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飼い殺すな、我が人生を

椎名林檎20周年記念ライブ「(生)林檎博'18 −不惑の余裕−」

「誇り高く生きるってどうすればいいの?もっと自由に生きたい」と考えていた秋だった。

アラサー
女性
独身
婚活
奥手
働き盛り
草食系
コミュ障
根暗

多分こんな言葉達が自分につきまとっているんだろうな、と自覚的になりつつも、幾つになってもカテゴライズの箱の中に収まりたくないと思う私がいる。
思うままに、恥や不安に怯えることなく、私は私でいたい。

なぜこんなに生きづらいんだろう。でも、いまに始まったことじゃなかった。ずっと私は生きづらかった。
椎名林檎の音楽に出会った中学生の時も、社会に出てからも、それからもずっと。生きづらかったけど、1人じゃなかった。

社会に向けて堂々と啖呵を切る椎名林檎の背中が
椎名林檎自身の母なる視点が
椎名林檎が描き出す女性像に同調する、私と同じ無数の”私”が

常に側にいた。

破壊的な衝動を孕んだ危うさ、どうしようもない悲しさ、どう考えても我が侭だけど耐え難い制約といった「ぼんやりとした不安」が、自分以外には理解し得ないことのようで、実はたくさんの人が抱えているものだと知ったのは、椎名林檎の音楽を通してだったと思う。

まぎれも無くたった1人だけの、私の人生を勝手に投影しながら椎名林檎20周年記念のライブ「(生)林檎博’18 −不惑の余裕−」をさいたまスーパーアリーナで見た。終始、手の届かない椎名林檎を前に、なんとなくこのライブは他人事ではなく自分事なのではないかと錯覚していたようだった。

どの曲も何度も聞いているはず……でもなんとなく知らない部分もあって、前刺さった部分とは異なる箇所に感動して。どの曲も、「この曲よく聞いてた、懐かしい、感動!」ではなく、「そんな顔もあるの?もっと知りたいんだけど」の方。自分の記憶や軌跡がどんどん塗り替えられていくのが快感だった。
Mummy-Dとコラボレーションした「本能」も、歌舞伎町のグラフィックをバックに演奏された「歌舞伎町の女王」も、私が思春期に浴びるように聞いていた曲と同じだとは思えなかった。椎名林檎が変化を遂げ、私もまた確実に変化している。

私のハイライトは「ありきたりな女」だった。シンプルな照明に照らし出された椎名林檎が歌い出すと、母性の海に浸かっているかのような安心感があった。人生を進めていくにつれ失っていくものに対して、怖いと思わなくて良い。はっきり「GOODBYE」と告げて今目の前にある大事なものを守ろう、という吹っ切れた人生観を目の当たりにし、がんじがらめの私はほんの少し楽になった。

「悲しさ」を隠して震える身体に生の実感を持つ「カーネーション」や、誰のものでもない私の人生は、私の自由にして良いと声を大にして歌い上げる「人生は夢だらけ」も、私でしかない私の、ありのままの存在を丸ごと肯定してくれているように感じられた。
自分勝手だけど、生身の私がそう感じたからそう思っておく。私は泣いていたが、それがなぜなのかわからない。これが感動ということなのだろうか?名前のない感情から生まれた自然発生的な涙が次から次へと目から落ちていった。

ゲストで登場した宮本浩次とのデュエット「獣ゆく細道」は2人の才能がしのぎを削っていて、椎名林檎も宮本浩次も本当に獣のようだった。「獣ゆく細道」を聞いている最中は絶えず爆笑して泣いていたし、絶叫していた。拮抗する熱量はあまりに贅沢でキャパオーバー。文字通りぶん殴られるような衝撃の中で熱狂して倒れると思った。

「獣ゆく細道」が主張する“自分の才能を信じろ”というメッセージは、凄まじい程の才能の解放をもって、説得力を帯びているのだと改めて実感した。私は私の人生をフルに使い切れるだろうか。

そして、アンコールの最後に演奏された「夢のあと」。「ニュースの合間に寝息が聞こえる 期待したよりずっと静か」の歌詞が、これまでに自分や社会に起きた様々な出来事を思い起こさせた。全く想像していなかったことがたくさん起き、その度に色々な気持ちが沸き上がった。余韻に浸るほどの幸せも、耐え難いような絶望感もあった。生きることは、そういうことの繰り返し。現実を俯瞰しているような気分になった。

エンドロールの「丸の内サディスティック」では、僧がノリノリでダンシングしていて、それまで割と真面目に感慨にふけっていた私は「マジ、ウケる」とつぶやいてマジでウケてしまった。“将来僧に成って結婚して欲しい”の歌詞に登場する僧は、ダンシング僧だった。
オチまで用意されているなんて……。椎名林檎の作り出すエンターテイメントの抜け目なさを痛感した。

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