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2017年5月16日

フナムシ (37歳)

地獄に咲く一輪の花

二度の地獄から生還した星野源が歌う「地獄でなぜ悪い」

2012年12月。
深夜のスタジオ。
ソロデビューしてから3枚目のアルバムのレコーディングが終わった瞬間、突如星野源を病魔が襲った。

「スタッフ皆で拍手をしていると、急に目の前がぐにゃっと曲がった。」
「バットで頭を殴られたような痛みとともに、立っていられなくなった。」
ー「蘇える変態」より

すぐさま救急搬送され、即手術・活動休止。
後遺症がない例は1/3ほどと言われる難病にもかかわらず、手術は無事成功し、予後も良好。
2013年2月、星野源は一度目の仕事復帰を果たす。

3rdアルバム「Stranger」のリリースや収録曲「化物」のMV製作、アニメ映画「聖☆お兄さん」の吹き替え、主題歌「ギャグ」の製作、リリースなどが行われる。

出演した映画「地獄でなぜ悪い」と同名の主題歌も製作される。

《病室 夜が心を そろそろ蝕む》

いつものように作っても作っても満足できないというものづくり地獄をのたうち回りながら、
検査入院中に書き上げたという歌詞。

「自分が面白いと思ったことを満足いくまで探りながら、できるだけたくさんの人に聴いてもらえるように努力する。それが我が地獄における、真っ当な生きる道だ。」
ー「蘇える変態」より

レコーディングの歌入れが終わった1週間後の2013年の夏、検査入院の結果が出る。
手術した箇所が万全ではないことが判明し、
再手術のため二度目の活動休止を余儀なくされた。

映画や新曲のプロモーションが本格化する前のことだった。
「地獄でなぜ悪い」は二度目の活動休止中に発売された。
そのため、ミュージック・ビデオは全編通してアニメーション(浅野直之・星野源 共同監督)となっている。

病室の少年が見るシュールで痛快な地獄の夢と、その中にある微かな希望と狂気。
全体を通して破茶滅茶に描かれるMVは必見だ。

この曲は、流行りから距離を置いて、とにかく自分の好きな物を作ってみようと思って製作したという。

4thアルバム「YELLOW DANCER」収録曲の中でもこの曲は異彩を放っている。
曲が始まった途端思わずボリュームを下げた人もいるのではないだろうか。
まず耳をつんざく「狂気のストリングス」。
ジャッジャッジャーン!と底抜けに明るく地獄を突き抜けるホーン。
「地獄」感満載のインパクトのあるイントロに圧倒される。

ピアニストのスガダイロー氏が狂ったように奏でまくる超絶技巧のピアノの旋律と、
その背後で狂い咲くホーンとストリングス。
まさに「楽しい地獄」。
狂気が全体を支配しているようで、
何もかもめちゃくちゃな不協和音の「地獄」に、
どこか1本美しい旋律の「花」が咲いているような気がするのは、
美しいピアノの旋律のせいか、ジャズがベースにあるからなのか。

《いつも窓の外の 標識を眺めて
非道に咲く花が 女のように笑うさまに
手を伸ばした》

地獄に笑うように咲く一輪の花。
歌詞の一節は、曲全体を駆け抜けるピアノの旋律のメタファーなのかと思わされる。
うわっと圧倒されたイントロから、曲の中盤では脳内でピアノの旋律を追いかけている。
どこか痛快で、爽快。聴けば聴くほど歌の背後がとんでもないことになっている。
星野源のシングルでは珍しく収録されているインストゥルメンタルで聴いても、全く飽きない。

《嘘でなにが悪いか 目の前を染めて広がる
ただ地獄を進む者が 悲しい記憶に勝つ》

公式YouTubeで確認できる初回限定盤の特典DVD「楽しい地獄だより」の案内には、
2012年のライブ映像や、新曲の製作風景・歌詞の製作秘話(検査入院中に書き上げた)とともに、病室でピースサインをする星野源の手元が映し出されている。

「聴いてくれる人に、偶然生まれてしまった歌詞と本人の状態の親和性をよりわかりやすく伝えるため、動画の最後に実写の短い映像を一発入れたいと思った。」
ー「蘇える変態」より

《動けない場所から君を 同じ地獄で待つ》

図らずも、同じ地獄を二度も味わうことになった星野源の状況と重ねてしまう。
《地獄の底から化けた僕が這い上がるぜ》と歌う「化物」といい、星野源は預言者なのだろうか。

私はこのシングルが発売された当時、
まだ星野源の存在を認識していなかった。
当時のファンの方々の不安な思いはいかばかりだっただろうかと思う。

尾崎豊、X-JAPANのhide、忌野清志郎など、
熱狂的なファンを持つアーティストの訃報は幾度も日本中を悲しみで覆ってきた。

嫌な予感がしただろう。
胸をえぐられる想いだっただろう。
祈る思いで、復帰を待ったのだろう。

3rdアルバムを提げた武道館ライブは、公演延期となったものの、ほとんどが払い戻しされなかったという。
 

「最終的には辛いことより、面白いことの方が多かった。細かくいうと、「苦しい日々の中でも、面白いと心から感じられる瞬間」がとても多かったということだ。
面白さが、辛さに勝ったのだ。」
ー著書「蘇える変態」より

とにかく痛い、寝ても覚めても痛い、そんな中でも座薬を入れてくれる看護師さんとの変態プレイを妄想しようと試みる星野源。(結果失敗におわる)
辛く苦しいことの中に、面白いことを探そうとする。

その生命力は、まさに地獄に狂い咲く1輪の花のようだ。
「地獄でなぜ悪い」を狂ったように駆け抜ける、ピアノの旋律のようだ。

星野源は、二度目の地獄からも、見事生還した。

出来ることなら時間を巻き戻してでも参加したかったと思わせる、2014年2月に行われた復帰ライブ、
「Stranger in BUDOUKAN」。

そのアンコールで披露された「地獄でなぜ悪い」

二度の地獄から這い上がり、復活した星野源の渾身の歌声は、さぞかし圧巻であっただろう。

私は映像でしか体験できないけれど、それでも、復帰ライブの映像を見終わった後はじーんと来てしばらく動けなくなるほどだ。

そして、最後に思う。

「生きていてくれて、ありがとう。」

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