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ぜつぼうのうた

ウィズアウト・ユーを歌うハリー・ニルソンの痛み

 

二ルソンの1971年のヒット曲、Without You、は世によく知られている名曲だろう。
この曲はハリー・二ルソンの作った曲ではなくて、ピート・ハムとトム・エヴァンスという人が作った歌、
二ルソンがヒットさせる前年にイギリスのバンド、バッドフィンガーが発表した曲だった。
1990年代にはマライア・キャリーがカバーしていたのを知っている人が多いのかもしれない。
その他にもカバーバージョンは多い。

ここで書いておきたいのはこの曲の素晴らしさの事じゃない。
二ルソンに名声をもたらし、後世に残るバラードとして有名にもなったそのオリジナルバージョンの事じゃない。

そういう話をする前に二ルソンのヒット曲、Without You を聴いてみよう。
今の時代、聴いてみたい曲、古いも新しいも、いつでも検索して聴くことができる。

そして次はこの曲の作者である方のオリジナル、バッドフィンガーの歌うWithout Youを聴いてみよう。

マライア・キャリーの方はマライアさんにはもうしわけないのですがもう忘れてしまった。
 

歌の内容を言えば
これは、別れの歌、なんだろう。
愛する人と別れてしまうかなしみを歌にした表現なんだろう。

だとしても、
この歌を作った張本人であるバッドフィンガーのオリジナルはどうにも軽い印象がある。
二ルソンのカバーバージョンの方がよりいっそうこの歌の真を表現できていると感じるのは間違ってはいない。

ハリー・二ルソンは一節一節に情感を込めて、細やかな声の強弱を使って、きみへの想いを歌う。
君は美しいひと。その愛しさも慈しみも、絵に見えるように、音楽と共に映しだされてゆく。

この劇的で重厚で感動を呼ぶ展開は、やはり完成されていて、表情のある二ルソンの歌心も素晴らしい。
ヒット曲、名曲、後世に残るバラードとして、これからも忘れられないのだろう。
 

歌詞の中にある、”僕は明日という日を忘れることはないだろう” というところには心がある。

別れてしまった今日という日を忘れることはないだろう、と言ってしまうのがふつうだけど。

でも、そうじゃないんだね。
きみの居なくなった明日 の方がわすれられなくなるんだ。

そして、
”きみはいつも笑っているけれど、その眼に映るかなしみが見える”
”そうだよ、見えるよ”
と、二ルソンが言葉を噛み締める時、そのきみの表情が絵に見えるようで愛おしい。

その完成された音楽も好きだ。
 

でも
ある時、
ハリー・二ルソンのウィズアウト・ユーのデモバージョンがあるのを聞いた。
Nilsson「Nilsson Schmilsson」のアルバムのCDに、ボーナストラックとして収録されていた。

なにげなく聞いていて、その歌が始まったとき、思わず手を止めて、その場でしていたすべてのことを放りだして、
ひとつひとつを静かに聴いた。

ハリー・二ルソンが自身でピアノを弾き、歌に向き合っている。
けれど、これが音楽を完成させる過程での仮歌だと言うのか?
ただのデモンストレーションだろうか。
ハリー・二ルソンにいったい何があったんだろうか?

この歌から聞こえてくるのは沈み込んだ気持ちと狂おしい激しさ。
それは、大切なものを失くした悲しみか。
慟哭の表情は、歌手としての表現以上のもの、それ以外の何だろう。
痛い。
痛くてつらくて、繰り返し聴く気が起きない。
音楽を楽しむことなんてない。

デモバージョンはドラマチックに完成されてもいないけれど、これが真実じゃないか。
まぎれもなく、ほんまもんの歌。

失った愛に打ち負かされ、こわれ、それでも正気を保っていようとピアノの前に居る。
ひとつひとつの言葉を、確かめるように、声に力を込め、力を抜く。
”I can’t live I can’t give anymore”
と二ルソンが叫ぶ時の響きは、なんとも言えず、言葉も感情も見失う。

こわれそうでもギリギリのところを保っていた声が、最期には本当に途切れて、かすれた。
ちいさく鳴るピアノと共に曲が消えてゆく。
僕はこの瞬間をいつでも心に置いている。
 

ハリー・二ルソンが作ったわけでもない、
ぜつぼうのうた
絶望の歌

世に数ある別れの歌が、その事実に、そこにある感情に、本当には向き合ってもいない気がした。

さよなら
さようなら
すきなのにお別れ
好きだったけど、おわかれ
大切だったよ、でも仕方がない
前を向いて新しい道に行くしかない
GOODBYE
goodbye

本当にそうだろうか?
簡単にいくだろうか?
愛を失うってどういうことだろう?
別れの歌を簡単には歌えない。
愛する人を失うことを表現出来ない。
時を経たとして薄れてゆく記憶の中から思い出と共に少しだけ痛むなんて。
 

二ルソンがピアノの前で歌うウィズアウト・ユーは
どんな歌よりも悲しい。
 

ひさしぶりに聴いてまた涙が出てしまった。
 
 

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