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終わらない放課後、マテリアルクラブにて

小出祐介、部活はじめるってよ

Base Ball Bearの首謀者・小出祐介による新プロジェクト。ソリッドでポップなギターロックを目指すベボベの信念。それを尊重しながらも、その器から溢れ返ってしまう小出氏のアイデアが具現化される場所、それがマテリアルクラブだ。チャットモンチーを完結させたばかりの福岡晃子をパートナーに迎え作り出したDTM/打ち込み主体の音楽は、ベボベでは聴くことのできない新鮮な響きを持つものだった。

気心知れた仲間たちと一つの作品に向かっていく制作は会員制の”倶楽部”という字がぴったり。様々な人々が自由に出入りし、音楽が鳴っている場所という意味では、あの”クラブ”っぽくもある。それでいて、制作スタジオをラボと呼んでいたらしく、楽曲作りを研究と称して結果を追い求めるその姿勢は部活動にもよく似ており、総合的にクラブという言葉はとてもしっくりくる。そんなプロジェクトにより生み出された音楽の最初のコレクションが、1stアルバム『マテリアルクラブ』だ。

1曲目「Nicogoly」は言うなれば宣誓のような曲だと思う。音楽だけでなく、映画、漫画、本、あらゆるカルチャーに加えて、出会った人々や出来事を調合することで新たな表現を求めるという、このプロジェクトを”煮こごり”というパワーワードで見事に言い当てている。ベボベにおいても、インプットの参照元をそれとなく示すことはあったが、ラップという手法を用いることでより生々しいアウトプットに仕上がっている。

続く「00文法(ver.2.0)」はマテリアルクラブが初めて世に出した楽曲のアップグレード。表現を残していく意義のようなものが、悠久の時間軸の中で描かれる。「そのまま動くな」という楽曲の中核を担うパンチラインは、アドリブで出てきたものだという。センスの蓄積は、即興でも強い言葉を引き寄せることを、この歌がはっきりと物語っている。

と、この頭2曲は小出氏の日本語ラップへの愛が剥き出しな印象だ。過渡期として様々なアイデアを思いつくままに形にしたベボベの3.5枚目のアルバムやその付近でのiLLとのコラボにおいても、ラップへの憧憬は垣間見えていた。つまりこのプロジェクトのキーワードはラップか、と思っていたけどそれは浅はかだった。このラボラトリーから生まれる音楽は言うなれば研究成果であり、実験結果。これ以降は、そのゴールのない作業の痕跡のような歪な楽曲が続く。

1聴目のインパクトで言えば、3曲目「閉めた男 feat.吉田靖直(トリプルファイヤー)」はあまりにも巨大だ。実のところは大変シュールなエピソードトーク、しかしそのカットアップで構築される不気味な言葉の羅列。時折入り込む観客の笑い声のようなものも不穏だし、終盤の気の抜けた明るいフレーズもなんか怖い。人物が話している状態をその人物の価値観も含めてアートとして仕上げる挑戦をしているように聴こえる。

4曲目「Amber Lies」は、Reiを監修に迎えた全編英詞による歌唱。嘘を重ねながら時間を経て固まり、皮肉にも輝きを放っていくことを”琥珀色の嘘”と表現しているのだろうか。切ないメロディにシリアスな内容だが、日本語だと伝わりすぎてしまう言葉も英語に変換することで敢えて曖昧にぼかせていることがよく分かる。これもまた、ベボベでは行ってこなかったことを自らの身体を通すことで芽生える新しさをパッケージしているようだ。

衝撃のコラボという点では2018年1位かもしれない。5曲目「告白の夜 feat.TOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)」。胸キュンと熱情が入り乱れる歌詞にいかつすぎるキャスティング。色々とギャップしか感じないのだが、脚本家兼監督・小出祐介の目からすればイメージが強く合致したのだろう。ダンディさと少年性の同居という点を踏まえたのだろうか。メロウな楽曲に渋い歌声、聴けば聴くほどハマってくる。今まで誰も信用してこなかった説が、たった1本の論文で覆ったような、そんな驚きに満ちている。

6曲目「Kawaii feat.岸井ゆきの」も一般的な音楽作品では到底聴くことはできない代物だろう。女優・岸井ゆきのによる動物番組風の癒しナレーションに、ハードなビートを当て、怪しい高揚を誘う楽曲。架空の生物についてディテールを語っていくのは小林賢太郎のコントっぽいなぁと思いながら、よくよく聴くと楽曲の誕生について解説していることが分かる。メタ構造ともまた違う不思議な骨格を持った生命体を彼らは繰り返す実験の末に生んでしまったのか。

異彩を放つ完成品の数々、その後に配置された7曲目「Material World feat.Mummy-D(RHYMESTER),Ryohu(KANDYTOWN)」では基本指針が初めて他者の視点を交えて語られる。客観的な論客として持論を展開するD氏と、小出氏の旧知の友人としてリリックを綴ったRyohu、2人の異なる関係性の人物の登用も、このプロジェクトを対象化するのに一役買っている。歌い出しの「すべては素材さ」というモットーを踏まえれば、この前の4曲も納得をもって回収できている。

8曲目「Curtain feat.岸井ゆきの」は、朗読のみの作品。小出氏が詞を手掛けているとはいえ、自身のプロジェクトでゲストのみ、楽器の鳴りはなし、というこのトラック。どう考えても異常なのだけど、もう既に常識が通じないアルバムと分かっているので、妙に腑に落ちてしまう。「Kawaii」とはまた少し違う、岸井ゆきのが女優として刻んだその表現も、このプロジェクトではひとつの音楽になる。無音の上に滔々と語られる青春小説の一遍。どこか不安定で、危うくて、胸が騒ぐ。この作品中では最もBase Ball Bearを感じる言葉選びだが、心情が徐々にマテリアルクラブという存在に接続しながら終わっていく。

波音のSEからそのままフェードインする9曲目「WATER」。クールなリズムと壮大で冷たいシンセ、歌としてのスケールも大きく、このアルバムを丸ごと包み込むよう。音楽シーンへの危機感から社会情勢まで、ベボベの前作『C2』的な視座が久しぶりに登場する。全編通しても、『C2』の終曲「それって、for 誰?part.2」を連想させるワードが並ぶ。砂漠と水、両極端なテーマで、音楽への乾き/渇きを表現しているのだと解釈してみる。

この奇作を締めくくる「New Blues」は、このアルバムでは唯一とも言えるオーソドックスな歌モノ。ベボベの目下最新作、2017年リリースの『光源』で花開いたファンクネスを更に発展させ、SANABAGUN.のホーン隊とパスピエ成田ハネダによる鍵盤を取り入れたアレンジで優れたポップソングとして結実させている。本作でも屈指の明朗で自分語り的な歌詞では、過去・現在・未来を往来しながら小出祐介の素直な思いの吐露が聴ける。

現在、ベボベが行っている3ピースでのライブは、アッパーかつ肉体的なもので、最新作『光源』で示したスタンスとは少し違う。まだ予測段階だが、恐らくベボベとしてはこれから『光源』的なアプローチを封じるのではないか。そういう意味では、マテリアルクラブで『光源』で手にしたメソッドをネクストフェーズとして見せているとも言える。こう考えると、マテリアルクラブとベボベは決して切り離せない関係なのだ。

『光源』のラストを締めくくる楽曲「Darling」の歌詞中には<Darling 強い光 時の女神/マテリアルな僕を琥珀色のリボンで撫でてゆく>というラインがあり、ここで既に「マテリアル」が(「琥珀色」も)登場している。偶然のような必然のような伏線のようなミスリードのような。小出氏の脳内にストックされていたこのワードが、このプロジェクトの主題である「すべては素材だ」に繋がるものとして再び引っ張り出されてきたのだろう。マテリアルクラブにおいてはBase Ball Bearも素材。小出祐介が何かを好きになり、何かを思いつき続ける限り、終わらない放課後にてマテリアルクラブは続いていく。

<“作ってるもの”と”好きなもの”がつながってる気分 神木くん ってゆうか前田の名言 ほんとめっちゃわかるぜ>
(Nicogoly)

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