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私たちは日本のフェスでプリンスを観られなかった。

貴方の好きな洋楽アーティストを、貴方は日本で観られますか?

 お時間のある方は、これから、しばらく私の妄想にお付き合いいただきたい。

 私は、米国ミネアポリス出身のアーティスト、プリンスが大好きだが、昔から、あまり他のアーティストのライブを観ながら「あぁ、今観ているのがプリンスだったら良かったのに」とは思わないタイプだった。その時、観ているアーティストに失礼だから、とか無理やり思い込もうとしたわけではなく、実際好きで観に行っているアーティスト達なわけだからほとんどの場合、期待に違わぬ彼らならではのものを見せてくれるわけで、たとえプリンスと言えども別枠でどこかにキープされていて、その時観ているアーティストにちゃんと集中出来るからだ。っていうか、そんなことは、わざわざ改めて書くまでもないことなのかもしれない。

 それでも、例えば、ディアンジェロの様にプリンスに少なからず影響を受けたアーティストが素晴らしいライブを繰り広げた時、はたまた、プリンス自身もルーツとしているだろうジェームス・ブラウンやP-ファンク等のレジェンド自身を、あるいは彼らからの影響を受けているアーティストを、そして別のベクトルになるがマイケル・ジャクソンやジャネット・ジャクソン等からのストレートな影響やカバー・ソングでのリスペクトを目の当たりにした時に、プリンスへの思いが鮮明に浮かび上がったりすることはある。音楽とは、繋がっていくものだ。

 ディアンジェロが2015年&2016年の来日時、プリンスがやっていたキュー(手で合図を出し、バンドがそれに答えてフレーズを弾いたり、ブレイクをいれたりする)を繰りだしたり、コール&レスポンスをする様には「うおぉ、受け継がれている。」と興奮したものだし、マックスウェルが2016年の来日公演で、ケイト・ブッシュの傑作カバー“ディス・ウーマンズ・ワーク”をケイト・ブッシュ自身のセルフ・リメイク・ヴァージョンに続けて披露した際、後ろのスクリーンにプリンスが映し出された時には嗚咽を禁じえなかった。今年の夏なら、フジロックのケンドリック・ラマー。大傑作アルバム『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』からの1曲“キング・クンタ”の中で、ケンドリックがマイケル・ジャクソンの『バッド』からの“スムース・クリミナル”を引用した後に《From a peasant to a prince to a motherfuckin’ king》とキング・オブ・ポップとプリンスへの言及をするが、そのかなり前の段階でケンドリックがプリンスの『1999』からの“サムシング・イン・ザ・ウォーター”という(スムース・クリミナルと比べれば)決して有名じゃない曲をしっかりと引用しているところが大好きだ。フジロックでも、ひときわ思い入れたっぷりに叫んでしまった。そう言えば、ケンドリック・ラマーはプリンスの2014年の『アート・オフィシャル・エイジ』のリリース記念ライブ・ストリーミングで共演して日本でも観ることが出来たが、その時もプリンスのなかなか渋い曲(“ホワッツ・マイ・ネーム”)にラップを乗せていた。

 プリンスが2016年に亡くなる前のこと。最盛期はそれこそ毎年の様に日本に来ていたプリンスの来日公演が、何年にも渡ってない状態が続いていた。ハードコア・ファンとしては勿論、ずっと単独公演を待ち望んでいたし、会場は小さければ小さいほど、公演回数は多ければ多い程良いと思っていたのが正直なところだ。でも、本当のところ、事態はそんな贅沢を言っている場合ではなかったのだ。彼の来日の噂は、何度か立ち上がっては消えて行った。私もだんだん冷静になって、より現実的なことを考えるようになった。特に問題なのは、彼のギャラの高騰だ。全米ナンバーワンのツアー収益を上げるような彼の集客能力(2004年ミュージコロジー・ツアー)や第41回スーパーボウルでの伝説的なパフォーマンス(2007年)を見せつけてこの世の春のような状態で居るプリンスと、彼がアルバムを変則的な形態で発表したり、流通に関してレコード会社とアルバム毎のワンショット契約(原盤権はプリンスが持つ)や限られた期間に輸入盤で入手できるのみといった形のここ日本での状況にギャップが生まれてしまい、来日公演の実現はますます難しくなってしまっているように思えた。

 そんな中で私が期待していたのは、彼のきまぐれ(ギャラとかそーいうのは二の次で、しばらくご無沙汰しているし「そうだ、日本行こう!」と唐突に思ってくれること)、あるいは日本の音楽フェス、特に夏フェスでの来日だった。暑い・それ程熱狂的なファンでもない観客もたくさん紛れ込んでくる・場所取りに苦労する、と言った特定のアーティストの大ファンからすると一見ネガティブな要素が揃っていると思えるかもしれない。しかし、私も以前はちょっと引いていた夏フェスのそういった要因も、数回に渡る(時には子供達との)サマーソニックへの参戦や、2013年のビョークのために強硬スケジュールで出かけて大満足だったフジロックのお陰で、寧ろ今の(いや当時の来日しない)プリンスにぴったりではないかとすら思えたのだ。

 暑い夏でも、寒い冬でも、ライブをやらせれば天下一品の盛り上げ番長、それがプリンスだ。幾多にも渡る彼の才能の中でも、万人にアピールするのはライブ・パフォーマンスと言っても過言ではないのだ。サマーソニックであろうと、フジロックであろうと、快晴であろうと、“サンダー”の鳴り響く豪雨であろうと、彼に任せておけば間違いはない。そして、あんなに偏屈な男なのに、彼のライブには壁がない。まず、音楽ジャンルの壁がない。ポップ、ロック、ファンク、ソウル、R&B、ヒップホップ、ジャズ、ブルース、エレクトロ、歌謡曲(!)としつこい羅列になるが、それでも彼の音楽の全貌を説明出来ている気がしない。彼の曲名を借りれば、ダンス・ミュージック・セックス・ロマンスに溢れた音楽だ(ミュージックと音楽で被っているか)。そして、観客を選ばない。子供たちとサマーソニック&パシフィコ横浜でディアンジェロを観た後、高校生だった息子がふと、「プリンスが歌わせるのは《パーポー・レーン♪パーポ・レーン》とか簡単で最高だね!」と呟いていたのは笑った(ディアンジェロのシンガロングは家族で練習して行った)。また、これもその際の息子の言だが、「プリンスとか、ディアンジェロみたいに、CDと全然違うライブやる人って多いの?」と問われた時に、私は「まぁ、アルバムと違ったことやってくる人はそれなりに居るよ」とは答えたものの、そこで止めておいた。アルバムからライブへの発展の仕方が桁違いなのがプリンスで、それは将来プリンスが来日した時に息子に直に観てもらうしかない(息子は小さい頃にプリンスのライブを観たことがあるが、今では覚えていないという。因みに、3歳年上の娘はプリンスのステージを覚えているとのことだ。)、観ればわかるさ、と思ったからだ。逆に、ライブアルバムを聴いても、YouTubeやDVD、Blu-rayで、いや映画館で彼のライブ映像を観ても「本当の興奮」は伝わらないからだ。とはいえ、生前プリンスが唯一正式に発表して、現在はデジタル配信もされている3枚組ライブアルバム『ワン・ナイト・アローン…ライブ!』は必聴だし、ライブDVDの『レイヴ・アン・2・ザ・イヤー2000』や『パープル・レイン・ライブ!(アルバム『パープル・レインDELUXE EXPANDED EDITION』のディスクの1枚)』等は素晴らしいし、ライブ映画『サイン・“O”ザ・タイムズ』は必見だ。

 さて、フェスと言えば、勿論多くの人たちが集う場所だ。それは両刃の剣で、「あぁ、こんなに素晴らしいアーティストなのに日本での現状はそれに見合っていないから、今まで単独ライブに行こう!と思ったことが無い人に一人でも多く観て欲しい」「観れば彼の凄さがわかるさ」(正にフェスはもっていこいの場)という切実な希望がありつつも、一方でそれが実現すると「こんなにも好きなのに、自分が近くで観られないのではないか!?」というこれまた切実な問題が噴出してしまうのだ。でも、それも、そもそも贅沢な問題だ。歳を取ったせいだろうか、以前であれば(いや、勿論そもそも私に決定権など、はなからないのだが)席が取り易いのであれば寧ろプリンスの人気がない方がこれ幸い(←言い過ぎ)というメンタリティだった私だが、「それよりも、この素晴らしいライブ・パフォーマーが日本でも正当に評価されなくちゃ!」という思いの方が強くなっていた。まぁ、そんなの、言ったもん勝ちだし、いざとなったらどうなるかわかったもんじゃないけど。ただ、フェス常連の方々はご存知の通り、ちゃんと下準備や体調管理をしておけば、多少自分が歳をとっていたとしても夏フェスをある程度良い位置で観ることは、実際に行くまで危惧していた程は至難の業ではない。ここで重要なのは、「ある程度」というところで、「何が何でも最前列!」「中央じゃなきゃ意味がない!」なんてところに執着すると地獄を見るかもしれない。本当に好きならば、最前列でも中央でもなくたって、素晴らしい時間が過ごせるものだろう。また、近年は特に、来日アーティスト単独公演の特等席がプレミア化して、公式で非常に高額で販売されることも少なくなく、そういった意味ではフェスでの来日歓迎なところもあった(単独公演に子供達2人と一緒に行ったら、一公演のチケット代だけで3人で15万円!とかは勘弁願いたい)。

 前述したプリンスのライブの魅力、というのは、その「壁の無さ」故に、常日頃プリンスの作品を追っかけまわしていなくても、充分に伝わるものだと常々思っていた。スーパーボウルでのプリンスのパフォーマンスは、プリンスが“パープル・レイン”という強力なアンセムを持っていたことだけで伝説になったわけではない。披露された楽曲が全般に渡って良かったこと、純粋にパフォーマンスが優れていたことによるものが大きい。ただギターを弾く姿が格好良い、フレーズが格好良い、動く姿が様になる、そしてお茶目。仮に最新作品を聴き込み続けていなくても、彼のライブは観てくれたら、一発で伝わるものがあったし、それこそが日本でのプリンスの状況を本来あるべき姿に、一気に大改善してくれる特効薬だと思ったのだ。プリンスが日本の夏フェスに出たとしたら、それはやっぱり大トリだろう。マリンスタジアムでも、ホワイト・ステージでも良い、大勢集まった「日本の」観客に向けて、彼は歌い、踊り、バンドを統率し、ギターを弾き、ピアノを弾き、全身全霊で楽しませてくれたことだろう。私には、容易に想像できる。最高のステージ、盛り上がる観客、響き渡るギター、勿体付けながら茶目っ気のあるコメントを交えて自由自在にピアノで弾き語るプリンスが。私には、容易に想像が出来る。ライブを終えた後のTwitter等でのプリンスへの数々の称賛コメント、また、もしWeb上で世界生中継されているなら、言語の入り混じった絶賛のコメントが。更にはその後の各種音楽サイトや雑誌、新聞での熱いライブ・レポートが。それは、フェス開催側の方々も重々承知していたであろうことで、実際に、プリンスの存命中に、夏フェスの方々も(あるいは、単独公演として招聘しようというプロモーターの方も)動いてくれていたようだが、大変残念なことに両者のタイミングは幸せな瞬間を迎えなかった。そして、もう、「また家族でプリンスのライブを生で観たい!」という願いは永遠に叶わないものとなってしまった。

 でも、残された者達にとって、人生(Life)もライブ(Live)も続いて行くものだ。プリンスが逝去後も、彼が1985年に取り仕切ったアルバム『ザ・ファミリー』でデビューしたザ・ファミリーのメンバーで構成されるfデラックスが、ビルボード・ライブ東京で素晴らしいトリビュート公演をしたり、プリンス&ザ・ニュー・パワー・ジェネレーション(The NPG)が、構成要員が全く異なる編成でやはりビルボード・ライブ東京で2017年と2018年にトリビュート公演を行ったりした。The NPGの公演は、流石に「あぁ、プリンスがこの場に居てくれたなら」と思わずには居られなかったが。。。
 また、2017年には、プリンスが寵愛していた才能豊かな女性たちが次々と来日し、エスペランサ・スポルディング(3月)、コリーヌ・ベイリー・レイ(4月&2018年6月)、ジュディス・ヒル(5月)と立て続けに観ることが出来、冗談で「あとは、リアン・ラ・ハヴァスだな!」なんてことを言っていたら、本当に9月に来日公演があったし、10月にはエリカ・バドゥまで来日してくれた!

 故人ではなく、現実的に今、来日公演を果たして欲しい人は誰だろうか。私で言うと、フランク・オーシャンだ。来日自体はしているようだ。彼が2016年に発行した分厚いZINE『BOY’S DON’T CRY』には、60ページ弱に渡り、東京や郊外で撮影された写真が掲載されている(同誌には、彼のオールタイム・フェイヴァリット曲の1つとして、プリンスの“君を忘れない(When You Were Mine)”が挙げられている)し、東京ではレコーディングもしたようなのだが、やっぱり何と言ってもパフォーマンスが観たい。
 彼が属しているクルー、タイラー・ザ・クリエイター率いるオッド・フューチャーが2012年に発表した『The OF Tape Vol. 2(ザ・オッド・フューチャー・テープVol.2)』の中の1曲“オールディ feat. オッド・フューチャー”で、フランク・オーシャンは珍しくフリースタイルのラップ(notトップ・オブ・ザ・ヘッド)をかましているが、そこではプリンス・プロデュースのファンク・バンド「ザ・タイム」やそのメイン・マンである「モーリス・デイ」の名前をライムし、ザ・タイムのメンバーがやっていたように腕時計に目をやり、また、同じバースの後半では「水晶玉(Crystal Ball)」とのダブル・ミーニングかトリプル・ミーニングではあろうが、プリンスが1996年に発表した5枚組(乃至4枚組)の未発表曲集『クリスタル・ボール』を引用して《How many Crystal Balls, can I buy and own?》とライムしている。
 そんな紫な部分にも魅かれる部分が無かったと言えば嘘になる(フランク・オーシャンがプリンスの逝去についてタンブラーにアップした文章は、彼について書かれた弔辞で最も感銘を受けたものの一つだった)が、上記の紫色の事実が無かったとしても、やっぱり今1番ライブを観たいのは、フランク・オーシャンだ。アルバム『チャンネル・オレンジ』(『ノスタルジア、ウルトラ』や、それ以前の作品、例えば“Miss You So”なども大好きだ)『ブロンド』『エンドレス』で独特の世界に浸らせてくれた彼は、ライブではどんな世界に浸らせてくれるのだろうか。プリンスのように歌い踊ったり、弾きまくったりはしないのだろう。でも、きっと、彼ならではのパフォーマンスを見せてくれるに違いない。妄想する分には、何だって可能だ。
 2018年のソニックマニアでフライング・ロータス率いる『ブレインフィーダー・ナイト』が実現し、サンダーキャット、ジョージ・クリントンetc.らとの素晴らしいステージが実現したが、タイラー・ザ・クリエイター(←日本びいき!)が毎秋にロサンゼルスで開催している『キャンプ・フロッグ・ノー・カーニバル』(先週開催された今年は、YouTube中継を日本でも観ることが出来た!ラファエル・サディークがプリンスの“イフ・アイ・ワズ・ユア・ガールフレンド”のカバーを披露していた!!)の日本版が実現し、そこにフランク・オーシャンが合流したのなら、本当に嬉しい。そして、そのステージの中にプリンスのDNAの片鱗が伺えたのなら、感無量だ。更に、KOHHをフィーチャリングして“ナイキ”をやってくれたりしたら最高だし、feat. KOHHのヴァージョンを収録し直した『ブロンド』や、『エンドレス』、そして来るべき新作アルバムのCDやLPを会場で販売してくれたりしたら素晴らしい。来週に控えた今年のブラック・フライデー、フランク・オーシャンはまた何かアクションを起こしてくれるのだろうか。

 ライブは一期一会だ。自分がこの世から消えるまでに、私は一体あと何組のアーティストを、何回観ることができるのだろうか。

 そして、自分がこの世から消え去るまでに、一体何曲のプリンスの未発表曲を聴くことができて、ライブを含めどれだけの未発表映像を目にすることができるのだろうか。頼むよ、プリンス・エステート(遺産管理団体:責任重大)。
 
 

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