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2017年5月8日

フナムシ (37歳)

星野源の歌詞の世界の車窓から(2)

シングルB面にこそ隠れた名曲がある

 

星野源の曲で、
みんなが知っている名曲といえば
「くだらないの中に」
「SUN」
「恋」
あたりがメジャーであろう。

ちょっと詳しい人なら
「フィルム」
「夢の外へ」
「Crazy Crazy」
あたりもお気に入りかも知れない。

アルバム収録曲の
「くせのうた」
「化物」
「時よ」
も人気の曲だ。

星野源の初期の楽曲は独特の写実的な世界観の歌詞が魅力だが、
最近の楽曲はどんどん踊りやすいサウンドになる一方で、歌詞はどんどん抽象的になりつつあるように思う。

どちらも星野源の魅力であり、
写実的であっても抽象的であっても、
彼にしかできない言葉のチョイスにはどの曲も「…ズルい!」と、唸らされる。

しかし、これだけは言わせて欲しい。
アルバムには収録されていないシングルB面の曲にこそ、
星野源のラフな遊びが詰まっていて、
リラックスして音楽を楽しんでいる感じが伝わってくる、
そういう素晴らしさがあるのだ。

初期の曲であっても、
歌詞が解釈よりも響きを大事にして作ってある感じがあったり、
そういう面ではYELLOW DANCERに繋がっていると感じる曲もいくつかある。

好きなアーティストができると、
通ぶって「私はB面が好きなんだよね~」と言いたくなるのはあるあるネタだが、
星野源のシングルB面は本当に素晴らしいので、
聞いたことのない人は騙されたと思って一度聞いてみてほしい。

歌詞が素敵な楽曲を、いくつかご紹介したい。

「歌を歌うときは」
(1stシングル『くだらないの中に』収録)

アコースティックギターの優しい響きと、
それに合わせて語りかけるような歌声。
アルバムに収録されていないのに、
「星野源の好きな曲は?」と聞かれて、
この曲をあげる人は少なくない。
星野源ファンと公言しているNHKの有働アナウンサーもお気に入りの一曲だそうだ。

《歌を歌うときは 背筋を伸ばすのよ
人を殴るときは 素手で殴るのよ》

《さよならするときは 目を見て言うのよ》

《好きだと言うときは 笑顔で言うのよ》

うまく歌うコツを教えてくれるのかと思ったら
ケンカの仕方から、さよならの仕方、
さらには愛の伝え方まで教えてくれる。

お母さんが5歳くらいの息子に語りかけている様子が目に浮かぶ。どれも大切なことで、真実で、愛がある。大好きなママにこんなこと言われたら、きっと一生心に残るんだろうなぁと思う。
初めて聞いたときは、うっかり泣きそうになってしまった。
 

「もしも」
(2ndシングル「フィルム」収録)

ジャズっぽいサウンドと、ゆったりとしたスローテンポにハマ・オカモトによるベースの響きが個性的な一曲。

《もしもの時は 側に誰かがいれば 話すのかな
今まであったことや 残してほしい つたない記憶を》

《時々 浮かぶ怒り 時々 消える意識
時々 浮かぶ甘い 時々 零す想い》

命の終わりが近づいている、その時が来るまでの大切な一日一日を穏やかに過ごしている、そんなシーンが見える。

人の命はあまりにも儚くて、しかしその一つ一つにドラマがあるものだ。

家族を看取ったことがある人なら分かるかもしれないが、
穏やかに過ごしているようでも、
本当に時々、どうしようもない怒りが湧いてきたり、想いが零れ出ることがある。
私も祖母を看取った時のことを思い出し、時々…のところで、いつもグッときてしまう。

「ダンサー」
(4thシングル 「知らない」収録)

軽快なリズムの明るい楽曲で、高田漣さんによるペダルスチールギターのサウンドが耳に残る。アウトロが大好きな一曲。バナナマンのコント用に書き下ろしたインスト曲が元になっているそうだ。

《誰でも帰り道に車道に飛び出して
今まで残したこと水に流したいけど》

《足を鳴らして指を鳴らして
人混みの中踊りだせ
孤独を動かして あの家着けるまで》

しかし、車道に飛び出して水に流したい、なんて
サラッととんでもないことを歌っている。
学校か、仕事で、帰り道に踊らなきゃやってられないくらいキツいことがあったのだろうか。
でも踊ることで嫌なことって忘れられるよね、という気分にもなれる。

小学生の頃、体が小さく運動神経も良くなかったのでよくいじめられていた。酷いいじめではなかったものの、地味に傷つき、一人ぼっちの帰り道で、辛いことを忘れたくて、田んぼのあぜ道をよく歌いながら踊りながら帰っていた。
それを同級生に見られて、翌日またからかわれたりもしたっけ。
それでも踊らずにはいられなかったし、今思えば、あれはあれで、楽しかった。
 

「海を掬う(House.ver)」
(7thシングル「Crazy Crazy/桜の森」収録)

星野源のシングルのラストに必ず収録されているHouse.ver。HouseはダンスミュージックのHouseではなく、「宅録」という意味で、星野源が自宅で自ら一人で演奏してレコーディングまでを24時間以内に制作しているシリーズ。鳥のさえずりが聞こえてきたりなど、ラフさも魅力の一つだ。

リズムマシンでループさせたスローなビート&ギターとボーカルのシンプルな構成で、宅録ならではのラフさがありながら、ゆったりと踊れるなかなか味わい深い1曲。

《君の中に手を入れたなら 海を掬うよ》

星野源が「スーパースケベタイム」というラジオネームで、偽名でジングル募集のコーナーに応募し、うっかり優勝してしまい、その後誰も星野源の作品と知らずに2年間そのジングルが使われていたという
「ライムスター宇多丸のウィークエンドシャッフル」というラジオ番組がある。(TBSラジオ)
この番組の中に以前
「R&B 馬鹿リリック大行進~本当はウットリ出来ない海外R&B歌詞の世界~」というコーナーがあり、あまりの反響ぶりに書籍化もされている名コーナーである。
R&B大御所の名曲も、歌詞を訳していくと、実はたとえもひねりもないド下ネタの歌詞が満載であることを検証していくこのコーナー。

「海を掬う」は、J-POPでありながら、まさにこのコーナーにぴったりの曲。つまり、ド下ネタの曲なのだ。
それを踏まえてもう一度歌詞を見て見ましょう。

《君の中に手を入れたなら 海を掬うよ》

赤面してしまったそこの貴方!
正解です。

掬い方によって、海が砂漠になったりもするのだから、
女の子の身体の扱いには細心の注意が必要である。(!)

A面の「桜の森」も下ネタソングなのだが、
実はウットリできないド下ネタの世界観を、
ウットリするようなJ-POPの歌詞に昇華させた星野源は改めて偉大だと思う。
 

「Continues」
(8thシングル「恋」収録)
2017年のツアーの表題にもなっているこの曲は、スカパー!のリオ2016パラリンピック放送のテーマソング。
まずイントロが素晴らしい。
ミドルテンポで踊りやすい。
コーラスのクレジットに森三中の黒沢かずこさんやレイザーラモンRGといった仲良しの芸人の名前が出てくるのも星野源らしくてじわじわとくる。

《命は続く 日々のゲームは続く
君が燃やす想いは 次の何かを照らすんだ
命は続く 日々のゲームは続く
足元の 地平線の向こうへ》

《輝き重なり 草木は葉を伸ばし
戸惑いぬかるみ 雨に呑まれる様な
幻 温もり 痛みさえ 向かい合った ここで》

タイアップ曲は歌詞の中にできるだけそのテーマに沿ったエッセンスを入れているという。
パラリンピック放送のテーマソングというだけあり、命の限り、腹の底から燃えていたいというような熱いメッセージ性のある歌詞にハートを鷲掴みされる。

「逃げ恥」の塩顔草食系の平匡さんのヴィジュアルからは想像も出来ないほどの熱い血潮が流れる歌詞。

これを聴いていると、私はどうしても高校球児の姿が浮かんでしまう。
泥の中にスライディングしていく姿や、泣きながら甲子園の土をシューズバッグに詰めて入る姿、後輩たちと固く抱き合う球児の姿が浮かんできて、そのアツいハートが涙腺を刺激する。

春の選抜甲子園の名シーンの写真ををネットから拾ってきてこの曲をバックにスライドショーにして見たら、やはりビンゴであった。ただ一言、「最高」である。
3塁側スタンドで、夏の青空に放たれたサヨナラホームランの弧を描く白球を見つめているような気分。

是非2017年の熱闘甲子園のテーマソングになって欲しいと密かに願っている。
 

これらの5曲はいずれもアルバムには収録されておらず、ミュージック・ビデオもなく、おそらく音楽番組等で披露されることもないだろう。

しかし、どれも名曲だと思う。
以前、1stシングル「くだらないの中に」のB面の1曲である「湯気」を聴いた時に、
YELLOW DANCERに繋がる世界観を感じ取り、大興奮したことがある。
B面の中にこそ、これからの音楽性のヒントに繋がる「何か」が潜んでいるかもしれないのだ。
そう思うと、1人の人間が作り出す音楽は、まさに生物(なまもの)であると感じられて、音楽の聴き方が変わってくるかもしれない。
これからも、星野源のシングルB面に注目したい。

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