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数え切れないゆめを 今までありがとう

APPLIQUE 「RELIC E.P.」について

人生に迷っているとき、何かに疲れているとき、
自然と必要としている音楽が自分のそばに寄って来る。文学と同じ様に。
そうやって音楽に、本に、今まで幾度となく救われてきた。

人生の中で誰よりも、と想った人と別れた二年前。
それからは自分のことだけを、脇目も振らず突き進んできた。必死だった。

それなのに、なぜだろう。わたしはまたここで立ち止まっている。

刻々と時間が流れていく中で、心の片隅に仕舞っていたあるバンドのギタリストが、新たにソロプロジェクトを始めるというのを耳に挟み、発売前のイベントに気付けば足を運んでいた。
前回の帰国から二年近く日本を離れていたわたしにとって、久しぶりの再会だった。
 
 

ユナイトというバンドに、わたしが初めて出会ったのは高校二年生が終わる春だった。
学校も家庭も息苦しかった16歳のわたしの唯一の居場所はライヴハウスだった。
一口に言えば、ヴィジュアル系バンド。
けれどもそれを毛嫌いする人たちにも是非一度聴いてほしい。それくらい‘音楽’が魅力的なバンドにわたしはどんどん惹かれていった。

あの頃から6年が経ち、バンドとしての格が上がり、演奏技術も格段に向上した結果、メンバー個人がバンドを動かせるくらいの力をそれぞれに持てる様になってきた頃、‘方向性‘という壁にぶち当たっていたというのをインタビューの記事や、メンバーの発言で知った。
好きなバンドがいる人なら、出来ることなら避けて通りたい「大切なお知らせ」で目にするトップワードではないだろうか。CDが売れない今の時代では、中堅と呼ばれるバンドでさえ、解散するバンドが後を絶たない。実際にユナイトのメンバーである椎名未緒とハクは前身バンドであるキャンゼルを3年を待たずに解散しているという経験があり、ユナイトは結成当初から「終わらないバンド」という目標を‘コンセプト’として掲げてきていた。
誰もが敏感になる‘解散’という言葉を敢えて強調してきた彼らはきっと顔も見えない四方八方から突かれることも少なくなかっただろう。それでも彼らの‘音楽’と‘斬新なアイデア’を強力な武器として活動してきた中去年7年目を迎え、人知れず壁にぶち当たっていったと言う。

そんな渦中でこれまでメインコンポーザーとしてバンドを引っ張ってきたリードギター未緒は、バンドが新しい展開を模索していく中で自身が作り上げてきた曲達が採用されずに死んで行き、更には表現したい想いが抑制されていくだけの現状に、彼の心も徐々に死んで行ってしまった。
表現者にとって作品とは心、そして自分自身の投影であり受け手がいてそこでやっと昇華されていく。一人で活動しているアーティストと違い、複数のメンバーから成るバンドが常にそれぞれの意思を反映させていくというのは難しいだろう。
しかしながら音楽を届けるという一番の意思が叶わなくなっていた彼は、自分自身すらも見失っていた。そんな時、親友でもあり同業者でもあるWING WORKSのボーカルRYO:SUKEからの助言により立ち上がったのが今回の椎名未緒ソロプロジェクトAPPLIQUEという訳である。

アルバムのリリース発表時に目を引いたのがRELIC E.P.と言うタイトル。
英語で遺品という意味だ。由来は自分が仮に今死んだとして、バンドとして最後に発表した曲が例えば彼を形容するにそぐわない作品だったとしても、個人として良い音楽を世に出しておくことで、いちアーティストの遺作として残るということだが、彼の現実的かつ用意周到な性格がよく表れていると感じた。
 
 

先行視聴会という名のイベントは3部に渡って行われ、曲を流す際は全て彼の意向で会場を暗くした状態で行われた。
誰もが目を閉じ耳を研ぎ澄ませる中、まず一曲目のAzが流された。
爽やかさに切なさが混じる椎名未緒を特徴付けるギターフレーズと共に、よく耳に馴染みのある歌声に包まれ、会場ではちらほらと鼻をすする音が聞こえる。
かつてキャンゼルとして名を馳せた3人が再び音を奏でているというのだから、その頃の面影を感じずにはいられなかった。時間が戻ったような、あるいは止まっていた針が動き出したような不思議な空間に会場が包まれた中、
アルバム5曲目である彗星が始まったかと思えば、一瞬で宇宙空間に放り出され、眼前には無数の星達が飛び交っている。ふわふわと浮く体に手を差し伸べるかのように甘い歌声が聞こえてくる。今まで耳にしたことのない、儚く、優しく、それでいて芯のあるタケルの声にわたしは完全に圧倒されていた。
未緒のギターが彗星となり、それにぴったりと絡みついて離れない。
説明が遅れたが、このアルバムでは一曲ごとに異なるボーカルが参加しているという豪華さであり、一人を除き全員が現役を引退しているというのが特徴的だ。つまりは未緒自身がファンであるボーカリストに声をかけレコーディングをしているため、それぞれのボーカルの素質がこれでもかというほどに活かされている。ほとんどの曲をボーカル先行の前に作曲したようだが、それぞれのボーカリストのために書き下ろしたのではないかと思い違う程の出来なのだ。この日のイベントが終わる頃には、わたしは完全に高校生の頃の自分に戻っていた。

胸のドキドキが止まらず、このアルバムは凄いものになるのではないかと思い馳せながら、翌
日二部へ飛び込んでいた。少しのトークの後、会場が暗くなり鼓動が一気に速まる。

― 約束はいらない

その言葉を追いかけるように鮮やかなイントロが始まり、季節が12月だということを忘れ一気に遠い‘あの頃の夏’に引き込まれる。アルバム2曲目のニアリーだ。
知った記憶ではないのに、目を閉じればそこに青空が広がり懐かしい気持ちで溢れてしまう。未緒にギターを弾かせれば一瞬で星屑を産み出したり、夏の回想に引き込んだりと、まるで魔法の杖のように自由自在だ。
懐かしさに浸る間もなく続けて鋼鉄のリンネ。前述の3曲とは打って変わって挑戦的で遊びゴコロがある。しかしながら隙がなく格好が良い。ラッコのボーカルとして現役で活躍している平一洋の度量が、未緒の毒づいた言葉を彼自身の中で分解して、曲全体を飲み込まんばかりに存在感を発揮している。

あっという間に二部も終わり、残すは2曲となった。三部は二部の数時間後に行われたが、わたしの中では最も印象深い時間になった。
前二部よりも大音量の中アルバム四曲目-273.15℃が流れ始め、これまでとは違う空気を感じた。何故か心の中がざわつき深刻な気持ちになり、Yo-shiTの歌い出しと同時に息が苦しくなった。
ラウド系を彷彿とさせる重厚なギターサウンドがわたしの骨を伝って内臓を震わし、ついに堪えきれなくなった涙が次々と落ちて行った。
歌詞も分からないまま曲の熱量に押されて感情的になる中、耳に入ってきたのは

― もうすぐ風も止んで 或いは僕自身も? 払っても拭っても 誰も僕に気づかない

後のインタビューで読んだのだが、この曲は自分の作った曲達があてもなく死んでいくのを前にして、バンドを続けていくためには自分の自我さえも殺してしまおうという心の叫びだった。
そんな胸の苦しみがわたしの中に入り込み、知らずと息苦しさを身体中で感じ取っていた。

― 僕の想いも 何もかも 全てを凍らせて 二度と溶けない 永遠となれ

ユナイトとしてではなく心の消化のために書いたものが、わたし自身一番望んでいた音楽だと知ったとき、やるせない気持ちと付随して、バンドを続けていくということの難しさを改めて思い知った。感情的な涙でいっぱいのわたしの元に、最後に優しさに満ちたラブソングが舞い降りてきた。
アルバム最後の曲レムリアだ。
まるでおとぎ話の世界にいるかのような幸福感に包まれた曲調に対して、歌詞は離れて行ってしまった人を想う切なさが途中滲むが、最後は

― 全て忘れても 全て無くしても 君をあいしてる

という無償の愛の言葉に胸がいっぱいになり、また涙が零れ落ちた。
 
 

この6年間椎名未緒というアーティストを見てきて、良くも悪くも裏表のないはっきりした物言いだからこそ、人を遠ざけることも少なくなかったと思うが、レムリアの中のこの
‘あいしてる’
という言葉が椎名未緒にとって如何に‘意味’を持っているかを、彼を見てきた人は感じ取っているだろう。

一度辛い局面にあったところから、自分で道を切り開き前を向いて進んでいくということは、誰しもができることではないだろう。
終わらせることは一瞬だが、続けていくということはどんな事においても難しい。
わたし自身色々な迷いの中で今も彷徨っているが、それでも彼の人生に対する変わらぬ実直な姿を見て、一歩ずつでも前を向いて頑張ろうと心に誓った。アーティストとファンとはそこに一つの関係性が成り立っていて、お互いに感化されつつ、応援されつつ成長していくものなのかもしれない。
今回彼自身初のソロプロジェクトを通して色々な想いを昇華させた事によって、彼本来の母体であるユナイトを更に高みへと連れて行ってくれることを願わずにはいられない。

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