350 件掲載中 月間賞発表 毎月10日

2017年5月11日

横山麻絵 (32歳)

10年目のグッドバイ

サカナクションと私の10年間

『今年でメジャーデビュー10周年を迎える。』
という山口一郎氏の言葉を聞いたとき、
私は10年前に初めて聴いた”三日月サンセット”のことを思い出していた。

当時私は東京に住んでいた。
友達も知り合いもほとんどいない、先の見えない孤独と不安の中飛び込んできた、
全く新しい音。
当時は音楽に関してかなり保守的だったので、
新しいアーティストを積極的に発掘しようなどとは露にも思っていなかった。
そんな私でも頭から離れないサウンド、
一瞬にして、今自分がいる場所をガラッと変えてしまうような、
「どこでもドア」のような強い力を持った曲だという印象があった。
それ以来わたしのipod nano(第一世代)の中には、何度入れ替えをしても最古参としていつもこの曲が入っていた。

2017年1月27日ZEPP SAPPORO‐SAKANAQUARIUM 2017”多分、風。”‐。
サカナクションにとって約一年ぶりとなるツアーの幕開けは、メンバーの出身地である北海道から幕を開けた。
アンコール前の最後の一曲を残し、それまでMCもほとんどなく、全力でZEPPを駆け抜けていった「風」のようなサカナクションのパフォーマンスと、時に強風、時にそよ風、たまにつむじ風…に巻き込まれる観客達。
一息ついて少しリラックスした様子のなか、
山口氏から冒頭の発言があった。

『10年目の2017年の抱負は?』
という山口氏の突然のムチャぶり(笑)に、
言葉少なに、しかし誠実に、時に笑いを誘いながら答えていくメンバー達。
ベース草刈愛美氏の『初心』という言葉。
(そして突然のムチャぶりに人一倍動揺しながら、草刈氏の後に続いたキーボード岡崎英美氏の同意見)
が、深く心に残った。

思えば私がこの仕事で食べていくことを本格的に心に誓い、正式なスタート、正式な第一歩を踏み出したのも、約10年前であった。
そして、運よく「自分の城」というものを築き、細々と、しかし確実に小さな一歩を踏みしめるように日々を過ごしている、現在の私の「初心」。
サカナクションの「初心」と私の「初心」が、私の心の中ですっと一つに重なりそうになった。そのとき、
曲が始まった。

”グッドバイ”

アンコール前のしばしの別れにふさわしい一曲だな…とぼんやりと思った時、

照明の角度が変わった。

暖色系の照明が、メンバーたちの後方から差し込んでいるおかげで、
観客席にメンバーの顔が全く分からない状態から始まったグッドバイ。

〈探してた答えはない〉

最初のワンフレーズを聴いたとき、私は今、自分がZEPP SAPPOROでサカナクションのライブを観に来ているという感覚が揺らぐのを感じた。
そこにいるのはまるで、
メジャーデビュー前のバンドがライブハウスで演奏しているような、
内に込めた強いエネルギー、野望、不安、そして「何よりも音楽が好き。」
という「シンプルな思い」だけ。
これがあの洗練された、
こだわりにこだわりぬいた独創的なサウンドとパフォーマンスで、
時代の最先端を超えて、「時代を作ることができるバンド」
『サカナクション』のコア(魂)なのかもしれない…。
と、その時私はMVやフェスでは全く観ることのできないサカナクションの本質を見た。

そこには10年前のサカナクションと10年前の私がいた。
自分を信じきることができず、時に傷つき、しかしどうしても自分のやりたいことを追及するしかできず、その結果歩いてきた道が、気が付けば10年後の自分に続いていた。

そんな想いから、つーっと涙がこぼれた所で、照明が切り替わった。

正面からのシンプルな光。
そこに浮き上がったのは正真正銘、

オリコン一位を獲得し、
ロックとクラブミュージックという今までにない新しい形の音楽を一般に浸透させ、
ロックフェスではヘッドライナーとして一番大きいステージの大トリを務め、
日本アカデミー賞の映画音楽賞をバンドという形態で唯一受賞(2017年1月27日現在)し、
カテゴリーを超えて様々なクリエイターとつながり、
20年後の未来の音楽について考えることにより、アーティストのみならず、
音楽業界、リスナーに大きな影響を与え続けている、

『サカナクション』というバンドだった。

彼らから溢れてくるのは、
ミュージシャンとしての確かな自信、
今まで成し遂げてきた夢と、
これから成し遂げたい夢、
そして変わらない、「なによりも音楽が好き」という熱い思い。

彼らはこれからも
〈不確かな未来へ舵を切る〉
だろう。
そこにあるのは、
夢、
責任感(山口氏の「やりたいことをやるためには苦手なことにもチャレンジしなくてはいけない」という抱負には、きっとほとんどの観客が勇気をもらったことだろう。)、
そして、
「音楽が大好きだ」という『初心』。

”グッドバイ”は、サカナクションの10年間を一瞬で駆け抜けた。

次の10年、彼らは何を感じ、何を作り上げ、何を成し遂げるのだろう?
そして私は何を感じ、何かを成し遂げることができるのだろうか?

10年目の”グッドバイ”は、
10年後の”グッドバイ”へと続いていく…。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
音楽について書きたい、読みたい