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悲しみを淘汰する

The Birthday「青空」の言葉

《悲しみはもう 捨てていいよ》

日々溢れる悲しみを、必死で落とさぬように抱えてきた人に向かってチバユウスケは歌う。静かに強く優しく、子供を眠りにつかせるように。そう言ってくれる人を私たちは待っていたのだと思う。待っていたのだけど、まさかチバだとは思っていなかったというのが正直な感想だ。そしてこういう言葉を歌詞として歌うことは、昔の彼がやらなかったことだろうとも思う。

10月にリリースされたThe Birthdayのシングル「青空」。収められた3曲には、どれも鮮やかな音と言葉が淡々と詰め込まれている。

表題曲である「青空」の歌詞の中で、チバは「悲しみはもう捨てていい」と言う。
この歌詞を聴いたとき、同じくThe Birthdayの曲「声」の歌詞を思い出した。3年前にリリースした「BLOOD AND LOVE CIRCUS」に収録されている。

《悲しみは 僕らの
コップから溢れ出してしまったけど
トムソーヤ 笑ってたんだ
軽やかに スキップ決めて》

この時にもう“僕ら”の悲しみが溢れていることに、チバはきっと気づいていたのだろう。だけど、まだ軽やかな笑顔で笑うことができた。「青空」で歌われる“悲しみ”は、この時よりもさらに大きくなってしまった誰かの“悲しみ”だと思える。

《ハムとビール 君はパンケーキ
ブルーベリーが 楽しそうで
ドライブインに 人いなくて
クリオネが 泳いでた》

そんな直接的な言葉で歌っていたかと思えば、ずっと変わらないチバの目で見る景色もちゃんと描かれている。
彼に見えている物語の景色。サビの強く深い歌詞の間に挟まれる、人がいないドライブインで見た風景。ハムとビールの軽い食事と、君が頼んだパンケーキの上で赤紫色のソースが線を描いている。クリオネは水槽の中を泳いでどこへ向かっているのか、目的地なんてないのかもしれないけど、自分はずっとここにいるわけにはいかない。ドライブインを出て、長い旅の続きを進み始める。

《この街に雪が 積もってスケーター
ボードを投げて 走り出したよ
明日はきっと 青空だって
お前の未来は きっと青空だって
言ってやるよ》

ジリジリと歪むギターの音が、冬の冷たく澄んだ空気のようで綺麗だ。雪が積もった朝に、喜んで駆け出す子供の透き通るような感覚が眩しい。
喜びはほんの一瞬で、すぐに去ってしまって、いつからから胸の奥にずっとある水溜りのような悲しみが消えることはないとしても。それでも、明日は青空で、遠い未来も青空なのだと言ってくれる人がいることが“強い”ということなのだとチバは知っている。「言ってやるよ」は恩着せがましく届くのでは全くない。お前のために言ってやるから、迷ったり不安になったり、絶望なんかするなよという強さと決意が優しく届く。

今年「青空」の前にリリースしたシングル「THE ANSWER」もこんな強さに溢れていたが、もっと漠然とした感覚で歌われていたと思う。はっきりと悲しみに狙いを定めている分だけ、「青空」の言葉は鋭く刺さる。

しかし続く2曲目は「STAR SUGAR BOAT」。
なんだよ、またそんな素敵なものを作ったんだ。甘い砂糖と星の、宇宙を泳ぐボート。《クールな双子座のブルース》から始まるこの曲の歌詞はずっと、絵本のような景色が続いている。

《アンドロイド 恋したって 泣いてた
全裸で 泣いてた 全力で》

アンドロイドが恋して涙を流す様子。アンドロイドが全裸で、全力で。
2番で出てくるロスカボスも私は行ったことがないが、これまた物語の生まれそうな土地なんじゃないだろうか。カモメはそこで生まれたらしい。

どこまでも続くおとぎ話のような不思議な景色だが、曲の疾走感と散文的な言葉の並びの中で物語はザクザクと描かれていく。

最後に収められているのは「FLOWER」。なんといってもギター・フジイケンジの声が入ってくるBメロが楽しく響く。こんなに良い声だったっけか、と可笑しくなってしまう。
チバとしても、この曲はフジイが歌う部分ありきで作っていたようだ。甘すぎないけど、明るく胸がすくような空気で満ちている。フジイとチバの声も相まってとにかく優しい。

《忘れないで 君が思うほど
この世界は それほど腐ってはない》

この曲、このシングル全体の核がここにあると思った。人は弱くて、悲しみは大きすぎるから、いたずらに死にたくなったりしてしまう。

《退屈な絵描き 首吊った
助かった「死ぬかと思った」だってよ》

人の弱さと、そんなところも含めた愛おしさが染みてくる。枯木や荒野にも小さな花が咲いて、いつだって希望を忘れない人たちがいる。真っ赤なラジオからは今日も音楽が聞こえてきて、地面が割れたら何か面白いことが起こるのだ。未来は果てしないけれど、怖がるようなことばかりじゃない。

この曲はライブで一際鮮やかに響く。今秋のツアー「TOUR 19 NIGHTS 2018 AUTUMN」のうちの1公演に行き、ライブでこの曲が演奏されるのを見た。
イントロからフロアに明るい空気が広がり、フジイがマイクに向かって歌うと観客は一斉に彼の方に手を伸ばす。彼は目を細めて、難しそうな気恥ずかしそうな顔をして、ちょっと小さめの声で歌う。観客は嬉しそうに、どこか友達を茶化すような歓声を上げる。そのすべてを眺めて満足そうなチバ。きっと本当に、こんな景色を思い浮かべて書いた曲なんだろう。広がっていく幸福感で、まさに花が咲くような曲だ。

このシングルは最初から最後まで、3曲かけてゆっくりと確実に悲しみを癒すように作られていると思う。背負った悲しみが大きくなりすぎた人たちに、この世界はそれほど腐ってはないことをさりげなく優しく教えてくれる。このシングルに溢れる強さと優しさこそが、確かに未来を青空に変えていく。

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