1946 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

自分を好きになるということ

LAMP IN TERREN「BABY STEP」に寄せて

 

気づけばここ数年ずっと、自分の人生を正当化するために生きてきた。
人生はいつも理想通りにはならなくて、そんな自分を認めたくなかった私は必死だった。

足を痛めて運動部に入ることを断念した高校時代も、第一志望校に入れなかった大学生活も。
落ち込んで堕落していく自分が嫌だった。だからせめてと、これまでの人生に完璧な道筋を立てようとした。
入りたかった部活や大学を諦めた先の「今」に意味を見出すことができたら、「入れなかった自分」も意味あるものにできるんじゃないか。
「今」を成功させて、その延長線上にある「過去」も成功だったことにしてしまおう。
そうやって、完璧な自分を演じることにした。
 

そんな私が最も恐れていたのは、過去を否定されることだった。

つい最近そんなことがあって、私はひどく落ち込んでいた。
過去を正当化できなくなった私は無力だった。過去を否定されたことで、今の自分まで否定された気がした。騙し騙し楽しんできた今が、正解だと思い込んできた過去が、どちらも失敗に思えた。

それから数日なにもやる気が起きなくて、でもなぜだか、無性にライブハウスに行きたくなった。
たまたま大好きなLAMP IN TERRENのVo.松本大が弾き語りイベントをすることを知った私は、衝動的にチケットを購入した。
昼に友人と会う約束をしていたので、ぎりぎりに会場にむかう。

そこで彼の出番の1番最後に演奏されたのが、この「BABY STEP」という曲だった。

前に聴いた時はそんなこと思わなかったのに、なぜかその日は、この曲が他人事にはきこえなかった。

家に帰ってからも頭から離れなくて、歌詞を読みながらもう一度この曲を聴いた。
 

《幼いままで 大人になって
胸も張れず 意味を探す日々》
 

最初のワンフレーズ。
ハッとした。

過去の失敗に縛られたまま時間だけが過ぎて、理想に追いつけない自分にずっと自信が持てなかった私。
それが嫌でたまらなくて、失敗した過去にも、その上にある今にも、無理やり意味を見出そうとしてきたこれまでの人生。
 

自分の歌だ、と思った。
 

《何をやるにも心は足りないと言う
もっと素晴らしいはずだと言う》
 

「今」に意味を見出そうと、いろんなことに挑戦した自分を振り返った。

運動部を諦めた代わりにギターを始めて、友人と夜遅くまで練習に打ち込んだ。第一志望じゃなかったその大学では沢山の友人ができて、勉強も遊びも全力で取り組んだ。
楽しそうでいいねと、人から羨ましがられることもあった。

それでも、私は満足できなかった。
もし理想通りの人生だったなら、もっと。そんな思いが何度も頭をよぎった。
憧れを憧れのままで終わらせてしまった私が何をしたところで、その憧れを、理想を超えることは出来なかった。たとえ手に入れられていたとしても大したことはなかったかもしれない「理想」が、それを手に入れることが出来なかったが為だけに、自分を苦しめていた。
どれだけ今を足掻いても、過去の失敗はやっぱり失敗のままだった。
 

《認めるための傷 増やす度に
命が泣いている》
 

そしてそれに気づく度に、過去を、その先の今を認めきれない自分に虚しさだけが残った。
一度きりの人生が泣いていた。
 

《立ち止まったまま
歩んで行く誰かの背中を見ていると
怖くて寂しいから
どうしても歪み合ってしまうよ》
 

周りの友人がキラキラしているのが寂しくて、羨ましかった。
過去に執着せず新しい道を進む人。
たとえ今が楽しそうじゃなくても、思い通りの道に進んだ人たち。
どちらが正解なんてないけど、自分より良い人生に違いないと思い込んでいた。
自分だけ一歩も前に進めていない気がして怖かった。
 

だけど。
 

《意味がないとしても
今 笑っていられたらいいだろう》
 

そうだった、私はその日、ライブに行く前、ひさびさに友人に会ったのだ。
そのときの感覚をふと思い出した。

なんとなく肩の荷が下りたような、心が軽くなったような。

そうか、あれだったのか。
こんなに自分のことを認めてくれる人がいて、今この瞬間が楽しくて、今笑顔でいられる。それで十分だったんだ。

意味がなくても、失敗した過去の上にあったものだとしても、そんなことどうでもいいのかもしれない。
少しだけ、今の自分を肯定できた気がした。
 

そして、これからも自分を肯定し続けられる方法を、この曲に出会ってしまった私はもう知っている。
 

《あぁ だって
僕が僕を好きになった瞬間から
世界は 全ては変わっていくのだから》
 

それは「自分を好きになる」ことだ。

自分を好きになるということ。
過去を捨てること、あるいは過去を認めること。理想ばかりに踊らされないこと。
それはこんなに簡単で、こんなに難しいことだったのか。
でもそうしてみたら、だんだん自分の過去が輝きを持ち始めた。
この気持ちをずっと持ち続けられるのなら、「世界が変わる」のも大げさではないのだろうと思った。
 

《僕が僕として生きることこそが
偉大な一歩目だから》
 

そして、「自分が自分として生きる」こと。
今ならできる気がする。
見栄と虚構で今を塗り固めるのはやめて、過去とちゃんと向き合って。
 

始めから終わりまで、こんなに涙が止まらなかった曲ははじめてだった。
正直自分でも驚いた。

もしかしたら、これを書いたVo.松本も同じような気持ちだったのだろうか。
活動休止などを経て、メンバーを含めいろんな人の優しさに触れて、完璧じゃない自分を知って、何かがふっきれて。
 

きっと彼は、共感を得るためにこの曲を書いたのではない。
baby stepという言葉には、「小さな一歩」「わずかな前進」という意味がある。

自分をさらけ出し、新しい自分への一歩を踏み出すため。これは松本大が自分自身のことを歌った、等身大の彼の歌だ。

そしてそんな曲にうかうか共感してしまった私もまた、誰かに共感を得て欲しくてこの文章を書いているわけではない。

いままでの自分を見つめ直して、新しい自分になるため。
変なこだわりは捨てて、自分が勝手に作った束縛から解き放たれるため。
 

私もまた、小さな一歩を踏み出したばかりだ。
 

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい