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アジカンへ帰省する

開放と肯定の『ホームタウン』

どこまで意図したかは分からないが、ASIAN KUNG-FU GENERETIONが9枚目のアルバムに『ホームタウン』と名付けたのは納得だ。活動歴20年を超えるバンドゆえ、ファンも時期ごとに入れ替えが多いと思うのだけど、このアルバムを聴いて「こんなのアジカンじゃねえ」と言う人は恐らく居ない。しばらく聴いてない人も、最近ハマった人も、みんなが思い描くアジカンに出会えるアルバム。僕からすれば、ロックバンドにのめり込んだきっかけがアジカンだから、もはや故郷、もっと言えば実家。ただいま!おかえり!という聴き心地だ。

ただ、過去作とは一線を画す音像がこのアルバムの画期的な部分だ。低音が体の奥深くまでブンブンと唸り、楽曲の鳴り方に立体的な奥行きを付与した今作のプロダクトは素人耳にも斬新なインパクトを残してくれる。太くて重いのにやかましくない、絶妙にデザインされた豊潤で温かみもあるサウンド。開放的でオープン、ポップでメロディアスなサイドのアジカンの魅力を、この最新の音が新鮮な響きを持って伝えている。
 

歌詞の部分では、市井の生活者を優しく見つめた楽曲が揃っている。また、アルバムのきっかけとなったのが2年弱前のシングル「荒野を歩け」であることから、その世界観を拡張するように、少年少女の背中をそっと押してくれるポジティブな言葉が多く並ぶ。辛辣な批評を言葉遊びに込めた『ランドマーク』や、世界情勢を架空の街へと落とし込んだ『Wonder Future』と、ゴッチは詩人として思いを様々な手法で言語化してきたが、今作は過去最も明るいメッセージがアルバム全体を貫いている。
 

6曲目「UCLA」は僕がディレクターならば全力でリード曲として推したいほど大好きだ。サンプリングされたハイハットに乗ったトラック、ラップ/ポエトリーリーディングにも接近する静謐な歌い出しから、けたたましいドラミングに煽られるサビの昂ぶり。分かり合えたはずなのにすれ違う、足りてないけど満たされない、そんな生き辛さを越えるための小さな希望が綴られてある。本作唯一の5分超え、激情と抑制を繰り返す構成の中で狂おしいほどに僕らの日常へとタッチしてくる。Homecomingsの畳野彩加が普段とは違う質感の歌唱で客演をしているのだが、27歳のリアルタイムを生きる若者の声として聴こえて胸が締め付けられる。
 

9曲目「さようならソルジャー」も、エモーショナルかつシンプルでまさにど真ん中のアジカン。歌詞も極まっている。ヘヴィな祈りが込められたものだが、それをあくまでもキュンとなるボーイミーツガールな物語として描くことで、遠い国の話としてではなく、僕らの日々へとその感覚を運んでくれている。そして何よりもこれぞ僕の好きなゴッチ節だ、と感嘆するメロディ。特にサビの「今まで~」の喉を絞るように歌うところ。ゴッチの思うがままに書く旋律があり、それに本能的にグッと来続けてきた自分がいる。アジカンとは本当に奇跡的な巡り会いだったと思う。

そしてアルバムは、「ボーイズ&ガールズ」が全てを包み込んで終わる。あらゆる時空、世界で巻き起こる日々の景色を繋げたこのアルバムの最後にこの曲を聴くと、シングルで出た時よりも遥かに逞しく聴こえる。”ナッシング“だからこそ、そこに刻めるものがあり、描けるものがあるということ。「はじまったばかり」という言葉が持つ力は計り知れない。この肯定感こそがアジカンを聴いている真髄。アジカンという安心できる場所に自分が訪れたことを実感するのだ。

ちなみに、初回生産限定盤付属されているミニアルバム「Can’t Sleep EP」も素晴らしい。元々は1つのアルバムになる予定だった偶然の産物だが、コラボ集的な側面もあり豪華な内容だ。ストレイテナー ・ホリエアツシとの共作「廃墟の記憶」では、ゴッチが初期テナーのファンタジックな詞世界にやってきて、オマージュの限りを尽くすという双方のファンには面白すぎる1曲。同士として長く戦ってきた者のユーモアとアイデアに満ちた

そんな遊び心もあるが、このEPの1曲目「スリープ」には、「古びた破片が光った 繋がっていたいよ」と綴られてある。1stシングル「未来の破片」を想起させるこのフレーズ。アジカンとして、誇るべき未来に辿り着いた先でも、大義を持ち活動を継続する意志を強く感じる。アジカンをリスペクトするTHE CHARM PARKに楽曲提供を依頼した「はじまりの季節」など、若き才能への目配せも忘れないその姿勢も、今作にはしっかりと刻まれている。

特典DVDの南米ツアードキュメンタリーも最高だった。日本の真裏にも、自分と同じようにアジカンに出会い魅了されている人が沢山いること、想像もつかないけどこうやってしっかりパッケージされると笑っちゃうくらいに現実のことで、なんだかとても幸せな気持ちになる。僕は、好きなものが一緒ならばどんな人とでも分かり合えると信じているのだけど、この南米の会場にいる人たちとも言語的な壁はあれど、きっと通じ合えるんだなぁと思う。これって凄いこと。アジカンはいつだって未知のフィーリングに満ちたホームタウンだ。

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