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『化物』とは誰のこと?

「そうだよ!」星野源が代弁してくれた僕の気持ち

最初は化物だなんで思ってなかったのだ。

初めて星野源を知ったのは『夢の外へ』を聴いた時だった。テレビのCMで聴いて、頭で良し悪しを考えるよりも、体が勝手に歌を覚えていた感じだ。後からテレビで歌う姿を目にした時は、気の良さそうなお兄さんが爽やかな出立ちでのびのびと歌っているな、そんな印象だった。だけど、その後に『SUN』が大ヒットし、そのまま紅白にまで出場し、あっという間にポップスターになっていた。世間の星野源への注目度と比例して僕もますます彼への興味を抱きはじめ、他の楽曲や書籍、俳優としての活躍などを調べ漁り、あれよあれよと星野源の魅力が溢れてきて、最終的にはあっけにとられていた。

この人化物だよ、と。あまりに類まれなタレント性に嫉妬もできなかった。
 

星野源は『化物』という楽曲をリリースしていた。それを見つけた時、化物は『化物』を生み出すのだなと不思議な納得感を味わった。僕は、彼を理解する上でこの曲はとても分かりやすいと思っている。今回はその話をしたい。歌詞に込めれらた彼の暗い一面、なのにそれをポップミュージックに拵えてしまう彼の才能についての話だ。
 

『化物』という楽曲の中では、≪一人≫というフレーズが二度登場し、≪叫び狂う≫、≪奈落の底≫、≪殺す≫、≪藻掻く≫など危ういワードがとめどなく出てくる。サビは、≪誰かこの声を聞いてよ≫というフレーズから始まる。

このサビのフレーズを初めて耳にした瞬間、僕は「そうだよ!」と思った。誰もがそうだ。誰もが自分のことを理解してほしいし、自分を特別扱いしてほしくてたまらないし、自分のことを分かろうとしてくれる人を欲している。だけど、そんな個人の身勝手な感情を口するのは憚られるのが、社会というもの。もし口にしたら途端に、自己中な人、という扱いを受けかねない。だから誰も言えない。言いたいのに言えない。

僕は『化物』を聴いた時、音楽という大衆への表現力をもって、星野源は大胆にみんなの気持ちを代弁してくれた、と思った。僕ばかりじゃなく、きっと他のみんなだって自己承認への飢えを感じているはずだ。

星野源はその思いを言葉として吐き出すのではなく、歌詞にして、歌に乗せ、演奏を交えて楽曲として拵えることで、芸術として世間に受け入れさせられる。なんて素敵なことだろう、と僕は思った。マイナスなどろどろとした感情を、音楽は、星野源は、多くの人が楽しめるアートに変換できるのだ。たしかに、歌詞だけをそのまま鵜呑みにしたらアートの中でも暗く屈折した種類に振り分けられてしまうかもしれない。けれども、星野源独特の爽やかに抜ける声に歌詞を乗せたこと。そして、彼らしい楽器を用いたことで、ポップソングに仕上がったのだ。
 

イントロはマリンバで始まり、Cメロでもマリンバは躍り出る。マリンバは星野源が得意とする打楽器だ。木製の打楽器だからか、僕はマリンバの音を聴くたびに「積み木」を連想する。積み木を合わせたカチカチという音、床に落ちてカンと鳴る音。玩具で遊んでいた幼い頃を思い起こさせてくれるのだ。とても可愛らしい音だから『化物』の黒い歌詞とは、あまり似つかわしくない。それと、鍵盤の音はハモンドオルガンの音で、RPGゲームのポップな効果音のような音を後ろで漂わせている。この音に、自然と気持ちはアクティブにそして軽やかになれる。ハモンドオルガンの音も、歌詞の暗い世界とは相いれない明るい音だ。マリンバとオルガンが、歌詞の救いようのなさを助けてくれる、だなんて僕は思った。そこに、ジャジーな裏打ちのリズムが入って、ちょうどよく痺れるファンキーさ加減が全体を包んで、歌が進行していく。

だから『化物』はとてもバランスの良い楽曲になっている。歌詞の暗さが前面に出ることがなく、聴く者を不快にさせない。音楽として多方向から聴かせることで、歌詞のメッセージがマイルドに体に沁み込むのだ。星野源は俳優でもあるから、MVではビジュアルを駆使して楽曲の世界観をよりアグレッシブに表している。≪藻掻く≫心の内が激しい身振り手振りからひしひしと伝わってくる。その顔はほとんど無機質だが、一瞬笑みの射す場面もあり、見る者にさまざまな思いを抱かせると思う。

この人はどれだけの豊富な表現方法を備えているのだろうか、と、ふと冷静に考える。才能の塊である。恥ずかしいけどやっぱり僕は声を大にして言いたい。

星野源は化物だ。
 

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