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ケの歌の集まり

『THE ASHTRAY』から見えたSuchmosの気概、そして横浜アリーナへ

今更ながらSuchmosである。
rockin’on.comを読むような音楽フリークなら必ず知っているバンドだから、もう説明の必要はないだろう。 彼らは11月末に横浜アリーナでワンマンライブを開催する。だからホットに違いないということで文章を投稿させていただいた。

彼らの破竹の勢いを結集した作品が『THE ASHTRAY』だ。2018NHKサッカーテーマソングである『VOLT-AGE』や、ホンダVEZELとの2度目のタイアップ曲『808』と、彼らがいかに今の社会に絶大な影響力を持っているのかを示すナンバーが並ぶ。だが、今回は他の曲に焦点を当てて考察したい。

『FRUITS』と『FUNNY GOLD』の2曲に、耳が痺れた。
『FRUITS』はSuchmosが得意とするスロウなテンポでグルーヴへと誘う楽曲である。 エレクトリック・ピアノのメロウな音色が、この楽曲の雰囲気を象徴している。おそらくフェンダーローズのエレピだろう。ビリー・ジョエルの『素顔のままで』を彷彿とさせる。ロマンチックでないわけがない。絃楽器同士が喧嘩せず、ベースの音を聴かせる楽曲であることもやはりSuchmosらしい。おかげで耳はずっと心地よい状態である。

さあ、すでに舞台は出来上がった。そしてサビが始まる。
「Mother! Father! All my lovin’……」と、YONCEはハスキーな高音でソウルフルに歌い上げる。この「All my lovin’」というフレーズで、The Beatlesの『All My Loving』を連想したのは私だけではないはずだ。Suchmosはインタビューで常々、過去の偉大なアーティストのことを称えている。Jamiroquaiしかりディアンジェロしかり Oasisしかりだ。自分たちはロックバンドだと主張している彼らのことだ、The Beatlesからの影響だって、きっと受けているのだろう。音楽が好きでたまらない彼ららしい大御所からの引用だ。また、「la la la la la la」というフレーズはサビの間奏で何度も繰り返されるが、これはベースとエレピとコーラスのユニゾンで、どこかキャッチーで頭から離れない中毒性がある。サビを印象付けるための一つのトリガーなのか。

家族への愛を歌ったというこの曲には、「Give all thanx 父と母」や「Mother! Father! All my lovin’ for you and you and me」と、家族への感謝の思いをストレートに表現した歌詞がよく登場する。特に上記は、父親と母親を指した歌詞だが、「父と母」と「Mother, Father……」では、父親と母親の順番をそれぞれ入れ替えている(「父と母」の「父」、「Mother! Father」の「Mother」のこと)、つまり両者に対して同等のリスペクトを示すため、と思うのは私の考え過ぎか。

『FUNNY GOLD』はサビから始まる楽曲。
イントロのスライスの効いたシンセサイザーが印象的だ。星降る夜を思わせる。その先に、アコースティック・ピアノが内省的な旋律を奏でる。そしてまたシンセサイザーが星を降らせる。サビではフレーズのストレートな感情表現も素敵だ。
「Do you love? Do you love me? I’ll never let your love go」
気をてらった歌詞ではないが、かえってダイレクトに胸の奥にまで迫ってくる。

サビのソウルフルな歌い方とは異なり、Aメロ、Bメロではしっとりと歌う。滑らかなファルセットを駆使して高低差のあるメロディーを展開する。ここでのギターは、そっと頬を撫でるようなスウィートなタッチが耳に優しい。ベースのリフは低く向かう転調で、浮わついた心を抑えてくれる。たとえラブソングでも、Suchmosは紳士的な態度を保つ。

2コーラス目では、エレクトリック・ピアノが官能的な音色でYONCEの歌声の色気を増幅させている。そこに「散らかったアンダーウェア」、という歌詞である。多くの人がまず口にしがちなのが「下着」や「パンツ」などであるが、「アンダーウェア」と言い換えることで情事のいやらしさを微塵も感じさせない。この言葉選びの繊細さには脱帽した。もはやこれは、遊びを分かった粋な色男達の業である。嗜みのAメロ、Bメロだ。

そこから再び叫ばんばかりのサビに入るのだ。その変遷は、甘く、時に激しい愛撫のように受け手を捕らえて離さない。これだけの艶っぽさを、20代のバンドが難なく表現していることにやはり驚くばかりだ。Suchmosは同世代のバンドとは異なり、完成されている異質の存在であることを、この『FUNNY GOLD』が証明している。溢れた色気に誰も追い付けない。

さて、これまでのSuchmosを振り返ると、どうしてもファッションとして扱われる嫌いがあったのではないかと思う。中にはファストファッションのように軽く扱う人もいたのではないか。平たく言うと、Suchmosを聴いていると語れば、なんとなくカッコいいということだ。誰しも音楽への入口はそういうものだと思うし、これが必ずしも悪いことではないと思う。

だが、彼らの意図しているところはもちろんそんな表面的なものではない。彼らはそんな扱いには嫌悪感を示すはずだ。「適当に聴くくらいならいっそ聴かなくていいです。僕らはそんなファン必要ありません」と。彼らの意図は、バンドマンとしての生き様を貫き、「グラストンベリー」という高みを目指すことだ。「シティー・ポップ」だの「オシャレな雰囲気」だの、「華やかなルックス」だの、時間の経過とともに薄れていくような言葉で彼らを括っていた人は、そろそろお暇する頃だ。そんなミニアルバムが『THE ASHTRAY』である、と僕は思う。

つまり、特に今回考察した上記2曲は、大衆ウケするポップソングではないのだ。
これまでのSuchmosの曲だって売れ線を意識したのは一曲もないが、今回の『THE ASHTRAY』は顕著に振り切れている。Suchmosの楽曲にハレとケがあるとすれば、いわばケの曲ばかりである。こういうと語弊を生むかもしれない。たしかに高揚してくる曲だってロマンチックな曲だってある。だが、今のヒットチャートに象徴されるような世間の空気が望む楽曲群ではないのだ。

賛否両論が分かれたミニアルバムだろう。それでいいと思う。
僕にとっては、Suchmosの振りかざす旗にこれからもついていくという決意を、さらに太く大きくできたミニアルバムだったが、他方でここで彼らについていけなくなるようならそれまでだし、そのことを取り立てて非難するべきではないだろう。Suchmosの、現状維持をよしとしない攻めの姿勢だからこそ、Amazonのレビューを見てみるとよく分かるのだが、反発とも捉えられる否定的な意見が現れるのだ。ただ、これで彼らが世間に迎合していないことがたしかになった。急激に膨れ上がった世間からのニーズに怖気づく様子はない。むしろ、いや、だからこそ、これまで通り好き勝手に作りたい曲を作っているように見える。それがこのミニアルバムで証明されている。
 

さあ、いよいよ横浜アリーナだ。
僕は彼らのステップアップに勝手に共鳴し、興奮している。
彼らの見ている景色を自分も一緒に見たかのような気になっている。
もっともっと大きくなってほしい。
僕らに夢を見せてほしい。
きっと、彼らの軌跡は長い間語り継がれていく。
大きな足跡となる飛躍の舞台を、心待ちにしている。

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