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終わった夢と、終わってくれない物語と。

BUMP OF CHICKEN【firefly】と追いかけて見送るしかなかった私の話

終わった夢と、終わってくれない物語と。
BUMP OF CHICKEN【firefly】と追いかけて見送るしかなかった私の話
 
 
 

子供が欲しいと思ったのは、子供の頃だった。
あまり良くない家庭環境の中 “自分の選んだ人と新しい家族が作れる” システムを知ってから、切に結婚を願うようになった。
その人と一緒に新しい命を育てる未来を想像しては、早くそんな日が来ないかと祈っていた。
家の大人達から受ける理不尽な扱いも反面教師として、自分が子を持つ時のための大切な経験なのだと信じ込み耐え切った。

次の命を産み幸せな子に育てる。
自分の価値が分からない私は、何より尊いだろうその役目を果たせば自分の生まれた意味だってできるような気がしてならなかった。

幸せな家庭を作るには何が必要なんだろう?
よく分からないまま次々恋愛をした。
絵に描いたような幸せな家庭を目指していた。
素敵な旦那様と共に、子供を目一杯愛したかった。
結婚しては離婚し、また結婚してはまた離婚した。
自分の子供が幸せだと思ってくれる家庭は、誰とどうやって作ればいいんだろう?
きっとそればかり追いかける人生だった。

『蛍みたいな欲望が ハートから抜け出して
 逃げるように飛び始めたものが 夢になった
 当然捕まえようとして 届きそうで届かなくて
 追いかけていたら 物語になった』

───丁度、この曲みたいに。

『色んな場面を忘れていく』程、長い、長い、間。
 
 

3回目の結婚から1年過ぎて不妊治療に通い始めた。
最初の結婚をしていた頃から数えれば、その時点で10年間妊娠できていなかった。

卵ができれば期待に喜び、それが命に成らなかったと知れば落胆した。
月に何度も通院しては毎日薬を飲み、塗り、貼り、自己注射さえ打った。
いいとされる事は何だって飛び付いた。
運動や冷え対策、食べ物飲み物サプリに漢方、子宝祈願やジンクスまで片っ端から。
周りの妊娠報告に焦り心無い声に傷付いては、やがてその乗りこなし方も覚えていった。
こんなに頑張ったのに今月も妊娠できなかった、その落胆さえ次第に慣れていった。

『笑って泣いた頃もあって そうでもない今もあって
 どっちでもいいけど どっちでも追いかけていた』

そんな風に、とにかく続けた。

『分かれ道もたくさんあって 真っ暗に囲まれて
 微かな金色に 必死で付いていった
 いつの間にか見えなくなっても 行方探している』

次はどんな方法?また体外受精?少し休む?ストレスも妊娠に良くないし、でも休む間にまた卵子が減って、……
夫婦二人で生きて行く?この人に子供を持って貰うために別れた方が?養子を育てる?
何度も迷い悩みながら、その度にそれでもと続けた。
この世に生まれて来たい子が居るとしたら、私の勝手で諦めてはならない。
そう言い聞かせるように、まだ見ぬ我が子を想いながら。

「子供なんか居なくても、二人でのんびり生きて行けたらそれでいいんだよ」
そう言ってくれる夫に対し
「どうして私の生きて来た意味を奪うの」
なんて酷い当たり散らし方をしたりも、しながら。

次の命を産み育てるために生まれて生きて来た、そう信じ続けていた私にとって。
『命の仕掛けは それでもう全部』だったから。
 
 

BUMP OF CHICKENを聴き始めたのは、治療も5年目に入った頃だった。
いやどうだろう、よく分からない。
元々17歳から22歳頃までよく聴いていたし、夫が長年のリスナーだという事もあって、私のパソコンには一応殆どの曲が入っていた。
ただ、音楽を聴かない生活だった私は夫の車で聴くのが主で、昔馴染みの曲以外はロクに歌詞なんか注目していなかったのだ。
結婚式のBGMを選ぶ時点では全部チェックしたと思うのだけれど、だからそれ以降の曲は歌詞を知らない事になる。
それをちゃんと聴き始めたのが、その頃だったという訳だ。
夫が中期出張を繰り返す立場に上がり、久々の一人暮らしが退屈だったのもあるだろう。

改めて聴くとBUMPの曲達はやっぱり、どれもとても心に染みた。
先の見えない治療と人生に心折れそうな私を救うものばかりで、毎日何時間もBUMPばかり聴くようになった。
そう言えば若い頃の、自分の生まれた環境を嘆きこの先幸せになれるのか不安だった日々も、ずっと支えてくれていたのはBUMPだった。
 
 

『色々と難しくて 続ける事以外で
 生きている事 確かめられない
 報われないままでも 感じなくなっても
 決して消えない 光を知っている』

───比較的新しいこの曲、【firefly】の歌詞を改めて知った時、息を飲んだ。
冒頭から言っている通り、あまりにも私の現状を言い当てられたようで。

子供を産むばかりが人生じゃない、そんなのとっくに解っている、頭では。
だけどどうにも報われなくたって、それに慣れたって、消えてくれない想い。
正直、辛い。
だけど諦めてやめる方がもっと、辛い。
もしかしたら私の生きている意味なんかなくなってしまうかも知れないのだから。

ただ、この曲の2番以降は諦めた後について書かれている。
諦めた事を『黄金の覚悟』と呼んでくれている。
それが心強かった。
きっと諦めた後はこの曲が寄り添ってくれる。
だからきっと報われないけれど、やれる所までやったっていいじゃないか。
そう思わせてくれた。

色々な検査をし色々な治療を試す内、妊娠できる可能性が年齢の割に相当低い事くらい判っていた。
諦めるための心の準備は進めなければいけなかった。
この曲はきっと、諦めた先の助けになってくれるのではないか。
そう思うと少し、いやかなり、安心できた。
 
 

とは言え諦め切れないままに、やがて治療も7年目。
漸くひとつの命が私の中に根付いてくれた。
もう何度目かの体外受精で、経験上殆ど期待できない状態からの思い掛けない妊娠だった。
どうせ流れてしまうんじゃないか?
散々続けて今まで一度も上手く行かなかったのに。
半信半疑の私をよそに、お腹の子は着々と育ってくれていた。

ところが問題が起きたのは私の身体の方だった。
妊娠が引鉄となって病気を発症したのだ。
すぐに入院となり、24時間点滴をする日々となった。

それでも治療をすれば、きっとよくなる筈だった。
だけど何をしても病状は悪化の一途を辿り、やがて。

自分の命を考えなければいけなくなる時が来た。

『諦めなければきっとって どこかで聞いた通りに
 続けていたら やめなきゃいけない時がきた
 頑張ってどうにかしようとして
 頑張りの関係ない事態で
 ふと呼吸鼓動の 意味を考えた』

───そうして、医師や夫との協議の末。
私は、我が子を失う事となった。

『解らない事ばかりの中 唯一解っていた
 大切なものが あぁ』

よりにもよって、自分なんかの命のために。
 
 

長い入院を終え、暫くは何も手に付かなかった。
生きる意味なんか何もないように思えた。
もっと何か頑張れば何とかなったんじゃないか。
自分のエゴで作ったりなんかしたのがそもそもの間違いだったんじゃないか。
子供を幸せにしたいだなんて、自分が幸せになりたいだけで。
何もかも間違いだったんじゃないか。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
同じ事ばかり考えてはただ泣き暮らす日々だった。

夫は心配して、週に2度は帰って来てくれていた。
子供は居なくてもいいと言ってくれていた訳だから、何もかも私の自業自得なのにだ。
仕事を無理に切り上げ夜遅くにこちらへ着き、始発で戻ってまた仕事。
そんな夫に救われながら、それでも一人の時間は辛さしかなかった。

子供を見掛けるのが怖くて外に出られなかった。
SNSを開けば周りの育児話が目に付いて泣いた。
TVを付ければ子供の出て来るCMに泣いた。
ネットさえ妊娠出産に纏わる広告が出て来て……それはそうだろう、それまで散々検索していたのだから……ともかく、泣いた。
妊娠中の友達の「眠い」「お腹空いた」という他愛ない言葉さえ「妊娠してるから眠いしお腹も空くんでしょ」「普通の生活で無事に産めていいね」なんて刺々しい事を思っては、醜い自分が情けなくてまた泣いた。
しんとした部屋に居れば外から子供の声が聞こえて泣いたし、夜になればいよいよ孤独で尚泣いた。
体調も戻らないのが余計に辛さを増させていた。

そうだ、音楽を聴こう。
子供の話は出て来ないし、子供の声も聞こえないし。
漸くそう思えたのは、どのくらい後だったろうか。

『一人だけの痛みに耐えて 壊れてもちゃんと立って
 諦めた事 黄金の覚悟
 まだ胸は苦しくて 体だけで精一杯
 それほど綺麗な 光に会えた』

……それはやっぱり、私に寄り添ってくれる曲だった。
こんな形でだなんて、想像していなかったけれど。
 
 

勿論、望んだ結末じゃなかった。
だけど結果だけ見れば自分の欲のために始め自分の身のために終わらせたという最低な話、理解し寄り添ってくれなんて人に言えたもんじゃない、抱えて耐えるしか無い。
第一、どんな事にしろ、自分の辛さなんかちゃんと解るのは自分だけだ。
共に決断し同じ子を失った夫でさえ、同じ痛みな訳じゃない。

そんな中で、この曲は大きな救いだった。
恐らく確実にこんな事態を想定した唄ではないのだろうけれど、具体的な事を可能な限り省いて気持ちにフォーカスしてくれている事で、こんな自分さえ重ねられる。
もっとも、BUMPの歌詞はそう心掛けて書かれているようで、どの曲だってそうなのだけれど。

自分の気持ちが上手く表せずに怒ったり泣いたりしている幼子に目線を合わせ、「こうだったんだよね」と言語化してくれる大人───BUMPの曲はそんな存在かも知れない。
言葉にして貰ったところで過去は変わらない、だけど気持ちは凪ぐ。
凪げば次の事が考えられる。

諦めた事が失った事がこんなにも辛い程、大切なものを知ったという事なのかも知れない。
そんな風に、思えた。
何もかも勝手なのは重々承知だ。
 
 

『物語はまだ終わらない 残酷でもただ進んでいく
 おいてけぼりの空っぽを主役にしたまま
 次のページへ』

そうして、私はまだ生きている。
『色んな場面を忘れていく』……そんな風に、やがてこんな辛ささえ、哀しいかな色々と記憶の隅に追いやりながら日常をこなすのだろう。
引き換えに貰った命だから大切に、なんて全然思えないし、そもそも私が死んだら子供ごと死んでいた訳だから引き換えというのも少し違うけれど。

生きているから、生きて行くしかない。
ただそれだけ。
『命の仕掛けは わずかで全部』だ。

もう子供は殆ど望めないだろうと医師は言う。
次に妊娠すれば再発する可能性は極めて高いのだ。
仮に上手く行く一縷の望みがあったとしても、自分が決めて手放したものをまた欲しがるなんて馬鹿げた真似は、できない。

『色々と難しくて 続ける事以外で
 生きている事 確かめられない』

私はまだ、自分の命の意味を実感できない。
自分の遺伝子を継いだ人間を産む事以外、世の中は私じゃなくても大丈夫な事しかないんじゃないか。
そんな風にも思ってしまうのは、自分が親に存在を否定され続けた故かも知れない。

だけど私は。

『報われないままでも 感じなくなっても
 決して消えない 光を知っている』

その言葉通り、知っている。
諦め切れず追い続けた、強い願いの事を。
諦めた今でさえ輝き続ける、憧れの事を。

そして、この先二度と叶わなくても、その事にやがて慣れて行っても、忘れる事はないのだろう。
いや、いつか年を取り全部忘れたって、消える事はないのだろう。
懸命に追い求めた日々も、失った自分を責めながら悲しみ苦しむ日々も。
お腹の我が子と確かに過ごした、愛しい日々も。
 
 

『一人だけの痛みに耐えて 壊れてもちゃんと立って
 諦めた事 黄金の覚悟』

───生きる事を選んだ。
それが価値のある事だった、とはまだ思えない。
痛みだって私の分は私だけのものでしかない。
だけど、それでも。

「お前に死なれた俺の事も考えてみろよ」
そう泣きながら、無価値な筈の私を生かす道を選んでくれた夫が居る。
「例えお前がどんなに拒んでも俺は無理矢理お前を助ける、だから全部俺のせいにしたっていい」
そう手を握り、痛みまで引き受けようとしてくれた夫が居る。

それでやっと、気付く事はできた。
私は既に手に入れていたのかも知れない、と。
幼い頃から欲しくて堪らなかった、新しい家族を。
私の存在を望んでくれる人を、生まれて来た意味を。
 
 

きっと私はこの先も生きるだろう。
罪に頭を抱え、後悔に胸を掻き毟り、時に私の欲しかったものを手に入れた誰かを羨んではみっともなく泣きながら、それでも生きるだろう。
私を生かすと決めてくれた夫の、いつだって生きる力となれるように。
そしてこれまでの経験が、これからの経験が、いつか傷付き先の見えない誰かへそっと寄り添うものとなれるように。
中々そうなれなくても、そうなりたいとは精一杯足掻きながら。

……こんな事を言うのは勝手で烏滸がましいけれど。

『今もどこかを飛ぶ あの憧れと 同じ色に 傷は輝く』

こんな私にも寄り添ってくれた、この曲のように。
 
 

───最後に。
この音楽文を書こうかどうか、実は物凄く迷った。
大っぴらにできる事でもないのは解っているからだ。
だけどそれでも書いたのは。

この曲の作詞を手掛けた藤原さんも、こんな気持ちを知っている程何か苦しい経験をしたのだろうか。
わからないけれど、この曲に救われる程の何らか苦しい経験をした人はきっと大勢居るだろう。
そんな風に思ったからだ。

“自分だけじゃない”、何も解決させない筈のそれは、何より力になってくれる時がある。
痛みの内容は自分だけのものでも、何かしらで似た痛みを抱えている人は大勢、もしかしたらこの世の全員かも知れないという程、居る筈で。
その事に何処か安心する時は少なからずある、少なくとも私にはある。
勿論“自分が一番辛い”“自分だけが辛い”としか思えない時も、そう思う事で救われる時もあるのだろうけれど。

この自己中心的な拙い文だって、私の経験だって。
ひとりにでも、ひとかけらでも、何かの力になれたりはしないだろうか。
……最後まで勝手ながら、そう願っている。
 
 

(文中の『』内は全てBUMP OF CHICKEN【firefly】より)

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