1521 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

てのひらに感じる

BUMP OF CHICKEN 「話がしたいよ/シリウス/Spica」によせて

 

透明なケースを包んでいるフィルムを、細心の注意を払ってそっと剥がした。表面に貼り付けられているシールも取っておきたいから、破いたりしないように気を付けて。

表も裏も背面のラベルも、一通り眺めたところで、ようやくケースを開ける。歌詞カードを引き出して、文字となって現れた歌詞を目で追う。最後に、慎重にディスクを取り出す。

ディスクの中身を聴く前に、心は満たされていた。
 

2年9ヶ月ぶりにBUMP OF CHICKENのCDを手にした。
11月14日にリリースされた「話がしたいよ/シリウス/Spica」だ。
 

生きていくのって大変だ、と最近思う。
BUMPは「歩くのは大変だ」と歌ったけれど、本当にその通りだ。大きな何かが無くたって、毎日必死に歩くのはそれなりに大変だ。
 

忙しい毎日に追われてぐったりしていたある日、チャマの黄色いアイコンの通知で、スマホの画面が埋め尽くされていた。

「僕達のニューシングルをリリースします」

CDが出る。その報せは疲弊してささくれだった心には特効薬だった。

発売日を指折り数えて待つ時間さえ、心弾むようだった。待てるのが嬉しい。指先を操って、いつでもどこでも好きな曲を手に入れられる時代だけれど、新しい曲が物体として手元にやってくる喜びは、やっぱり格別だった。
 

新曲を初めて聴く時は必ずイヤホンをすると決めている。歌声、ギター、ベース、ドラム、息を吸う音さえも、そのひとつたりとも聴き漏らすことのないように。

可能なら電気も消すし、何も目に入らないようにする。音と自分の二人きりの空間で、体ぜんぶでその曲を受け止める。

私なりの、はじめましての儀式だ。

幾度となく聴いて、新しい曲を体に染み込ませていく、その過程は何度味わっても幸せだと思う。
 
 

去年の夏の終わりに始まり、年を跨いで桜の開花を待つまでの半年間を駆け抜けたツアー、PATHFINDER。

ファイナルにあたる埼玉公演2日目、2月11日はBUMP OF CHICKEN結成22周年の節目の日だった。
 
 

その日、曲がこの世に生まれ落ちる瞬間を目にした。
 
 

アンコールが終わり、メンバーは一人また一人とステージから捌けていった。ツアーが終わる、その寂しさが満ちていた。ただ一人、ステージに残っていた藤くんは「みんなまだ時間大丈夫?ちょっと聞いてくる」と言って走り去った。再びステージに戻ってきた彼は、ギターを手に取った。

「メンバーにもまだ聴いてもらってないんだけど」と前置きして、弾き語りで演奏された曲は、【Spica】という名前をもらったことが後に分かった。

ツアーの中で藤くんは「やっと曲が書けた」と報告をしたことがあった。いつか君たちに聴いてもらえるかなぁ、僕らの曲を聴いてほしい、そんな言葉を早口で喋っていた。

「曲は聴いてもらうために生まれてくる、自分の中にあるだけでは使命を果たしたとは言えない」というような話をしたこともあった。

共に音楽を作るメンバーさえ、まだ聴いていない曲。それを聴かせてもらえる。本当の意味で曲が生まれる瞬間を目にすることができる。信じられないような幸運だと思った。

泣いたらいいのか、笑ったらいいのか、ぐちゃぐちゃのままで、紡がれる音に耳を澄ました。

あんなに必死に聴いたことはなかった。うまく歌えるかな、と言っていた。まだ自分の中にしかない曲を携えて、傍らにメンバーもいないたった一人で、数万の人の前に立つ。いったいどのくらいの勇気が必要なのだろうか。

その言葉を聞いてしまったら、受け取る側として、一言、一音たりとも、聴き漏らす訳にはいかなかった。
そうして過ごした数分間ののち、気がついたら、呼吸もままならないくらいに泣きじゃくっていた。
 

「手をとった時 その繋ぎ目が 僕の世界の真ん中になった あぁ だから生きてきたのかって 思えるほどの事だった」【Spica】
 

あまりのことにほとんど歌詞を覚えられなかったが、この部分だけは刻み込まれるように残った。

手をとる、誰かと繋がる瞬間に、自分の世界の中心を見出だす。
「この世界の」ではなく、あくまで「僕の世界の」真ん中。

手をとる相手のことは分からない。けれど、その繋がりはきっと、確固たる軸となって、自分の世界を支えてくれるのだろうと思った。

手をとる。
そのために生きてきた。そのくらい大きなことだった。その繋がりこそが帰る場所になる。
 

ツアーという特別な時間が終わる最後の時間に、誰かと、何かと繋がることを歌った曲を投げかける。

寂しさが加速させられてとんでもないな、と思った。とてつもない出来事だった。
 

あの日から9ヶ月経って、ようやくその曲の全てを聴くことができた。

「終わりのない闇に飲まれたって 信じてくれるから立っていられる」
「どんなドアも せーので開ける」
「汚れても 醜く見えても 卑怯でも 強く抱きしめるよ」
 

あの日聴いた曲の続きには、そういう言葉が並んでいた。

「愛してる」とか「大好き」とか、そんなことは簡単には言えないバンドだと思っている。
彼らの曲からは、そんな率直な言葉が無くても、確かに伝わってくるものがあった。傍にいる、そのままでいい、覚えているよ。
 

傍らにそっと座るような近しさを感じさせながらも、BUMPの曲はどこか、寂しさと隣り合わせだ。
 

始まれば終わりが来ること。
移り変わっていく季節のこと。
触れた手はいつか離れてしまうこと。
留めようもなく今は流れて、過去になっていくこと。
忘れていくこと。
どんな命も、いつかは終わりの時を迎えること。
同じ時間を過ごしても共有できないことが、絶対にあること。

22年前、【ガラスのブルース】で「僕はいつか 空にきらめく 星になる その日まで 精一杯 唄を歌う」と歌ってからずっと、彼らはそんな普遍のことを歌い継いできた。
 

終わりや別れを歌いながらも、彼らの曲が温かみをもっているのは、終わりや別れがあるからこそ、出会ったことや今この瞬間が愛しく輝くのだということを、同時に伝えてきたからに他ならない。
 

そのことは新しい楽曲にもよく表れていて、彼らが歌っていることの根本は、22年という歳月を経ても、あまり変わっていないのだと、私は思っている。
 
 

「街が立てる生活の音に 一人にされた」
「だめだよ、と いいよ、とを 往復する信号機 止まったり動いたり 同じようにしていても他人同士 元気でいるかな」【話がしたいよ】
 

街と人の営みを描きながら、孤独をこんなにも痛烈に、美しく描いた歌があっただろうか。

ここにいない「君」に向かって「話がしたい」と叫びながら、曲はこう続く。
 

「どうやったって戻れないのは一緒だよ じゃあこういう事を思っているのも一緒がいい」
「肌を撫でた今の風が 底の抜けた空が あの日と似ているのに」
「抗いようもなく忘れながら生きているよ ねぇ一体どんな言葉に僕ら出会っていたんだろう 鼻で愛想笑い 綺麗事 夏の終わる匂い まだ覚えているよ 話がしたいよ」
 
 

忘れていくのだ。

幸せも悲しみも、喜びも怒りも、一緒に見た空のことも、いつかは全部。時は戻らないから、前に進むしかない。何よりも確かで、さみしい。

でも、「じゃあこういう事を思っているのも一緒がいい」。

いつか忘れていくとしても、まだ覚えている。伝え合いたい、そんなことを歌った曲。すごく「BUMP OF CHICKENだ」と思った。
 

【話がしたいよ】【Spica】とゆったりと進む2曲に挟まれて、真ん中にいるシリウスはいわゆる「速い曲」と言われるような曲調だった。

「記憶は後ろから削れていく 拾ったものも砂になって落ちる」
「これは誰のストーリー どうやって始まった世界 ここまで生き延びた 命で答えて その心で選んで その声で叫んで 名前さえ忘れても 何度でも呼んで」
【シリウス】
 

楽器の音と藤くんの声がクリアに聴こえる瞬間が好きだなぁ、と思いながら、歌詞を辿って、やっぱりBUMPだなぁと納得するのは【シリウス】も同じだった。
 

【話がしたいよ】も【シリウス】も、配信されてすぐに買っていたけれど、本当に「いらっしゃい」と思えたのはCDがやって来た時だったような気がする。

宝物のような存在が、また3曲増えたと思った。
 

この曲たちは、どんな風にライブで輝くのだろう。
この先、私はどんな時に、この曲たちを思い出すのだろう。
私のこれからの人生に、どんな風に根を張っていくのだろう。
 

彼らの曲を心の拠り所にして過ごした年数も、そろそろ両手の指では足りなくなるくらい、長く、長くなってきた。

何万、もしかしたら何億と聴いたかもしれない曲たち。

そのひとつひとつの曲が呼び起こす景色や記憶がある。
曲の歌詞やメロディが、それを夢中で聴いた日々と、一緒に過ごした人たちの顔と、自分の思いと、ライブの思い出と、密接に結び付いて、ふと甦ってくることがある。

一人でいても、曲を聴いた瞬間に、世界と、昨日と、もしかしたらまだ知らない明日とも、つながるような気がした。

そんなの、やっぱりBUMPだけだなぁと思いながら、私は今日も彼らの曲を聴いている。
 

今、ものすごく、BUMP OF CHICKENに会いたい。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい