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グローバリズムとThe 1975のラブソング

『OKコンピューター』『A Brief Inquiry Into〜』から『Blonde』へ

 
2018年11月30日未明。The 1975の3rdアルバム『A Brief Inquiry Into Online Relationships』がオンライン上の各音楽配信サービスでシェアされた。

『Music For Cars』期と称され、前作『I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful Yet So Unaware of It』から2年ぶりとなる『A Brief Inquiry Into Online Relationships』はKanye Westの奴隷制への問題発言などに始まり、11月の米中間選挙など、暴力と差別、権力と搾取、そして格差による構造の二極化など、対立と分断が進み混沌を極める2018年の熱気を冷まし包み込むセラピーのような優しさと失望感にも似た批評が重なりあった、時代を更新するかのようなアルバムだ。

元々は2013年にリリースしたEP『Music For Cars』のタイトルを流用する予定だったこともあり、前作よりもBrian EnoやFour Tetなどを彷彿とさせる原点回帰的なアンビエントなエレクトロニカ色が強くなった反面、リードシングルでもあり同郷のレジェンドJoy Divisionへのオマージュとアンチテーゼ–あるいは無関心やニヒリズムと言った受動的な態度や若さとの決別–そして29歳となった自身への皮肉とも取れる複雑な感情で溢れた”Give Yourself A Try”や、彼ららしい切なくも痛々しい恋愛観と何処かブルー・アイド・ソウルを彷彿とさせるトロピカル・ハウス調のアルバム屈指のポップナンバー”TOOTIMETOOTIMETOOTIME”など、ポスト・サンプリング世代ともいえるジャンルレスなサウンドや多彩なアイデア、そしてオマージュとアンチテーゼで溢れている。

既にお馴染みとなった”The 1975″のBon IverやKanye Westを連想させるオートチューンアレンジから始まる全15曲59分に収録された楽曲は多彩かつ、どれも非常に完成度が高くバンドの直向きなストイズムと向上心の成果を感じさせる。音楽的には多少保守的/前時代的に感じてしまう側面もあるものの、お得意の80年代風ニュー・ウェーブやインディー・ポップ、シューゲイズだけでなく、ジャズやクラシック、トラップまで様々な要素の音楽性を網羅し取り入れた楽曲は時代の流れに左右されない素晴らしい曲ばかりである。

アルバムのタイトルとなる予定だった『Music For Cars』期と称された2部作の1作目である今作では、ファンクやR&B色の強いリズミカルなギターサウンドは鳴りを潜めたが、既存曲のリアレンジながらも彼らのミニマリズム的美学とアンビエント/エレクトロニカ路線の傑作である”How To Draw / Petrichor”、中身のない体裁的なポストモダニズム、あるいは中産階級的で気取ったニヒリズムへの批判と共に人間関係のナイーブさと関係修復の難しさを歌った”Sincerity Is Scary”、孤独と快楽主義的欲望に揺れるアコースティックナンバーの”Be My Mistake”、SNSを取り囲むデジタルネイティブの心情を代弁するかのような” Inside Your Mind”や現代社会の複雑さを交えつつヘロイン中毒と生への葛藤をポップなラブソング風に歌いきった”It’s Not Living (If It’s Not With You)”など、退廃的なラブソングも健在で、2部作の”完結編”である次回作への期待を膨らますかのように唐突なエンディングを迎える”I Always Wanna Die (Sometimes)”ではOasisを彷彿とさせる切なくも力強いギターノイズと時代を覆う暗い影やなけなしの希望が歌われる。

エモーショナルで野心的な今作では、前作までの延長線上であることを強く感じさせるサウンドもある一方、政治色の強い”Love It If We Made It”では個人の利益を優先するグローバリズムや新自由主義への批判、ポピュリズムと音楽の政治利用を象徴する悪名高き言葉として後世まで語り継がれるだろう “Thank You Kanye, Very Cool!”をはじめとする現アメリカ大統領の発言の引用、そして故lil peepへの哀悼や溺死したシリア難民の子供への言及と共に、文化的盗用や構造的搾取による差別など、多少露悪的ではあるが白人である自らの階級や社会的立場まで、現代社会を取り巻く様々な社会問題やトピックが簡潔に歌われる。また、”Love It If We Made It”からはイギリスのEU離脱へ対する怒りや失望といった時代を覆う閉塞感すらも感じさせられ、エモバンドとしてティーンエイジャーのセクシャリティや心情を代弁してきた彼らが、政治的/社会的な関心が高いミレニアル世代の”声”や思想、ポリティカルな側面を代弁している楽曲をリード曲に持ってきたのも、今作の特記する点のひとつである。

そして、恐らくこのアルバムを紐解く上で最も重要なキーのひとつである”The Man Who Married A Robot / Love Theme”は、Radioheadの”Fitter Happier”やFrank Oceanの “Facebook Story”を連想させる、ラウンジ・ミュージックのような無機質なピアノとSiriの声で語られるスポークンワードが印象的な楽曲で、ポストモダン的とも言える退廃的なストーリーと共にアップルの新製品かタチの悪いFacebookの動画広告のパロディのように–視点を変えれば純愛とも解釈できる–インターネットに執着する男の孤独と無機質な狂気が語られる。

“The Man Who Married A Robot / Love Theme”は丁度アルバムの折り返し地点とも言えるインタールードであり、前作まではやや抽象的に語られることが多かったオンライン上における人間関係の脆弱さや虚無感も、今作ではより内省的かつ立体的な視点を持つ物語として語られていることも象徴している。

アルバム全編に散りばめられた他者との断絶と対話、オンラインと日常生活、あるいはパーソナルとパブリックの間で起こる人間関係や社会との間で起こる摩擦やストレスといったSNSに象徴される軽薄な人間関係や現代社会への問題提起など、様々な視点と関係性から語られる物語はネット環境の普及した現代において、誰一人として他人事ではない筈だ。

多くの評論家が『OKコンピューター』との類似点を指摘した通り、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』もまた、インターネットやグローバリズムにより露呈される孤独やそれによって生じる様々な社会問題といった暗黒面、そして人間関係の絶対的な断絶性や摩擦を描いたアルバムだ。

『OKコンピューター』と『A Brief Inquiry Into Online Relationships』の相違点は、『OKコンピューター』がアルバム全体の方向性として絶望や思考停止といったネガティヴなモチーフ–虚無主義的な無感情や人間性の排除–によって無機質な拒絶へと向かうのに対し、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』の中心となっているのは、ヒーリーの多様する会話文が特徴的なリリックが象徴するように、有機的な感情と対話に基づく議論である。それはコミュニケーションの拒絶が断絶と分断そして対立を生んでしまった現代からの過去への回答でもあるのと同時に、–繰り返されるポストモダニズムやニヒリズムの否定は、そのまま『OKコンピューター』で用いられていた方法論の否定でもある–3rdアルバムは『The Queen Is Dead』や『OKコンピューター』のようなアルバムに、というヒーリーの発言の通り、現代社会で起こるグローバリズムや地域差による弊害や新実存主義的人間関係の断絶の間で引き裂かれようとしている時代のなかで、失われようとする友愛と調和の精神を象徴するアルバムを完成させた彼らの毅然たるプロテストである。

『OKコンピューター』がインターネットとグローバリズムによって加速する未知の新時代への不安と恐怖を予見し警告した作品ならば、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』はそのインターネットとグローバリズムによる恐怖と快適性がもたらした混乱と新時代に生きる我々や10代のミレニアル世代にとって最も身近な愛や痛みに真摯に向き合うことの尊さと人間性の多様さを掲げた作品であり、Radioheadは来たる新時代と世紀末の閉鎖感に絶望と諦めを、The 1975は混乱し行き詰まった新時代のなかで、それでも前に進み他者と繋がろうとする行為に希望を見出している。

『OKコンピューター』と並び、同じくグローバリズムやオンライン上における人間関係や他者との断絶、そして複雑さや繋がりを人生における傷心の物語や普遍の愛を自己探求とエモーショナルな告白と共に描いたFrank Oceanの『Blonde』は、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』と2010年代を語る上で欠かせないもうひとつのミッシングリンクである。

2016年『I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful Yet So Unaware of It』の約半年後にリリースされた『Blonde』は、オンライン上における他者との孤独や現実世界の剥離をいち早く表現として昇華させただけでなく、その普遍性と研ぎ澄まされた表現力、革新的な芸術性で依然強い影響力を世界中の様々なカルチャーや音楽に与え続けている。

『A Brief Inquiry Into Online Relationships』にも登場するSNSにより分裂しパラレル化する自我、あるいは記号化される性や感情といったパーソナリティ、自己探求やアイデンティティの模索や新実存主義的な断絶と分断、そして孤独は、同じくオンライン上での人間関係や実存主義的主題を含んでいた”Facebook Story”を始めとする『Blonde』の楽曲でFrank Oceanが築き上げたものの延長線上、または地続きに存在するものとも定義でき、”Nikes”で描かれるグローバリズムと快楽主義的消費活動による人間関係の断絶や自由への渇望といった情景、そしてA$AP Yams、Pimp C、Trayvon Martinへの追悼は、”TOOTIMETOOTIMETOOTIME”でよりポップかつ抽象的に語られる恋愛関係の矛盾や葛藤、”Give Yourself A Try”で言及される自殺した16歳のファンの少女や”Love It If We Made It”でのシリア難民の子供、lil peepへの哀悼とも重なり、”Nights”で吐露されるハリケーン・カトリーナによる被災後の生活や、”It’s Not Living (If It’s Not With You)”で描写されるヘロイン常用者の葛藤は、スマートフォンやアプリケーション、オーディオ機器やオンライン上の様々なサービスを通し、同時代に生きる我々に痛みや孤独、そしてどこか自分と似た他人の存在を共有させる。

The BeatlesからJames Blakeまで、過去と現在を繋ぎながら現行のUK音楽シーンに接近し、まさしく未来のサウンドを提示していた『Blonde』と、前作ではより色濃く反映されていたアメリカ音楽への憧れと影響を通過してきた『A Brief Inquiry Into Online Relationships』は、人種や階級社会的にも対になるものであり、またオルターエゴであるかのように声色と語り手を変えつつも、常にパーソナルな視点から親しい友人に語りかけるような作風の『Blonde』に対し、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』は主観と一人称をベースに、まるでニュース映像のコラージュのような巨視的な視点で語られる。

かつての『The Queen Is Dead』や『OKコンピューター』、そしてFrank Ocean の『Blonde』がそうであるように、The 1975の3rdアルバム『A Brief Inquiry Into Online Relationships』は、現在世界を取り巻くグローバリズムによる格差の拡大や搾取、頻発する暴力やテロリズム、そして差別思想やポピュリズムによる右傾化と共鳴し拡大する反グローバリズムといったネガティブな時代の流れのなかで世界の歪みと向き合い、恐怖や不安、憎しみや無関心といった負の感情やシステムのメカニズムを分析し、前進する為の物語であり、憧れや幻想との別れ、そして現実との対峙である。

ツインタワーに旅客機が突入するニュース映像から始まり、暴力と憎しみの連鎖が続く21世紀において、その物語は様々な場所や時間、人種やセクシャリティといった様々な境界を飛び越え、様々な言語や思考、そして個々の様々な感情や物語へと無限に変換されていく。

人種や宗教間の対立や難民問題、ISの台頭、フロリダ州オーランドのゲイクラブで起きた銃乱射事件、警官による暴力やレイシズム、各地で起こるヘイトスピーチやヘイトクライム、パリやAriana Grandeのマンチェスター・アリーナ公演でのテロリズム、そして、各地で掲げられるレインボーフラッグ、Barack Obama、Serena Williams、Kendrick Lamar、Beyoncé 、Colin Kaepernick、Donald Trump、Beto O’Rourke、Kanye Westの画像やテキストと共にGeniusやYouTube、Instagramや Twitter、Facebook、Apple MusicやSpotifyなど、様々な社会問題と情報やサービスで溢れ混乱する時代において、”TOOTIMETOOTIMETOOTIME”のリリックと多様性をリプリゼントしたMVに象徴されるように、誠実に、時に裏切り傷つけあいながらも、我々は”I”と”you”に二分された、”あいつ”や”あの子”といった多角的な視点も持つ世界で、多面性と同一性の狭間にある共通項を模索する。

アナログからデジタルへ、あらゆる感情や思考が二極化/データ化され、あらゆる場所と人が繋がり規格化、個性や個人が失われていく時代で、世界との繋がりや人間性を求めることは停滞と分断、そして二極化へ向かう時代へのアンチテーゼであり、デジタルとグローバリジェーションが覆い隠してしまいそうになるグレーな感情や関係性、そして裏切りや不信も含めたどうしようもない愛への希望を肯定する、人間であることの証明である。

かつてOasisがデビューアルバムでそうしたように、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』もまた、曖昧な楽観的とも悲観的とも取れる疑問を残して幕を下ろす。

我々は、殆ど白地のアートワークと7色のピクセルやWolfgang Tillmansによる白く縁取られ壁に立てかけられた遺影にも見える、傷を負った手で覆い隠された顔の近影が象徴するように、そこに無限の多様性、そして個々の人生が持つ普遍性が投影されていくのを感じ、もう一度世界に目を向ける。

『Blonde』の”Nikes”から”Futura Free”までの17曲や、『A Brief Inquiry Into Online Relationships』の楽曲で繰り広げられる対話と告白は、我々がもう一度この時代と世界を信じる為の心理療法やリハビリテーションであり、我々の世代にとって、暗闇のような時代のなかで痛みと孤独を繋ぎ、シェアし合う為のラブソングだ。

我々が向かう未来ははたして楽観的なのか悲観的なのか、そんな事を考えながら今日も我々は電車や車に揺られ仕事場へと向かう。

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