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過越の晩餐は道玄坂の大広間で

LILI LIMIT解散前最後の東京公演『size L』で付された注釈

オルタナティブロックの「エモさ」も、無調音楽が胸に残すざわつきも、慣れてしまえば傲慢にも「こういうもんだ」と流してしまうし、心や耳が疲れているときには疎ましくすら感じられる。その反動で週末の夜はNHK-FMばかり聴いていた頃、月例番組から流れてきたLILI LIMIT“Festa”冒頭の男女混成コーラスを聴いた瞬間、感じたことのない刺激が受容野を走った。凝り固まった認識を突き崩されたことへの戸惑い、ずっと待ち焦がれていた何かが到来したことへの歓喜、彼らの音楽の崇高さにただ頭を下げたくなる、そんな気持ちが頭の中をパレードして、盆と正月が一緒にやって来たような目まぐるしさだった。その数週間後にはバンドのメジャーデビューが報知され、「芸術性とポピュラリティーの両立」に挑む気鋭の若手として彼らに期待を寄せる論評を目にするようになった。それからわずか3年足らず、LILI LIMITは解散という道を選んだ。

結成の地、山口でのラストライブを月末に控えた2018年12月3日。解散前最後の東京公演『size L』で、全国流通盤発売後長らく活動拠点としていた東京にLILI LIMITは何を残していったのか。同名のラストライブ前なので、曲目や演出に関する言及は最低限に留め、フロントマン牧野純平さん(Vo/Gt)が目の前の観客に投げかけた言葉を中心に公演を振り返りたい。

SEを挟まず、舞台下手から姿を現したメンバーが言葉なく定位置に収まる。私を含め、解散発表後はじめて彼らを目にする観客も多かっただろう。メンバーを煽るのでも温かく迎えるのでもないぎこちない拍手だけが響く異様な空間の中、饗宴の幕は上がった。始まってしまえば、いつものLILI LIMITのペースだ。牧野さんがジェンダーや年齢を超越する独特の脱力感でもってダンサブルなサウンドを乗りこなし、舞台の縁ギリギリに立ってフロア上の空気を吸い込み、柔らかい声に替えていく。後方では楽器隊の4人が円形に向き合い、あらためてアーティキュレーションを確認し、気合を入れ直しているように見えた。

公演序盤でイントロに乗せて牧野さんが告げた「歴史的な日を作りましょう、共にね」「今日ここにいるみんなでこの曲を完成させていこう」という言葉が示すように、観客との双方向的な交わりを通じて、楽曲をそしてバンドをさらなる高みへと押し上げようとする気概が伝わってくるライブだった。バンド終結の日が近づき、主客互いに感謝を伝え別離を惜しむという面が強調されがちだが、最後までベストアクトに対するストイックな姿勢を貫いた格好だ。彼らに鼓舞されて、牧野さんが促すとおりに私もコーラスを重ね、自分が心を揺さぶられた楽曲の一部になったかのような感覚に浸った。彼はイヤホンを外し、フロアに響く音にダイレクトに耳を傾け、満足気にうなづいた。

本公演で目を引いたのは、フレーズの間に歌詞の注釈を付すという形で、バンドからのメッセージが何度も伝えられたことである。“LIKE A HEPBURN”で歌われた勇気への希求を「みんなにたくさんもらったけどね」と乗り越えられたものとして振り返り、“Festa”の「可能性は自分次第」という警語を「 本当にそうだよ!」と念押しし、同曲で一番盛り上がる「私を救い出してよ」という叫びを「本当にみんなに救われました!」と畳み掛けた。LILI LIMITの楽曲には、感情そのものの表出というよりは、一歩引いた見地から微細な心の動きを描写しているように聞こえる歌詞が多い。例えば「めっちゃ晴れて気持ちいい!」みたいなストレートな快苦の表現ではなく、レースカーテンの隙間から射す光を見て「あそこの影の動き、おもろいな。でもって、おもろいって自分思ってんな」みたいな。曲間のMCで歌詞に込めた意図について、牧野さんは次のように明かした。

雨が降りそうだと思うと降る。
何かが壊れるかもと思うと壊れる。
1ヵ月で2、3本もペンがどっかに行ったり。
そういうことない?あるでしょ?
こういう日常の不思議、それが俺が歌詞で表現したかったこと。

私がLILI LIMITの歌詞に持っている印象と彼の言葉の本意がどこまで重なるかは分からない。けれど、日常の機微を丁寧に描写する彼の歌詞が作品の重要な位置を占めている点について、作り手と聴き手の間に齟齬はないだろう。そんなある種冷静な目線から綴られた歌詞に対し、熱情溢れるフロアを前にして湧き出てきた言葉でもって注釈を加えるのは、既存の歌詞の形式・作詞の手法からの明らかな逸脱である。牧野さんが公演の序盤で宣言したとおり、楽曲が現在進行形で完成に向けて磨きあげられているのだ。“Kitchen”の「気付いてよ“みんなのこと”愛してること」(原曲は“あなたのこと”)という改変には恥ずかしくなったけど。

アンコールでは牧野さん以外のメンバーもMCのマイクを取った。かつてMew来日公演のオープニングアクトとして立った舞台にワンマンライブで戻ってきた喜びやフロアを埋めた観客に対する感謝を述べた。さらに鳴り止まないダブルアンコールを所望する拍手に応え、再び登場した牧野さんが静かに言葉を紡いだ。

解散理由この場で聞きたい人います?
解散ライブで解散理由を話すのってシュール過ぎませんか?
僕のわがままだけどSNSで言うのは違う気がしていて、ZINEで伝えたい。
そこは表現者なので譲れないです。
友達の間で回されたり、この場で知り合った人とそれをきっかけに繋がり続けてくれたら嬉しいです。

クリーンなピアノの独奏に温かみのあるバンドサウンドが重なり、表現者としての矜持を見せつけたMCの続きが優美な声で歌われた。常々、アートワーク・映像・ライブグッズ等も含めて彼らの作品として見てほしいと述べてきた牧野さんのこと、アートワークを担当してきた実兄・正幸さんと練りに練ったこだわりのZINEを準備しているのだろう。この少数部数限定のZINE、東京公演の物販分は完売していて、残す山口公演と通販分も即完売が予想される。私は終演後足早に会場を出たので、ZINEを予約した方と接点を持てなかったし、バンドが意図しない拡散の仕方だと思うのでオンライン上で画像を探そうとも思わない。だけど、いつか巡り巡って私の手元にも冊子が回ってくることを予感している。その時にようやくLILI LIMITの全貌を掴むと共に、牧野さんが表現しようとした日常の不思議に到達するのだろう。

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