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「No.0」で紡ぐ新たな歴史

31周年を迎えたBUCK-TICKの現在

今年の9月にデビュー31周年を迎えた、BUCK-TICKというバンドをご存知だろうか。

BUCK-TICKを知っている人の中には、昔ラジカセのCMに使われた『JUST ONE MORE KISS』という曲や、メンバー全員が髪の毛を立てていた…という印象で記憶している人も多いのではないだろうか。

バンドブームといわれる1980年代後半から1990年代前半にかけて、”バクチク現象”とも呼ばれ一世を風靡した彼らだが、現在はテレビなどで見かけることは少ない。
しかし、1987年のデビュー以降、一人もメンバーが変わることなく、現在もコンスタントに新曲を出し続けている。
ツアーでは毎回全国を飛び回り、東京都内のライブはチケットが入手困難になることも多い。
彼らのライブには、デビュー間もない頃から見ていた世代から、”バクチク現象”をリアルタイムで知らない世代まで、老若男女が集まり、YouTubeなどをキッカケにはるばる会いにくる海外ファンも決して少なくない。

彼らのすごいところは、長いキャリアの中で最もかっこいいのが常に”現在”だということだ。
だから、昔の彼らを知っている人にも、知らない人にも、ぜひ今のBUCK-TICKを聴いてみてほしい。
そんな思いから、この音楽文を投稿する。
 

BUCK-TICKは、メイクやファッションなどの見た目から、ヴィジュアル系という言葉で括られることも多い。
しかし、ロックをベースにしながらもジャンルに捕らわれない音楽性や世界観は唯一無二だ。
そんな彼らのデビュー30周年であった今年、新たにリリースされたアルバムが『No.0』である。

インタビュー記事によると、このタイトルは前作『アトム 未来派 No.9』からつけたもので、『No.0』という言葉自体に特別な意味はないというが、30周年というタイミングに「0」という数字を使ったことにはどうしても意図があるのではないかと思いを巡らせてしまう。

ここからは、少しアルバムの内容を書いていきたいと思う。
 
 

壮大なイントロから始まる1曲目『零式13型「愛」』は、ヤガミのドラムが鼓動のように鳴り響く。
命が誕生する力強さに満ち溢れた胎児の曲だ。
生まれる喜びと同時に、避けることのできない死へ向かうことも表現されており、命の重さを感じさせる。

2曲目の『美醜LOVE』では、タイトルのとおり、美しく醜く愛し合う様が唄われている。
美しさと醜さは一見正反対で矛盾しているようにも思えるが、人間はそのどちらの側面も持っているのではないだろうか。
限りある命は儚く美しいものだが、終わりがあるからこそ欲深く、醜くもなるのかもしれない。

『薔薇色十字団』から続く3曲は、ギターの星野作曲だ。
力強さと狂気が入り混じった『薔薇色十字団』も、柔らかで繊細なメロディの『Ophelia』も、彼の持ち味がアルバムの中で存在感を放っている。

先行シングルとして一番最初にヴェールを脱いだ『BABEL』は、樋口のベースが妖しく唸る。
ファンから”魔王”とも呼ばれる櫻井の神々しい雰囲気が存分に発揮されており、まさに重低音がバクチクしている一曲だ。
 

<星屑 掻き集めて 街角の映画館へ/大好きな兄と二人さ/夜のスクリーン 見つめた>
二人の男の子が仲良く並んで座る様子が目に浮かぶ、『ゲルニカの夜』。

<ママがそう 一緒だったら/膝の上が良かったな>
そんな少年の可愛らしいつぶやきから、曲調が一変する。

<突然 空が狂い出す/突然 僕らは消えた>

この曲の歌詞は櫻井が子供の頃に、前橋空襲を題材にした映画『時計は生きていた』を観た経験を元に書かれた。
音のひとつひとつが、主人公である”僕”の姿と”僕”の目に映る悲惨な光景を体現している。

これが少年の夢であってほしいが、<君はどうだい どう思うかい>という問いかけは、この物語が作り物ではないことを実感させる。

この曲が一本の映画から強いインスピレーションを受けているように、私はこの曲を聴いて、見て、感じた思いを、きっと一生忘れないだろうと思う。
 

アルバムのラストは、清らかなメロディの『胎内回帰』。
亡くなった方々の魂が、再び”愛”=母親の胎内へと戻っていく…そんな祈りのこもった曲だ。
櫻井の歌声は、強い決意のようであり、訴えのようなものも感じる。
 

生は死へ、そして死は生へと再び繋がっていくのだろう。そうであってほしい。
『零式13型「愛」』で始まり『胎内回帰』で終わるNo.0は、いつ何が起こるか分からない人生だからこそ、限りある時を今は精一杯生きていたいと強く思わせてくれた。
 
 

そして、アルバムタイトルを題した全国ツアーでは、その世界観が見事に表現されていた。
爆音に身体を揺らすだけではなく、まるで一本の舞台を見ているような感覚に陥るのがBUCK-TICKのライブの魅力だ。
 

もし、櫻井敦司という人を一言で言い表すなら、「憑依型ボーカリスト」という言葉がいいのではないかと思う。

『GUSTAVE』では人間に恋をする猫になり、『Moon さよならを教えて』では愛する人に語り掛けるように歌い上げ、『サロメ』では愛する人を殺めて唇を奪う悪女にと、曲の中の主人公が乗り移るのだ。
『BABEL』では、「震えて眠れ」と民衆に語り掛け「月光よ愛せ」と空を仰ぐ、その迫力に思わず息を飲んだ。

『ゲルニカの夜』では、少年の戸惑いや恐怖心、変わり果てていく姿までもが全身で表現され、演奏と演出のすべてに圧倒された。
今井がギターを鳴らす時は、まるで構えていた銃を放つようにも見えた。

そして、『胎内回帰』の優しい旋律と、力強い歌声に思わず涙が溢れた。
 
 

この『No.0』は、私の人生において間違いなくトップ3に入る名盤になった。
音楽でこんなにも心を揺さぶられたのは、おそらく初めてのことだ。
それは、普段生活している中ではなかなか意識を向けることが難しかったり、真正面から向き合えずにいたことに改めて気付かせてくれたからなのだと思う。

しかし、このアルバムの中に「こうしなければいけない」という答えはない。
『No.0』というタイトルに意味はないと言っていたように、このアルバムを聴いて何を思うかは、きっとリスナーに与えられた自由なのだ。
 
 

アルバム『No.0』のホールツアーは7月に幕を閉じ、現在行われているライブハウスツアーの後は、毎年恒例の武道館公演でファイナルとなる。

31年目を迎えたBUCK-TICKが、これからどんな夢を見せてくれるのか、どんなPARADEに連れていってくれるのか、ますます楽しみでならない。

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