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2017年5月9日

黒田往宏 (30歳)

チャットモンチーとリスナーの生命力

「ミカヅキ」に感じ続けた、ただそこにいることの大切さ

 20代という月日は、青春と呼ぶには少し恥ずかしくもあり、また、人生を語るにはまだまだ早く、微妙で、なんとも言葉にしにくい月日だ。

 ふと空を見る。闇夜に浮かぶのは、口にくわえた煙草の煙と、三日月。

 「ミカヅキになりたかった・・・」

 両耳に詰め込んだイヤホンから聞こえてきたのは、橋本絵莉子の歌声。

 チャットモンチーの3rdアルバム「生命力」が発売されてから10年が経つ。新進気鋭のガールズバンドだった彼女たちも、様々な経験を経て、日本を代表するロックバンドになった。

 「落ちていく自分に 紺の絵の具を足して ぐちゃぐちゃにした」

 私の目に映る三日月は滲んで歪む。
 煙草のにおいと、静かにたたずむ都会が私の五感を少しだけ刺激する。
 
 やさしくもないし、冷たくもない。叱るわけでもなく、慰めるわけでもない。
 ただそばにいる。チャットモンチーの「ミカヅキ」も、夜空に浮かぶ三日月も。

 「ミカヅキになりたい
  悲しみのかけらを持たない
  幸せなあなたになりたい」

 「私が走っても立ち尽くしても
  必ずあなたはそこにある」

 「生命力」が発売された当時、大学生だった私は赤い原動機付自転車にまたがり、一人暮らしのマンションで暮らしていた。将来に悩み、恋愛も成就せず、お金もなく、自身の人生に思い悩む年頃であった。

 田舎から都会へ移り住み僅か2年であったが、心に思う故郷は遥かに遠かった。小さな都会のマンションの一室で、傷だらけの日常と向かい合うしかなかった。

 そして、30歳になった今、私は今も夜空を見上げながら三日月を見つめている。あの頃から様々な出来事に巡り会ってきたのに、私自身は何も変わっていないような気さえする。
  
 それでも変わらず、ミカヅキは、ただそこにある。
 そして、私もここにいるのだ。

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