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sayonara complexと言いたい

CHAIが見せてくれたカワイイ私

 クリスマスも近づきお台場の空気は華やかだった。冬の澄んだ空気に溶け込むイルミネーションを眺めながら、大学の講義を終えた私と友人3人はZepp Tokyoへ足早に進む。
 「早く観たい!」「ベースの音作りをちゃんと聴きたいんですよね」「ボーイズ・セコ・メンのアソコの歌詞を聴き取りたい」
 1時間後には会えるピンク色がよく似合う“N.E.Oカワイイ”女の子達に想いを馳せた。
 

 2018年12月19日
 『CHAIいく!CHAIくる!トゥアートゥアートゥアー』の最終日である。
 
 

 実のところ私とCHAIの出会いはかなり最近で今年の10月である。今回一緒にライブに行った友人の3人にCHAIのコピーバンドをしないかと誘われたのがきっかけだった。
 私たちは軽音楽サークルに所属しており、そのうち私含めた3人は春になったら卒業してしまう4年生。そのラストライブで知らないバンドの名前を出された。
 

 初めて聴いた曲は『N.E.O.』。
 頭の中に隕石でも落ちたのかと思うような衝撃だった。
 
 

 生まれてから21年。思い返せば自分を愛した瞬間は一度も無かった。

 私は幼い頃から出っ歯で、笑う事も喋る事も苦手だった。口を開けたくないのだ。
 それに加え、たらこ唇で、鷲鼻で、エラも肩も張っていて、背が高く猫背で、ガリガリで、ド貧乳。まさに“コンプレックスの塊”である。
 物心ついた頃にはもう、私は私の事を“ブス”だと思っていた気がする。
それがはっきりと「嫌い」に繋がったのは思春期真っ只中の13歳。当時好きだった男の子が私の事を陰で「魔女みたいで不気味だ」と話していた事を知った時だった。

 その一言がきっかけで、私は不登校になった。
 誰も私を見ないでほしい。醜いから笑いたくない。
 写真を撮るたびカメラを預かり撮る側に回った。
 朝、鏡を見るたびに叩き割りたい衝動に駆られた。

 高校生になって、再び学校に通い始めても私は相変わらず“ブス”だった。
 校則がとても厳しい学校で化粧は許されなかった。せめてもの努力で髪型をいじくったり、眉を整えたり、スカートを短くしたり、靴下を派手にしてみたりと、とにかく毎日自分を“ブス”から遠ざけようと足掻いた。
 かわいい子を見ると生きた心地がしなかった。

 大学生になり化粧を始めた。たらこ唇にはセクシーな口紅を塗り、ファンデーションを塗りたくり、元々大きめの目を主張したくてマスカラをバサバサつけた。なけなしの金でサポーターも買い姿勢も良くした。
しかし、周りからは分からないようなバリアーを張っても、口を開けて笑えなかった。歯並びだけはもうどうしようもない。
 バイトも接客業を始めたが、お客さんの顔を見れなくてすぐに辞めた。日雇いで工場に出向き、コンベアの上の化粧品を眺め続けている。
 

 なんだか毎日とても疲れる。
 家に帰って化粧を落とす瞬間が、一番気持ち良くて、一番嫌いだ。
 
 

 そんな私をCHAIは全肯定した。
ただ単に優しい言葉をかけているのではなく、おそらくCHAI自身にも鼓舞しているのだろう。
 暴力的とも言える説得力と安心感。
 「YOU ARE SO CUTE!」と言う言葉が、体の細胞一つ一つに染み込む。
 どれだけ辛い思いをしたら、悔しい気持ちを飲み込んだらこんな“カワイイ”心を持てるのか。
 

 誘ってくれた友人の1人が言った。
 「NEOカワイイ人間4人でCHAIやりたいんだよね」

 私たち4人はお世辞にも“一般的にカワイイ”とは言えない。
 出っ歯だったりしゃくれてたりぽっちゃりだったりヒゲが濃かったり、いろんな形のコンプレックスを抱えているが、それでも私たちはずっと“カワイイ”を目指してきた。
 私は二つ返事で了承した。バンドが結成された。
 
 
 

 そして迎えた19日。
 コピーさせていただくからには一度は本物を見ておきたいと足を運んだZepp Tokyo。

 ステージの上の彼女たちは、今まで見た誰よりも“カワイかった”。
 確かな演奏技術、ポップな映像と衣装、軽やかで力強い歌声、全てが“カワイイ”。
 私たちがコピーバンドで演奏する曲もやってくれた。録音撮影OKだったので、必死にカメラを向けどう演奏しているのか、どう動いているのか盗んだ。
 中だるみする瞬間は1秒たりとも無く、ずっと体を揺らし手を高く上げ一緒に歌っていた。

 アンコール前最後の曲が『sayonara complex』だった。
コピーバンドでもこの曲を最後にやろうと決まっていた。
 穏やかなベースとドラムに軽やかなギター。水の中にいるようで心地良い。ボーカルの優しい声が逆立った心を撫でているような感覚。
 そして、一番CHAIに言ってほしい言葉をかけてもらえて、涙が止まらなくなった。

 アンコールが始まっても私はずっと泣いていた。
 ふと横を見ると友人3人も泣いていた。
 ライブが終わってもさっきの言葉が頭の中をぐるぐると回っていて、何も喋る気になれなかった。
 
 

 東京テレポート駅へ向かう途中で唯一の3年生が口を開いた。
 「これは私たちも絶対に成功させて、自分の事を好きになってから卒業してほしいです」
 胸がいっぱいになって「そうだね」としか返せず、冬の空に消えて行く自分の吐く息を眺めていた。
 
 
 
 
 

 私もあんな風に、強く“カワイイ”女の子に近づけるだろうか。
 自分のことを愛せるようになれるのか。

 CHAIが言ってくれたこの言葉を、今度は私が私に、そしていつか私みたいな誰かに言えるように。
 

 「Thank you my complex, so fly away」
 
 
 

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