1725 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

果てなき航海の途中

—『Sleepless in Brooklyn』で確認する[ALEXANDROS]の現在地

彼らのニューアルバムを定義付けしようと思う。

最高にロックで、ポップで、かっこよくて、優しくて、これぞ[ALEXANDROS]だっていう感じの‥‥と、ここまで言いかけたところで止まってしまった。そういえば彼ららしいとはどういうものなのか?私は、[ALEXANDROS]を初めて知って、曲を聴き始めてから5年以上経つが、未だに彼らの楽曲のなかに「らしさ」を見いだせていない。とりあえず、定義付けは後回しにして、アルバムの中身について話そう。

 都会的でスタイリッシュなイントロから始まる『LAST MINUTE』は、今年8月のZOZOマリンで一部だけ披露されたものだ。あのときこの曲を聴いて感じた、次のアルバムもなんかすごそうという予感は、見事に的中した。今回アメリカで制作したということだったが、様々なメディアのインタビュー記事などを見ていく中で、メンバーがそれぞれものすごい刺激を受けているんだなと感じた。それを踏まえて聴いていたからか分からないが、私はこの『LAST MINUTE』に、違和感を覚えた。いや、もちろんいい意味で。その違和感の正体は、海外で制作されたのにいつもより“日本”的なものを感じたからだ。歌詞が日本語だからというのもあるが、サビのメロディーがとても日本的だと思った。アメリカの空気、文化、そして音楽に触れ、刺激を受けてもなお、芯というか軸足は生まれ故郷にあるという気がして、1曲目ですでに感動した。『アルペジオ』は、アルバムのリリースに先駆けてMVが公開され、何かと話題を呼んでいたが、改めてじっくり歌詞を見ながら聴くと、その良さが身に染みるように伝わってきた。周りに合わせようと、空気を読むことに労力を使っている自分がバカらしくなるほど、この曲は心に刺さった。
 
 言うまでもないがあえて言わせてもらうと、めちゃくちゃかっこいい。何のことかというと、『Mosquito Bite』のことだ。冒頭から、衝動的かつ重厚感のあるギターリフが地を這うようにして耳に届き、それが体中に響き渡って、まさに血が騒ぐような感覚を味わった。(シングルがリリースされたときに一度味わったが、アルバムの一曲として改めて聴いての感想だ。)彼らの、世界一を目指すというその野心が、その爆発的なエネルギーが、『Mosquito Bite』という形で具現化され、このアルバムの中でも圧倒的な存在感を放っているように感じた。『I Don’t Believe In You』から感じるのは疾走感。自分にまとわりつく“何か”とひたすら向き合って、もがきながらも走り続けているそんな気がした。そして、次に聞こえてきたのは、太陽の香りがするような温かいメロディー。『ハナウタ』の作詞は、詩人の最果タヒさんだ。最果さんの美しい言葉の中に感じる孤独や寂しさを、温かく柔らかいメロディーが包み込んで、言葉一つ一つの輪郭をぼやかしているようだ。でも、曲を聴き終わるころにはその言葉の正体(意味)を知りたくてたまらず、もう一度聴いてしまう。一度聴いたら虜になってしまうような、魅力的な曲だ。

 この曲は、ドラムが芯になっているような気がした。パッという音、カシャンと何かが割れる音、犬の鳴き声…?その他にも様々な音がちりばめられ、遊び心が見え隠れするのに、歌声は少し気だるそうで色気を感じる。一見カオスな気がするが、イントロから鳴り続ける心臓の音のようなドラムの音に全て集約され、何事もなかったように、心地よさだけが残る。またすごい曲に出会ってしまった、そう感じさせる『PARTY IS OVER』だった。
 『MILK』という名前なので、はじめはマイルドな曲を想像していた。でも違った。冒頭18秒で私の想像は軽く吹き飛ばされた。マイルドどころか完全にワイルドだ。シングルの時とはまた違ったアレンジで、さらにかっこよさが増している気がした。と、余韻に浸っている暇もなく、次の曲です。『spit!』です。ツバです。アルバムという作品が、シングル曲のまとめ版ではないことを証明するように、異様な存在感がある。和訳の歌詞を見ながら、粗いギターの音を聴いていると、ライブで盛り上がっている光景が浮かんできた。そして間髪入れずに『KABUTO』が、待ってましたといわんばかりに飛び込んできた。曲の一つ一つに人間と同じように個性があるとするならば、『KABUTO』という曲は、「見た目は派手だが根は真面目」タイプだと感じた。話し声が曲の一部として登場し、(私には何と言っているか聞き取り不可能だったが…)いわゆる普通ではない構造なのに、何度も聴いているうちに、メロディーの動き方など、実は一番ロックな曲なのではないかと思い始めたからだ。

 そして、私が最も衝撃を受けた曲が『FISH TACOS PARTY』である。イントロを聴いた瞬間思わず、「何これ?!」と声に出してしまった。今までに聴いたことのない音、そして、体が自然と動き出すリズム。こんな風に全く新しい、“らしくない曲”を生み出すのは、簡単なことではないと思う。常に自分たちを厳しい環境に置き、そういう環境でも自分たちが奏でたい音を模索し続けた結果生まれたものだと思うから、それを聴いている私も全力で受け止めなければと、改めて思った。
 静かな波一つ立っていない水面に、一粒の水滴が落ち、そこから同心円状に波が広がっていく。そんな風に音の広がりを感じたイントロ。『Your Song』である。Your Songというタイトルの曲は、多く存在する。そしてその多くは、「きみのことを歌った歌」や、「きみに捧げる歌」という訳し方がしっくりくるのではないかと思っている。しかし、[ALEXANDROS]の『Your Song』は、本当にそのまま「きみの歌」というべきだと感じた。なぜか?歌詞を見ればその所以がわかる。

 僕の名前は ありふれた「とある歌」 (“Your Song”)

そう。この曲の一人称の僕は、歌そのものだった。私は初めて聞いた時、素敵な歌だと素直に思った。歌を擬人化したことで、より身近に曲を感じることができたからだ。まるですぐそばに“歌”がいるように。思わず抱きしめたくなるほど柔らかい音、どこまでも優しい「とある歌」に、気がつくと私は虜になっていた。

 アンコールトラックとして2 曲を入れるというのは、これも今までにないことだった。 アンコール1曲目の『SNOW SOUND』はロマンチックだ。私が注目したのはサビのコーラスだ。川上(Vo./Gt.)の高音のサビを支える磯部(Ba./Cho.)のハモリによって、音に透明感が与えられ、より洗練された美しさを生み出していると感じた。ロマンチックさの原因の一つは、そこにある気がした。
 そしてラスト1曲の『明日、また』から感じるのは、前を向く強さ、そして明日への希望。そういえば、これまでのアルバムの最後の曲は、比較的穏やかな曲が多かったと思う。でも、今回は違った。俺達はまだまだこんなもんじゃないと、勢いを感じさせるラストだった。まるで自ら風を起こし、その風の力を使って船を前進させるように。

 今回のアルバムを定義づけしようとしたが、無意味なことに気がついた。いや、むしろすべきではない。なぜなら、私は[ALEXANDROS]に“音楽を届けてもらっている”のではなく、彼らと“音楽を共有している”と思っているからだ。川上自身もSNSで、今回のアルバムは、「シェア」したい気持ちが強いと言っていた。
 彼らは世界一のバンドを目指している。私が思うに、世界一になるためには相当の覚悟が必要だ。例えば、世界一になるためには新しい場所で、新しいものを見て、感じて、それを音楽に昇華させ、常に自らをアップデートしていく必要があるとする。しかし、そのアップデートの過程には、新しいものに出会った時に感じる「自分って大したことないんだ」というある種の無力感だったり、何かに打ちのめされるような感覚が常につきまとう。それと真正面から向き合っていくことが、まず何より覚悟がいることではないかと思う。そうやって考えていくと、この『Sleepless in Brooklyn』は、アメリカという地で、[ALEXANDROS]というバンドがアップデートしていった過程そのものではないかと感じた。だから、「ようやくここまでたどり着いたんだ!」という報告ではなく、「今現在はこの場所にいて、こんなことを感じているんだ!」という風に、アメリカで感じてきたことを共有したいという思いが伝わってきた。私は彼らの作る曲が好きで、彼らが鳴らす音が好きだ。だから、彼らの長い航海が終わるまで、見届けたい。そう、強く感じた。

“世界一の海の向こう”への旅は続く—

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい