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アイドルが割った境界線というガラス

欅坂46が打ち破ったアイドルという幻想

 

子供の頃から音痴で、音楽に興味がなかった私が初めて音楽に触れたのは中学校入学と同時に買ってもらったiPodがきっかけだった。それから今までたくさんの曲を聴いてきた。主に好きなジャンルは邦ロックで、同世代のほとんどが好きだったBUMP OF CHICKENやRADWIMPSが大好きだった。

それから今まで、ロックこそが最高の音楽だと信じて疑っていなかった。ましてや、アイドルになんて全く興味はなかった。見下してすらいた。そんな私が、この春に偶々YouTubeで見かけた欅坂46のある曲に全てを塗り替えられた。

アイドルなんてみんな同じ顔でニコニコ笑って、意味も無い歌詞を歌って踊るだけだと思っていた。しかしそのMVにはそんなものはなかった。

椅子に座ったセンターの平手友梨奈がカメラを睨むところからシーンはスタートした。平手友梨奈という名前は聞いたことがあったし、初期の頃の顔もぼんやり覚えていたが、画面の中の彼女とは全く結びついていなかった。「誰だこいつは」という思いを抱いたことを今でも覚えている。

そのまま何が起こるのかと見ていると、彼女は視線を外し、立ち上がり、目の前のテレビを台からテーブルから蹴り落とした。ありえないだろう?私が思っていたアイドルはこんなことはしなかった。しかもよく見ると平手が着ているのは真っ赤なMA-1にパンツスタイル。アイドルってヒラヒラした可愛い衣装じゃないのか?

そこからシーンが切り替わり、平手を中心に、黒のMA-1を着たメンバーが歩き出し、曲がスタートする。

最初の場面では、エキストラのダンサーが登場し、欅坂46 vs ダンサーという構図になっている。アイドルってこんなに髪振り乱して踊っていいのか?

そしてサビ前には
<今あるしあわせにどうしてしがみつくんだ?>
<閉じ込められた見えない檻から抜け出せよ>という歌詞がある。この辺りで薄々気づき出していった。「これ、ロックだ」

ただ楽器の音と一緒に歌っているんじゃない。彼女たちの体がギターであり、ベースであり、ドラムだった。

<目の前のガラスを割れ! 握りしめた拳で Oh!Oh! やりたいこと やってみせろよ おまえはもっと自由でいい 騒げ!>

このサビのダンスを見た時、私の口からは意識せずに「嘘だろ…?」という言葉が出ていた。メンバー全員が画面の奥から迫ってくる。必死の形相、怒りすら込めたような表情をしながら。アイドルってこんな顔していいのか?

<夢見るなら愚かになれ>
<傷つかなくちゃ本物じゃないよ>

ここで1番が終わる。

2番においてもダンスは激しく、表情は険しい。笑顔どころか歯すら見せていない。メンバー一人一人の視線には、歌詞のとおり反抗心、権力に対する反逆心が見えた。でも、アイドルってそれを出していいのか?

2番のサビでは先程とは異なり、平手以外のメンバーがマイクスタンドを持ちながら歌うシーンと平手のソロダンスが交互に現れるようになっている。ソロの平手のダンスは、何か自分を包むものと戦っている印象を受けた。

<偉い奴らに怯(ひる)むなよ! 闘うなら孤独になれ 群れてるだけじゃ始まらないよ>

その後のサビ終わりで、平手以外のメンバーがスタンドからマイクを抜き、何をするのかと思った瞬間、そのマイクスタンドを蹴った。AKBは「ヘビーローテション」でマイクスタンドと踊っていたのに、そのスタンドを蹴っていいのか?

そしてラスサビ前の間奏では、平手を中心にメンバーとダンサーが円を作り、平手を囲んでいる。ライブでよく見るモッシュにも見える。すると、平手が頭を円状に回すと同時に全員が波のように跪き、平手は倒れる。

シーンは切り替わり、手を高く掲げた後、自分の顔を両手で覆い、何かもがくようにした後その手を振り下ろす平手。いったい彼女は、彼女たちは何と戦っているのか。もう目が離せなかった。

<目の前のガラスを割れ! 握りしめた拳で Oh!Oh! やりたいこと やってみせろよ おまえはもっと自由でいい 騒げ!>
<邪魔するもの ぶち壊せ! 夢見るなら愚かになれ 傷つかなくちゃ本物じゃないよ>

平手のソロダンス。圧巻。圧巻でしかなかった。こんなもの見たことがなかった。

そして平手の後は他のメンバーのダンス。

<想像のガラスを割れ! 思い込んでいるだけ Oh!Oh! やる前からあきらめるなよ おまえはもっとおまえらしく 生きろ!>

アイドルにおまえらしく生きろなんて言われるとは思わなかった。

<愛の鎖引きちぎれよ 歯向かうなら背中向けるな 温もりなんかどうだっていい 吠えない犬は犬じゃないんだ>

意味が分からなかった。アイドルじゃなかった。私の知っているアイドルじゃなかった。アイドルって髪振り乱してカメラ睨んでおまえらしく生きろっていうものなんて知らなかった。ロックじゃん。ロックの定義なんてわかんねーけどロックじゃん。

それから私は欅坂46を調べた。色んなことを知った。その中で知ったのは、彼女たちが普通の女の子だという事だ。確かに彼女たちは曲によってはパフォーマンス中には笑わないが、バラエティなどを見ているとそれは普段の彼女達とは違うことも分かった。

そんな彼女たちがこんな歌を歌うのか?あんなダンスをするのか?あんな鬼気迫る表情をするのか?私の中の常識が砕け散っていった。いったい何があればあんな顔をできるのだ。

アイドルを見下していた事が馬鹿馬鹿しくなった。

「サイレントマジョリティー」、「不協和音」など彼女たちの曲は大人たちへの反抗心や自分自身との葛藤で溢れているものが多い。

その中でも、この「ガラスを割れ!」は一種異様な雰囲気の曲である。欅坂46の曲では「僕」という主人公が存在する。しかし、この曲では「僕」は「俺」であり、「君」は「お前」である。

大人への反抗心といえば10代の頃が想起され、「サイレントマジョリティー」や「不協和音」の歌詞に共感を抱けるのも10代の若者がメインだろう。

しかし、「ガラスを割れ!」では大人への反抗ではなく、権力への反抗、抑圧への反抗、そして自分自身のスタンスへの反抗などが叫ばれている。「お前はそれでいいのか?」「お前はそれを受け入れるのか?」というメッセージがこの曲には込められており、それらに反逆することを「ガラスを割る」と表現している。大人になって感じるようになる様々な制約やストレスに囲まれると、ガラスの壁に囲まれたように感じる。それを割れと言っている。しかも、「割ろう」ではないのだ。「割れ」なのだ。隣に寄り添うのではなく、やるかやらないのかを自分自信に投げかけてくる曲なんてアイドルが歌っているのを見たことはなかった。
 

なにか打ち破りたいものがある大人、アイドルなんてと考えている大人。この曲を見てほしい。そして自分の価値観というガラスをバッキバキに割られてほしい。
 
 
 
 
 
 

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