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「だから言ったでしょ? 音楽の力をもっと信じて」

横浜アリーナで僕はSuchmosに食らった

そう問いかけられた気がして、僕は泣きながら笑うような気持ちになった。
いや、もしかしたら本当にそんな反応をしていたのかもしれない。11月24日に開かれた(25日も含め2Days)Suchmosの横浜アリーナでの単独ライブでのことだ。
 

本当に彼らはただただ音楽が大好きなんだ、と痛感するライブだった。いつものライブハウスに立つみたいにゆるっとした佇まいで、6人は音を楽しんでいた。飲まれるどころか、15000人ものオーディエンスをリードする20代のバンドとは、冷静に考えると末恐ろしい。僕のほうは予期しないパフォーマンスの連続に食らいつこうと必死だった。
新曲と言われても頷いてしまうくらいに劇的にアレンジの加わった楽曲。
ステージの上で寝転がりながら歌うYONCE(ボーカル)のサイケなパフォーマンス。
照明と映像の演出で真っ赤に染め上げられたステージ……。
そんななにもかもが想像を遥かに超えていた。もちろん僕はライブを楽しんでいたけれど、それは適切な形容ではない気がする。
正確に言うとこうだ。
僕はSuchmosに食らっていた。
 

何にどう´食らった´のか、それを文章で説明するのはやっぱり難しい。きっと人によって感動した瞬間はまちまちで、僕の文章に触れてライブでの最高の思い出が色褪せてしまうようなことがあれば、それは本意じゃない。それに正直、目にしたもの、肌に感じた熱気、耳に溶けた音、すべてがすべて他に経験のないものばかりでどれを選び取ればいいのか分からないのだ。でも、横浜アリーナでの感動を少しでも共有できたらという想いはどうしても強く、ちょっと迷った。そして、考えたことではなく体が感じたことを素直に書けば、感動は伝わるんじゃないかと思った。少しでもライブとSuchmosの素晴らしさを感じ取ってくれればとても嬉しい。

……それと、書き忘れていた。来年9月に横浜スタジアムでの単独ライブの開催、春にはニューアルバムのリリースという二つの吉報はセンセーショナルだった。「ハマスタ」でのワンマンライブは、彼らがたびたび口にしてきた夢の一つで、もう叶えてしまうわけだ。おめでとう、Suchmos!……
 
 

13曲目。
忘れもしない。『MINT』だ。イントロのドラムの音が会場にバスンッと響いた瞬間に鳥肌が走った。大勢のオーディエンスが待ってたよと言わんばかりの歓声を送り、手を頭上に挙げてステージ上の6人に向かって喜びを表明している。『MINT』はスローなテンポで大きな波のようなグルーヴを演出する、Suchmosの代表曲で、ファンにはとってはアンセムでもあり、僕にとっては一番のフェイバリットだった。視界が急に狭まったように感じ、僕はただステージだけを魅入っていた。イントロだけでとうに僕の興奮度合いは沸点へ到達していたが、そこからクールダウンするどころか、徐々に体は熱くなる一方だった。気づいたら僕はYONCEに合わせて声を張り上げて歌っていた。サビへと突入する間奏でYONCEが「恥ずかしがんないで 歌声聴かせて 横浜 ベイベー」と僕らを煽った。まるで初めから歌に組み込まれていたメロディーのようにその台詞は流麗に響いた。いくらかの観客は聴き入ってしまったみたいで、遅れた形で合唱に慌てて参加していた。大合唱はどんどん大きくなっていき、このフレーズで歌声は一つのピークに達した。

≪調子はどうだい? 兄弟、徘徊しないかい?≫

YONCEがかつて所属したバンドの、メンバーに向けた言葉だった。彼が高校生の頃から活動していたバンドが3年前に解散していた。一般に知られている意味とは違って、この≪兄弟≫は隠語で、気の置けない友人を意味する。つまり、かつて共に夢を見たバンドメンバーを≪兄弟≫と呼び、またそのうち会おうぜということを≪徘徊≫なんて言い回しで不器用に伝えている。青臭くて、けれどロマンチックな、この一節が僕は大好きだった。ちょっとした日常の会話を切り取って、それをサビに据えて、人との交わりがとても大切なものだと知らせてくれる。熱いものが目頭にこみ上げてくるほどに、このフレーズは僕に響くのだった。
 

僕だけじゃなかった。この曲へのオーディエンスの反応は明らかに異様で、どうやら多くのファンにとっても『MINT』は熱くなれる曲なのだろうと思った。Suchmosにとっても思い入れがあるのだろうか、YONCEは他の曲以上に大きな歌声を轟かせた。曲が進むにつれてどんどん会場のボルテージは上がっていく。そして、YONCEは観客も一緒に歌うよう呼びかけた。24日のライブで会場のみんなで合唱したのは後にも先にも『MINT』だけだった。手を振り上げ、声を張って、皆はステージに向かって思いの丈を精一杯伝えようとする。 ちょっと恐いくらいの盛り上がりが会場を包んでいた。15000人が好きなもので一つになれた瞬間を、僕はどう表現したらいいのか分からない。ただ、感じていた。人はあまりに感動すると考えることができないんだと、僕はそこで知った。
 

煽りを受けて僕も本気で歌ってやろうと思ったが、体が思わぬ反応を示しているのが分かった。自分の中の何かが一気にしゅわしゅわと萎んでいく。
「周波数を……」
喉が詰まったみたいに声が全然出なくなった。ああ、と思った。温かい掌のようなもので、胸につたう管をきゅっ、と握られ、今度は胸が詰まった。
やめてくれって。
周りの観客は大声で歌っていた。僕はただ突っ立って、ステージ上を見つめていた。YONCEは大合唱のバトンを受け取って、再びサビを歌い始めた。僕は最後まで観客に歌わせてほしかったな、と思う。でないと、堪え切れない。YONCEの歌声は胸に響くのだ。
あのフレーズが艶やかな歌声で熱く歌われた。

≪調子はどうだい? 兄弟、徘徊しないかい?≫
 

僕はとうとう泣いてしまった。
 
 
 

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