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地平線を追いかけ続けた、その先に

MAN WITH A MISSION・阪神甲子園球場でのツアーファイナル公演を見た

およそ半年前、最新シングル『Take Me Under/Winding Road』を世に放った後に満を持して発表された、5枚目となるフルアルバム『Chasing the Horizon』のリリースとそれに伴う近年訪れていなかった都道府県を中心としたアルバムツアー。そして、そのツアーのファイナルの地はMAN WITH A MISSIONにとって初のスタジアム公演となり、同時に自身最大キャパシティとなるライブであった。彼ららしいファイナルの会場の選択に、飛び上がって驚いた人もいただろうし、表情を綻ばせて喜んだ人もいただろう。いずれにせよ、このバンドが大きな一歩を踏み出そうとしていることを誰もが感じ取ったはずである。
ファイナル公演当日の11月17日、私は会場に向かいながら発表当時のバンド公式のツイートを見返し、少し泣きそうになった。あれから半年、一体どれだけこの日を待ちわびたことだろう?高鳴る鼓動を胸に私は、辿り着いた会場の名前を見上げた。兵庫県・阪神甲子園球場────たった一人、私にとって初めての遠征ライブだった。
 

開演まで残り30分を切った頃、私が入場すると、すでにパンパンのアリーナ立ち見エリアと見渡す限り人、人、人のスタンド席が辺り一面に広がっていた。私の座るアルプス席からは、普段なら絶対に揚がることがないであろうMAN WITH A MISSIONのバンドロゴ、そして今回のツアーのタイトルロゴが示されたいくつもの旗が、まだ白い上弦の夕月の下で風になびいているのがよく見えた。
でかい。オーディエンス席の出で立ちだけでもド迫力のこの会場に、思わず圧倒されてしまう。それもそのはず、ここ阪神甲子園球場は阪神タイガースの本拠地そして日本一の大きさを誇る野球場であり、全国の野球児が焦がれてやまないあの甲子園の大会会場なのだ。そんな場所に今から、全くの別ジャンルではあるがきっと志は同じ、常に日本のロックシーンを進化させ続けてきた我らがMAN WITH A MISSIONが立つ。そう考えただけで、まるで高校野球の決勝戦を観戦するかのような緊張とワクワクが止まらなかった。

開演時間を少し過ぎ、オーディエンスがそわそわし始めた時、突如巨大モニターに吉本新喜劇の芸人たちが映し出された。そのまま彼らによるコントなどに織り交ぜてライブ時の注意事項がアナウンスされると、予想外のサプライズに会場はどっと笑いに包まれる。こういったひと工夫を凝らした配慮も、いつも親身になってファンの私たちを想ってくれる彼ららしい。それまでの緊張はどこへやら、すっかりやわらかくなったオーディエンスの表情が揃うといよいよ開演前のアナウンスも終了し、会場は拍手でそれに応えた。
その瞬間だった。会場に今日最初の拍手が響き渡った瞬間、それまでバラバラに風に煽られていた旗たちが一斉に綺麗に同じ方向を向いてなびき始めたのを、私は見逃さなかった。きっとこのライブは良いものになる、私はそう確信し、拍手する手に一層力を込めて彼らの登場を今か今かと待っていた。

時は満ち、拍手が鳴り止まぬうちに、半年間待ち続けたあの瞬間がやってくる。聞こえてきたのは、野球の試合開始の合図でおなじみの“あの”サイレン!甲子園会場ならではのこの演出にはオーディエンスも大喜びで、一気に歓声が溢れ出す。サイレンは徐々にノイズ混じりになっていき、やがてステージに広がったスモークに頭は狼、身体は人間の奇異な生命体の姿が浮かび上がる。『虎の聖地』が『狼の聖地』になった瞬間だった。

待ちに待った5匹の登場に会場が沸き起こる最中、始まったのは『Chasing the Horizon』の1曲目を飾る“2045”。明快かつスリリングなサウンドに皆が手を挙げ、徐々に会場のボルテージを上昇させていく。続く“Broken People”では、今作でさらにアップデートさせた鋭くヘヴィなギターリフが鳴ると同時にステージ横の巨大モニターにグロテスクな目玉が映し出され、その空間全てを一気に狂気に塗り替えていった。

「イケンノカ、甲子園!?カカッテコンカイ!!」

いつにも増してその目をギラつかせたジャン・ケン・ジョニー(Gt&Vo&Raps)の煽りから“database”で早くもテンションを振り切らせ、ひとしきり暴れ倒したあとに披露されたのは、大和魂込めた力強い歌詞がモニターいっぱいド迫力に叩き出された“Freak It!”、そして、このスタジアム公演のために作られたんじゃないかと思うくらいの壮大なスケールを抱いた“Break the Contradictions”。甲子園会場に鳴り響く4万5000人の息ぴったりのハンドクラップの心地良さは、とても言葉では言い表すことができない。会場どころかもう海を越えて遠く海外にまで届いていたんじゃないかと勘違いを起こしてしまうくらいの特別な一体感とあの高揚感は、あの場にいた者だけの特権だ。

空も夕焼けに染まり始めた頃、時折冷たい風が吹き抜けるスタジアムに鳴り響いたのは、全くもって予想していなかったあのイントロ────思わず天に向かって飛び跳ねたくなるようなギターリフが耳に残る、“higher”だった。聴き間違えるはずもない、私が人間関係に悩んだり受験で不安になった時に何度も何度も聴いて、その度に勇気づけてくれた大好きで大切な曲。自然と、辛かったあの日々が懐かしい思い出となって頭の中で流れていく。オレンジ色の空に映える広大な大地の映像がこの曲の世界観ぴったりで、思わず突っ立って見惚れてしまった。辛かったし、何度も嫌になったけれど、あの日々は間違いなく今の私に必要だった────今目の前に広がるこの景色が、それを証明してくれていた。
気づいたら、私は泣いていた。夢に近づいているのか遠のいているのかもわからない、明かりの全く見えない真っ暗な道を手探りだけで進む不安だらけの毎日で心が折れかけていた私に「諦メンナ」と声を掛けてくれた気がして、涙が止まらなかった。大丈夫、これからも頑張って生きよう、そう思えた。

この季節の日の入りは早い。すでに太陽も沈んで本格的になってきた寒さを吹き飛ばすかのように炎の演出とともに披露されたのは、全編ストリングス隊を従わせドラマチックかつ彼らの中の渦巻くスピリットが互いに100%共存した“My Hero”。続く“Get Off of My Way”でおなじみのダンスをオーディエンスに踊らせて冷える身体を温めさせると、“Dead End in Tokyo”ではどこかエキゾチックなメロディーに乗せたジャン・ケンとトーキョー・タナカ(Vo)の色気に満ちた見事なボーカルの絡み合いで私たちを酔わせていった。
すっかり暗くなったスタジアムで幾千ものまばゆい光の粒たちとともに送り出されたのは、全編日本語歌詞のバラードソング・“Find You”。この曲は映画『覆面系ノイズ』のエンディングテーマにタイアップされた楽曲だが、今聴くと、これはまさしく彼ら自身のことを歌った曲なんじゃないかと思わされる。2010年、突如南極の氷から解き放たれロックバンドとして世界の音楽シーンに現れたMAN WITH A MISSION。彼らの生み出す音楽はどれも自身の見た目通りギラギラしていて、国内外を問わず誰もがその魅力に惹き込まれていく。そんな地球外生命体の彼らだけれど、根本に秘められたロックへの想いはいつだってキラキラ輝いていて、夢を追って走り続ける少年そのものだった。時々ポロリと漏らす私たちリスナーへの想いだって、本当に狼?と疑ってしまうほど優しく真心に溢れていた。“Find You”は、“君を見つける”と約束を交わした来世の彼らと私たちの歌だ。

《君をまた/見つけるから/世界が消えても/また見つけに行くから》(“Find You”)

タナカの男気溢れる声が、やわらかな日本語歌詞に魂を乗せて歌い上げる。それはまるで彼らに直接心を揺さぶられているようで、途端に目頭が熱くなった。徐々にぼやけていく私の視界には、本当に夢のような幻想的な景色がゆらゆら儚げに映っていた。
 

「悪イ夢ッテ結末マデ見ルケド、良イ夢ハ良イ所ニナル直前デ終ワッチャウジャナイデスカ。デモ今日ハソノ良イ夢ガ叶イマシタ。良イ夢ヲ最後マデ見セテクレテ、貴方タチニ本当ニ感謝シテイマス」

ステージ上に1匹残ったジャン・ケンがそう話した後、アコギ片手に弾き始めたのは、アコースティックにアレンジされた“Sleepwalkers”。ジャン・ケンの弾き語りで奏でられる子守唄が、光の粒と交わってゆっくりと溶けていく。うっとりするほど優しい歌声と音に私たちは皆それぞれ肩を揺らし、夢の中にいるような不思議な感覚に浸っていた。

ライブもいよいよ後半戦、“Hey Now”のタナカの真っ直ぐな歌声でふわふわした雰囲気に落ち着いた会場を目覚めさせると、同曲の大サビ前でジャン・ケンから、アリーナはしゃがんでジャンプ、アルプス席はジェット風船を飛ばせと指示が出た。言われるがまま席の真下に手を伸ばすと、確かにジェット風船がひとつ隠し貼られていた。なんてヤツらだ……最初のサイレンといい、甲子園会場ならでは、そして彼ら自身の野球好きも相まった粋な計らいに思わずニヤニヤが止まらない。大サビ直前、ジャン・ケンの合図で一斉にジェット風船があちこちで飛ばされ、会場の興奮のリミッターはついに外され大盛り上がりをみせたのだった。

過去最高の大合唱を作り上げた“Raise your flag”、カミカゼ・ボーイ(Ba&Cho)のシンセベースとタナカの歌声が美しくも力強く響き合った“Please Forgive Me”、相変わらずこの日も100点満点を叩き出した“FLY AGAIN”の後に締めくくりとして本編の最後に披露されたのは、今回のアルバムのタイトルにもなっている楽曲“Chasing the Horizon”。冒頭のマリンバのような不思議な音色に導かれてついて行くと、どっしりと大地に根を張り響くロックンロールに腕を引き上げられて心を打たれた。ロックソングらしい反骨性を携えながらもポップソング以上の圧倒的な大衆性を帯び、それでいて迎合していないような、そんなロックバンドでありたいと願い、世界の音楽シーンにおけるロックの可能性について真摯に追求し続ける彼らが出した現時点での答えが、そこにはあった。

《Set the fire Now it’s your call Start it over cause today we have it all》
〈訳詞:さあ火をつけるんだ 君の合図でどうぞ また初めからやろう 今日の僕らは完璧だから〉(“Chasing the Horizon”)

あぁ、そうだよ完璧だよ。
だからもっと、もっと先まで一緒に連れて行ってくれ。

ステージに立つ彼らは、眩しいくらいの輝きを放っていた。私たちの愛してやまない5匹はこんなにもかっこいいんだと思うと、この上なく誇らしい気持ちになった。黄金にも似たその輝きが一瞬朝陽のように見えたのは、きっと見間違いではないだろう。
 
 

アンコールはダブルA面シングルとしてリリースされた“Take Me Under”と“Winding Road”、そして最後に“Emotions”で大団円。なぜだか、冒頭の英文が流れた瞬間泣きそうになってしまった。それはきっと彼らが、新しい日の始まりだと『明日』へ繋げてくれたから。4万5000人のこのスタジアムよりもっとすごい景色を見せてやると、どこまでも力強く真っ直ぐな感情と意志で示してくれたから。
頭は狼、身体は人間の彼らMAN WITH A MISSIONの地平線を追いかける旅は、まだまだ終わりそうにない。朝陽という名の彼らが目指すロックバンドの在るべき姿が見えるまで、闇夜の長く険しい道のりを進んでいくことだろう。おこがましいかもしれないが、願わくば私もその闇夜を少しばかり照らす星のひとつでありたい、と思うのだ。

次はどんな景色が待っている?
来世で再び彼らに出逢うその日まで、私は彼らを信じてともに地平線の彼方を追い続けたい。

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