終わらすことも出来る〉「ログマロープ」
 
一年ちょっと前、音楽イベントの予習にと、YouTubeで見た「ログマロープ」のPV。
生命の危機を感じる、極寒の雪原が映し出された映像。差し迫ってくるような、ヒリヒリとしたピアノの音。焦燥感に駆られながらも、決意を抱いた歌詞。
 
〈鋼の心臓 打たれるたび熱くなる 矢印ばっかの世界を生意気に歩けばいい/鋼の心臓 生意気に歩こうぜ〉
 
真っ直ぐに伸びる力強い歌声に、わたしの心臓はまんまと撃ち抜かれた。
  
 
恋焦がれるがごとく、CDを買いそろえ、ライブに足を運んだ。
聴けば聴くほど、彼女の世界観に魅せられていく。
ピアノの音が、ときに魚のように飛び跳ね、ときに華麗に火花を散らし、ときに静かに星を瞬かせる。
凛とした一筋の光を想起させた歌声は、曲によって、月がさのような幻想的で切ない光を帯びる。青く皓々として美しい。
暗闇に佇む人に届く、指標のような強い光と、慰めのような柔らかい光。
 
その声で歌われる歌詞は、人間の弱さが、独特の言い回しで表現されている。
現実的で具体的で核心的で、とにかく容赦がない。
 
〈およそ表だって目立ったりはできない言うなら日蔭の小石/おどり出てみたい欲はなくもない/したいことできなことせめぎ合い〉
〈咲いた 咲いた あの子の大輪の花/羨望 あたしはいつ花開くのか/嫉妬に濡れた夜の空を齧って過ごした苦い味/理解者など未だ不要/空を穿って花火をあげろ〉「非売品少女」
 
〈道の景色が変わる日があると思っていた/今の自分と未来の自分は別物なんだって/いつかやってくるその日をただただ待っていた/あの日の僕は僕のまんま今日になってしまった〉
〈鍵の開け方の分からない夢を持っていた/出会ったころから結局一度も開けられないまんまで/そんな類のものが増えた 同じ数だけ悔しかった/抱えきれないで置いてきたものもいくつあるんだ〉「少年少女ではなくなった」
 
心の奥にしまい込んで、みんなには気付かれないようにしている部分を、言葉にされてしまう。「そんな青い部分なんて、ありませんよ」って顔をして、周りに合わせて笑っているのを、すべて見透かされているかのよう。
“少年少女ではなくなった”わたしだけど、まだまだ古傷になりきれていない、柔い部分。
 
〈情熱だけで生き残れたらどいつもこいつもヒーローだよ/守りたいのならそれなりに飛べ/背伸び程度で届くような空ではない〉
〈あの日夢を乗せて打ち上げた/ロケットの行方は今や軌道圏外/立派な理想像を描けた自分が/夢そのものより愛おしいかい〉「エピゴウネ」
 
〈叱られるのは嫌うくせに導かれたいなんてエゴの極み〉
〈嫌われるのが怖いくせに優しくできないのはバカの極み〉「廊下を走るな」
 
思わずハッとさせられる。
立派な理想を描けた自分が夢そのものよりも愛おしいか。叱られるのは嫌うくせに導かれたいのか。嫌われるのが怖いくせに優しくできないのか。
指摘されたら、反論ができない。
 
〈何回言っても伝わらないで 使いこなせもしない言葉の爪/手入れもせずに振りかざして つけた傷跡を消す薬はない〉「ヒューマン」
 
似たような痛みや感情に共感する歌詞はよくある。
「あぁ、こういう思いをしているのはわたしだけじゃないんだ」「僕のことを歌っている」と思える、痛みを分かち合う歌詞。傷の見せ合い。
しかし、日食なつこさんの歌詞は、痛みの分かち合いというよりも、相打ちに似ている。手加減なしに切りかかってくる。傷口を抉ってくる。
その分、きっと自身も傷を負っている。比喩ではない感情は、経験に則しているはずだから。
分かち合うのではなく、痛み合う。
 
普段、光を当てることのない感情や思いを的確に言い当てられると、痛みや羞恥を超えて、もはや清々しい。
ただ、彼女の歌詞は痛み合うだけでは終わらない。
弱った心を奮い立たせ、厳しくも優しく傷口をいたわる言葉が続く。
 
〈火花散らして飛んでゆけ非売品少女/ご無礼散漫で上等、せいぜい高くまで飛べよ/火花散らして飛んでゆけ非売品少女/誰も知らないそのかけ値が幾らか思い知らしてよ〉「非売品少女」
 
〈傷ついたことは確かに/多かったかもしれないけど/なくすばっかじゃなかったはずだ〉「少年少女ではなくなった」
 
〈怖気づくたんび思い出す お前が憧れたヒーローは/情熱だけで飛べたのか お前が誰より知っている/情熱だけで生き残れたらどいつもこいつもヒーローだよ/容易くないから追う価値がある/背伸び程度で届くような空ではない〉「エピゴウネ」
 
〈「廊下を走るな」「陰口叩くな」「飯は残すな」「挨拶忘れるな」/そういうことはあの頃誰もが教えられているはずなのに/忘れて生きてる探して泣いてる大人の僕らが欲しい答えは/落書きだらけの机の上で全部覚えたはずなのに/そういうことはあの頃誰もが教えられているはずなのだ〉「廊下を走るな」
 
放たれる光は、周りが暗ければ暗いほど、強く美しく輝く。
暗闇で佇む人にとって、どれほど心強く見えることか。
 
〈神秘なる心を類まれに手にした/さあ 光らすための鐘を鳴らせ/恨んでも憎んでもフィナーレじゃ笑ってる/三角の頂点のそれが強さだヒューマン〉「ヒューマン」
 
痛み合ってくれて、ありがとう。気づかせてくれて、ありがとう。
彼女の歌詞は容赦がないけど、そう思わせてくれる力がある。
 
 
10月5日、鶯谷の東京キネマ倶楽部。
日食なつこと空きっ腹に酒の対バンライブ。
 
火花を散らした演奏が始まった。
曇天を砕いて快晴にするような熱気。救難信号のすべてに耳を傾け、迷子を導くリリック。イエローライトは雷鳴のように点滅し、出演者を照らす。リスナーは両手いっぱいに手渡された音楽を自由に楽しむ。叫んで、笑って、二組が起こした逆流にどよめくライブハウス。
 
〈断崖絶壁切り立った崖のその切っ先に立ってんだ/もう1秒だって今の自分で居たくないんだ/目下に広がる大展望は未来の気配を孕んでいる/ひっくり返して遊ぼうぜ〉「ログマロープ」
 
暗闇に包まれた夜の海に放たれる一筋の光。
指標となる真っ直ぐで力強い灯台の光は、闇夜を切り裂く――。
 
ステージの上で、照明に照らし出される日食なつこさん。彼女の音楽に照らされるわたしたち。
暗闇に放り込まれたとしても大丈夫。灯台のような光が、月がさのような光が、わたしたちのもとまで届いてくれるから。

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