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音の良きかな ハナレフジ

こなれた新人の初ツアー

ご存じだろうか?

「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」

今から読んでもらうのは、そんな夜を過ごした、ある日の話である。

冒頭の和歌、実は回文なのだ。
上から読んでも、下から読んでも同じ音になる。
この歌と、宝船が描かれた紙を枕の下に入れて眠ると、初夢が吉夢になるという風習があるらしい。

そして、今回行われたハナレフジのツアータイトルは「“宝船”~僕らはすでに持ちあわせている~」だった。

ハナレフジ。ハナレグミこと永積崇と、フジファブリックが融合して生まれたバンドの名前である。
結成の経緯は、公式サイトのインタビューに詳しい。
そして、もう一点、伝えておきたいことがある。
永積くんは、かつてSUPER BUTTER DOGというファンクなバンドを組んでいた。
現在レキシとして活躍している池田貴史とともに。池ちゃんはそのバンドで、キーボードを弾いていた。

SUPER BUTTER DOG(以下SBD)は2008年に解散してしまったバンドだ。
私はレキシを知ってハナレグミを知ってSBDを知ったので、彼らがかつて同じバンドだったことにビビったクチである。
さらに、SBDの楽曲である『コミュニケーション・ブレイクダンス』はレキシを知る前から聴いたことがあったので、全てが繋がったとき、色んな衝撃があった。

さて、解散したバンドの曲をライブで聴きたい、と思ったとき、私たちはどうすればよいのであろうか。無理なんじゃないか。
現在は別の名で活動している場合、あまり解散したバンドの曲はやらないイメージがある。
それに、もともとハナレグミを好きになったのが前提にあるので、なにかリクエストのタイミングがあったとして、わざわざ解散したバンドの曲をリクエストするのもどうなんだろうか。複雑といえば複雑な気持ちである。
そんな思いを抱え、いつか『コミュニケーション・ブレイクダンス』を聴ける瞬間ってくるんだろうか、とボンヤリ毎日を過ごしていた。

話を本題に戻そう。私がハナレフジをはじめて聴いたのは、フジフレンドパークという、フジファブリックが友達を呼んでライブするというイベントだった。ただ、この時点でハナレフジと呼ばれていたかは定かではない。
このとき、ハナレグミの曲を支え演奏するフジファブリック、という贅沢な時間を過ごし、フジファブリックの曲を歌うハナレグミ、という心ときめく体験をした。
圧巻だったのはメドレーだ。
小沢健二『今夜はブギー・バック』の「心のベスト10 第一位は こんな曲だった」からフジファブリックの曲『ダンス2000』にうつった瞬間、興奮した私は10センチメートル宙に浮いていた。そして、繰り出されたSBDの楽曲『FUNKYウーロン茶』。ギターがキレッキレで最高だった。

その後、ハナレフジはフェスに出演するなど単発の活動を行なっていた。
ああ、あれでおしまいじゃないんだ、と嬉しかった。
そして、なんと、ついにツアーをやるという発表があったのだ。
これが冒頭の「“宝船”~僕らはすでに持ちあわせている~」というツアーである。

ハナレフジは、フジファブリックでやってきたこと、ハナレグミでやってきたことを持ちあわせ、フジファブリックではやらなかったこと、ハナレグミではやらなかったことも積み込んだ、そういうバンドだ。

ツアーもまさにそういうライブだった。
永積くんはバンドのことを「大砲」と表現した。
昔、大砲を持っていた永積くんは、またハナレフジという大砲を手に入れた。
フジファブリックは今までとは違うベクトルの自由と、MCの安定感を手に入れた。
シンセベースやルアンという楽器も取り入れ、多彩な音色を聴かせてくれた。
私たちは、新たに素晴らしい音楽を手に入れた。
そして彼らは、持ちあわせた宝物のうえにまた宝物を積み上げたと思う。

ライブも終盤となり、永積くんが言った。
「SUPER BUTTER DOGの『コミュニケーション・ブレイクダンス』っていう曲をやります」
あの印象的なフレーズが鳴り響く!ああ、『コミュニケーション・ブレイクダンス』だ!
こんな日が来るなんて!
興奮して飛び跳ねていると、突然、下手の舞台袖から黒い人影が飛び出した。
変な動きで踊っている。
会場中がギャァァァアアアという嬉しい悲鳴に包まれた。
池ちゃんだ!?!!!!!!
そこから長い長い。池ちゃんと永積くんとフジのやりとりに会場中が笑いの渦に包まれた。
ほぼ池ちゃんが喋っていた。
そして、池ちゃんがキーボード要塞に入るという今となっては珍しい絵面で、『コミュニケーション・ブレイクダンス』は演奏された。

「もう一曲、池ちゃんとやります」
はじまったのは、SBDの『セ・ツ・ナ』だった。
総くんのギターがめちゃめちゃカッコよかった。
夢のような時間に頭は真っ白だ。永積崇の歌に合わせフジファブリックと池ちゃんが奏でるという非常に多幸感溢れる時間だった。
SBDの『セ・ツ・ナ』を弾き終え、万雷の拍手と歓声に包まれて、ステージ脇へとはける池ちゃんに永積くんは叫んだ。

「SUPER BUTTER DOG 池田貴史!」

ああ、こんな日が来るなんて!胸いっぱいに熱さが広がった。

最後の曲。
このツアーの1曲目で初披露されたハナレフジの新曲は、アコースティックアレンジだったのだが、最後の曲はその1曲目が、バンドアレンジに変化していた。
暖色の光から一転、落ち着いた青い光がステージに満ちる。
まるで夜の海にたゆたう船にいるみたいだ。
「長き夜の 遠の睡りの 皆目醒め 波乗り船の 音の良きかな」
ハナレフジ全員の歌声が重なった。

目は爛々と冴えているのに、まるで夢を見ているような夜だった。これを吉夢と言わずしてなんと言おうか。またひとつ、宝物が増えた日だった。

そして、幾ばくか経った今もなお、私の心には、宝物の記憶がぴかぴか煌めきを放っている。
夢のような夜は終わってしまった。
それぞれがまた、それぞれの音楽の旅に出掛けてゆく。私はそれを心底楽しみにしている。

それでも、まだ、ハナレフジで出来ることすべてをやり尽くしたとは思えないのだ。
願わくば、ハナレグミの曲を歌う総くんなんて姿も見てみたい。
もっともっと「ハナレフジ」の曲を聴いてみたい。欲は深くなるばかりだ。

いつか、再び宝船が出航し、私の街へ、どこかの街へ訪れてくれるのを、待ち焦がれる日々も、また、はじまったのだ。
枕の下に、回文歌と宝船の絵を置いて眠れば、いつの日にかまた、この夢の続きを見られるだろうか。

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