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映画『ボヘミアン・ラプソディ』のサントラがヤバい。

久々に出たクイーンの新譜は、映画のサウンドトラックだった。

フレディ・マーキュリーがこの世を去って27年。音楽業界は今、鳴り物入りで公開される映画『ボヘミアン・ラプソディ』の話題で静かな盛り上がりを見せている。
 

1997年生まれの私にとって、これが生まれて初めての、テレビまでをも巻き込んだ「クイーン旋風」である。連日流れるテレビCM、企業コラボ、キャンペーン、雑誌の特集に企画展。それらは1975年を知る人々にとってあまりにもささやかであるかもしれない。けれど、この祭りに乗らない手はない。
 

さて先日、映画の公開に先駆けて、映画のサウンドトラックが発売された。曲目を見て「ベスト盤みたいなもんか」と舐めていた私は、カーステレオから流れ出したサントラを聴いて、さっそく認識を改めることになる。これは全人類買うべきだ。開始10秒そこらでそう思った。変わり身の早さが私の長所である。
 

だって、そもそもの構成がズルいのだ。1曲目が『20th Century Fox Fanfare』だもん。お馴染みのメロディが聞こえただけで、心は壮大な物語の幕開けに躍る。パブロフの犬みたいなものだ。
それが頭に入っているだけでも胸熱ものなのに、このファンファーレを奏でているのは古風なバンドではなく、癖の強く輝かしいブライアン・メイのギターだ。これで長らく映画の完成を待ち望んでいたファンが興奮しないわけがない。これはマジでズルすぎる。
 

続くは『Somebody To Love』。耳慣れたこの曲でも、「映画のサウンドトラック」という意味付けがされると、歌声はより切々と、より強い願望をもって聴こえる。
映画、この曲から始まるのかな。それならどんなシナリオになってるのかな。どんな演出があるのかな。今は敢えて、そんな空想しか述べるまい。映画公開前にサントラを売るなんて、と思っていたが、聴いてみたら期待が高まるだけだった。
 

それでもって、その次の曲『Doing All Right』がヤバい。
私はこのサントラを何の前知識もなく、曲目だけを見て聴き始めた。そのため歌い出しに差し掛かった瞬間、「えっ?これ誰の声?」と慌てて解説書を開くことになったのだ。
意外にもあまり話題に上がっていないが、このサントラで『Doing All Right』で聞き慣れぬ歌声を吹き込んでいるのはティム・スタッフェル。クイーンが結成される以前、ブライアン・メイとロジャー・テイラーとともに『スマイル』を名乗っていた、かつての青年なのである。
 

まあ考えても見れば、映画『ボヘミアン・ラプソディ』はクイーン結成のいきさつから1985年のライヴ・エイドまでを描くのだから、スマイルのヴォーカルを務めていたティムが歌う場面があって当然なのだ。しかし、その場面は特段こだわる必要のない場面でもある。演出さえ工夫すれば、ティム本人が歌う『Doing All Right』を「長尺で」用意する必要などどこにもない。
それなのにこの音源、バンドの演奏も含めてまさかの2018年新規録り下ろし。なんというこだわり。なんというファンサービス。映画という一大イベントによって実現した48年ぶりの再結成は、迅速に英語版Wikipediaへ記載されていた。この世で最も仕事が早いのは、英語版Wikipedia編集人である。
 

しかしティム・スタッフェル、ミュージシャンとして今も活躍していることは知っていたが、至極単純に、歌がめっちゃ上手い。
たっぷりとして響きのある英国人らしい声質は、フレディ・マーキュリーの無国籍な歌声とは逆方向の魅力に溢れている。音域の広さも十分で、音程の取り方の丁寧さは聞いていて心地よい。スマイルが解散したからクイーンができたのだという経緯を知っていても、スマイルというバンドのifストーリーを観たくなる。そんなことを言うと天国のフレディに拗ねられてしまうかな。でも、それくらい良いのだ。
 

もうぶっちゃけ冒頭のファンファーレと『Doing All Right』だけでも3000円が安すぎるのだが、そのあと出てくるいくつものライブ音源もCD初収録、初出の嵐。このサントラは本当に、贅沢極まりないつくりなのである。

『Keep Yourself Alive』、『Fat Bottomed Girls』、『Now I’m Here』、これらのライブ音源はどれも昨日録られたもののように良質で、舞台の上を躍動するフレディの汗の飛沫が頬にかかった気すらする。演奏の熱量も完成度も桁違い。やはりクイーンはライブのバンドであると改めて思えた。
っていうか2018年にこれだけ初収録音源が出るということは、クイーンって未公開作品や音源だけでフルアルバムあと3枚くらい出せるんじゃなかろうか。どこに隠されてるんだろう。ブライアンの枕の下とか怪しいぞ。
 

『Love Of My Life』もライブ録音だが、この音源は8割がたが観客の大合唱によってできている。この曲で合唱するのはクイーンファンのお決まりであり、観客の合唱が音源に入っているということ自体は珍しい事態ではない。
けれど、それが映画の物語のどこで用いられるのか。観客の合唱を受けたメンバーたちは画面の中でどのような反応をするのか。つくづく映画のサントラってのは良い。映画を観る前には妄想と期待が高まり、映画を観た後は思い出と余韻に浸れるのだから。
しかしこの『Love Of My Life』、そんなにスーパーハイテンションな曲でもないのに、ちょっとばかし盛り上がりすぎではなかろうか。それがいいんだけどね。
 

特殊なアレンジを施された『We Will Rock You』にはなかなかしてやられた。スタジオ音源から滑らかにライブ版音源へ移行するという発想は、発想としてはありふれていても、実際にやるとなると難しい。テンポ、ピッチ、声の調子、観客の反応など、諸々の要素が理想と上手く合致しない限り、この演出はできないからだ。
しかしそれを違和感なく「してしまえる」のがクイーンなのである。実に「いい感じに」アレンジされたこの1曲は、どう扱われるのだろうか。もうなんか音源だけで完成されてる気がするけど、楽しみである。
 

映画ではこの辺りから物語は起承転結の「転」へ突入して行くのか、『Another One Bites The Dust』と『I Want To Break Free(女装PVの撮影風景も無事映画化されたようだ)』が過ぎた後は、『Under Pressure』、そして『Who Wants To Live Forever』というシリアスな2曲が続く。
この2曲に関しては何も言うまい。きっと映画の物語の中で、感動的に使われることだろう。それを楽しみに待つばかりである。
それにしてもこの2曲、いい曲だよね。アダム・ランバート版もとても好き。
 

サントラの終盤を盛り上げるのは、ライヴ・エイドで録音された5曲だ。映画のポスターにバリバリ「魂に響くラスト21分」とネタバレがあるため、サントラへこの音源が入ることはわかり切っていた。だが、こんなに録音状態が良いというのは予想外だった。頼むブライアン、もっとライブ盤出してくれ。
 

「出オチ」と絶賛される『Bohemian Rhapsody』は、無言でピアノの前に座ったフレディが、「さあ俺たちの登場だぜ」とでも言いたげな、鐘の音を模したメロディを奏でるところから収録されている。このメロディは多分、オーケストラの演奏やオペラが始まる前に流れる開演のチャイムを意識しているのだろう。騒いでいた観客はピアノの音を聞いて、一瞬、お行儀よく静まり返る。そして流れ出したお馴染みのイントロに悲鳴を上げるのである。
さりげない演出で、会場の雰囲気を一瞬にしてクイーンの色に染め上げるこの手腕。フレディ・マーキュリー、なんともニクい男だ。
 

ガラリと雰囲気を変えた2曲目は『Radio Ga Ga』。ライヴ・エイドのフレディは喉の調子が絶好調だ。
当時、この曲は発売されてから1年しか経っていなかった。にもかかわらず、音源には75,000人の観客の揃った手拍子と歌声がしっかり録音されている。1980年代初期のクイーンは人気の低迷期だと言うが、そんな感じは全くしない。蓋を開けてみれば、バンドは75,000人のメンバーとともに完璧なパフォーマンスをしたのである。
 

『Radio GaGa』と『Hammer To Fall』の間には『Ay-Oh』、つまりクイーンのライブの定番である、フレディと観客とのコール&レスポンスが入っている。これをサントラに入れるお洒落さがイイ。
観客のほとんどがフレディのやりたいことを瞬時に理解し、声を張り上げて歌うこのコール&レスポンスは、事前に打ち合わせでもしていたのだろうかと思うほど完成されている。フレディの輝かしい歌声と観客たちの呼応は、夢のように瞼へ浮かび、そして淡く消えていく。
これが大音量で流れる映画館で、私は歌わないでお行儀よくしていられるだろうか。ちょっと怖い。
 

『Hammer To Fall』のパフォーマンスは素晴らしい。前述のようにフレディの喉の調子が良いため、狙ったところへ音がスパスパ嵌り、耳に心地よいことこの上ないのだ。なんというか、聴く福祉である。
この曲の頃にはブライアンも絶好調で、クイーンとしては少々珍しい印象の、派手なギタープレイを聴くこともできる。フレディの歌が一瞬抜けるところなど、ここぞとばかりにソロをねじ込んでくるブライアンの「らしさ」がよく聞き取れて、思わずニヤリとしてしまう。
ライヴ・エイドでのこの曲はとにかくキレが良い。まるで何十年もライブで演奏され続けてきた曲かのように完成されていて、派手で、それなのに優雅だ。
しかし実際のところ、この曲も当時はまだリリースされて1年しか経っていないのである。クイーンというバンドの完璧主義と潔癖性が存分に発揮された名演だ。
 

夢のような時間はあっという間に過ぎ、ライヴ・エイドの最後を飾るのは『We Are The Champions』だ。数曲無い気がするのは気にしちゃいけない。尺の都合ってやつである。
この演奏の素晴らしいところは、歌詞が2番に差し掛かったところ。フレディが一瞬、「歌」を「言葉」に変えて、ひしめく観客へ感謝を述べる場面だ。フレディから突然話しかけられた観客が喜びに沸き立つその瞬間、幸福は時代と場所を超え、私たちの胸に流れ込んで来る。
このサウンドトラックでの『We Are The Champions』は、万雷の拍手を送る観客へ、フレディが「愛してる」と叫ぶところから音がぼやけ、声は次第にノイズへと変わり、ぷつりと終わる。
そこが映画のラストシーンとなるのか、それはまだわからない。
開けてみてのお楽しみ、である。
 

さて、ここまでの内容で、いかにこのサントラが良いものか、3000円がいかにお買い得か、もう十分ご理解頂けただろう。ご理解いただけなかったらそれは私の筆力の問題なので、実際にお買い求めください。
しかし、これで終わらないのがクイーンなのである。
 

サウンドトラックの最後には、新たなアレンジを施された『Don’t Stop Me Now』、そして91年の録音から時の止まった『The Show Must Go On』が収録されている。
 

『Don’t Stop Me Now(2018)』は、元の音源にギターをこれでもかと詰め込み、ブライアン色を出しまくっただけのアレンジである。つまり、ラーメンに対するチャーシューメン的なアレだ。実に雑なたとえだが、聴けば納得されると思う。このアレンジ、コッテコテのブライアン色に染まっちゃってるんです。

私はラーメン屋で『トッピング全盛り』があったらつい押してしまうタイプなので、このコッテコテのアレンジが物凄く好きだ。当然1970年代の版も好きだが、どちらかと問われれば、ギターもりもりの2018年版が好きと答える。
しかしなんというのだろう。この2018年版は、言葉に言い表すのが難しい、とても不思議な感じがするアレンジなのである。
 

その不思議さの正体は多分、時代の移り変わりだ。
原曲の『Don’t Stop Me Now』が出た1970年代は、音楽の中にある音の「空間」が大事にされていた。音が薄いという意味ではなくて、音が薄いわけではないのに、パートごとの音楽がぎっしりと密集していない。概観だが、そんな音楽が好まれていた。
しかし2018年の世界で流行している音楽は、空間が非常に密集している。どこもかしこもが和音やSEや、その他の音で埋め尽くされ、みっしりとした質量を持っているのだ。
 

この2018年版『Don’t Stop Me Now』は、自己主張しまくるブライアンのギターによって、70年代版のもつ「空間」をほとんど塗りつぶされてしまっている。それはもう、作曲者のフレディが聞いたら「せっかくギターを抜いたのに!」と憤慨しそうなレベルで、ブライアンに塗りつぶされてしまっている。しかしその結果、サウンドが2018年に作曲された新曲っぽくなっているのだ。
もうこれは「バンド」の化学反応としか言いようがない。現代でも色褪せない曲の要素はすべてそのままに、70年代の空気だけを掃き出して、2018年の風を取り込んだこの感じ。すごく面白いが、同時にすごく不思議な感じもする。なんだかクイーンがいつのバンドなのかわからないのだ。いやマジで。聴き比べるとわかると思うよホントに。
やっぱりブライアン・メイってすごい。そう思った。

たぶん、天国のフレディは「台無しだよダーリン!」と騒いでいるだろうけど。
 

ここまで楽しく時を過ごしてきて、最後の最後に『The Show Must Go On』が来るのは、ちょっと反則だ。だって、今までの楽曲はすべて「物語」の中に入れる曲だったのだ。しかし、この曲だけは違う。この曲はファンにとっても、クイーンにとっても特別な曲で、決してフレディの栄光の物語の中へ入り込めるような曲ではない。
つまり、わたしたちはここにきて初めて、「物語」という虚構から「現実」へ引き戻されるのである。

楽しい物語は終わって、私たちは現実に返される。明るくなる映画館の座席で、ふとフレディがこの世にいないことを思い出す。そのとき私たちの脳裏に浮かぶのは、『The Show Must Go On』の、命を懸けた絶唱なのではないだろうか。
たぶんこのサントラは、そこまでを計算して作られているのだ。
 

このサントラは、映画のサントラとして完成されていつつも、ただのサントラ以上の価値がある。
ヒット曲はだいたい網羅されているから入門編としても丁度良く、コアなファンほど楽しめる要素もたっぷりだ。
長々と書き綴ったが、結局のところ、私が言いたいのは、「みんなサントラ買おう」、たったこれだけのことなのである。

みんな、サントラ買おう。

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