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転がる僕に降るASIAN KUNG-FU GENERATION

"相変わらずの希望"を掲げる『ホームタウン』

最近アジカンとの親和性が実に高い。何がって、私の人生との。

アジカンの『ホームタウン』がリリースされたのは、昨年末のことだ。
ーー実を言うと、去年の私は自分でも笑っちゃうぐらいノリに乗っていた。

会社員としてフルタイムで働く傍ら、Webライターとしてせっせと記事を書く毎日。
書いた記事を褒めてもらえる度、記事のPV数が伸びる度、とてつもなくやる気になった。
寝る間も惜しむぐらいオーバーワーク気味に駆け抜けた2018年。
荒削りながら、自分の書く文章にも少しずつ自信がついてきていた頃だった。
とある媒体からアジカンの『ホームタウン』についての執筆の仕事を頂いた。
今までも音楽について書かせて頂く機会はあったものの、アジカンについて書くのは初めてだ。
リスナーとしてだけでなく、自分のやりたい仕事を通して、好きな音楽に携わることができる。
しかもそれが中学生の頃から好きなアジカンだなんて、最高じゃないか!
出来ることなら知り合い全員に自慢したいぐらいだ。
もしかしたら、もしかすると、指が滑ったゴッチが読んでくれるなんて事もあるかもしれない。
そんな下心と高鳴る胸をなんとか押さえつけながら、『ホームタウン』を再生した。
圧倒的高揚感の中、私の耳に真っ先に鳴り響いたのは1曲目の「クロックワーク」だ。

<<針が巡って重なったら / もう一度 触れてもいいよって / 笑ってよ>>
(出典:「クロックワーク」/作詞:後藤正文、Rivers Cuomo、Butch Walker 作曲:後藤正文、Rivers Cuomo、Butch Walker)

新譜のはずなのに、そこに浮かび上がったのは何一つ変わらない彼らの姿だった。
いや、変わらないと一言で言ってしまうのはあまりにも彼らに対して失礼だろうか。
彼らの鳴らしている音は確実に格好良くなっているし、LGBTについて歌った「レインボーフラッグ」など時代に合わせたメッセージ性の高い楽曲も今作には収録されている。
しかし、胸の内を知られたのではないかと驚くほどに、私の聴きたかったアジカン像がそこにはあった。
00年代の音楽と共に青春時代を過ごした身からすれば、アジカンの音楽とはまさにホームタウンそのものだ。
『ホームタウン』という最高の作品で、彼らは「おかえり」と出迎えてくれたのだ。
それは決して、私がアジカンの音楽から離れていたからという訳ではない。
仕事に行くのが憂鬱な朝に「藤沢ルーザー」を聴きながら、仕事サボりたいなぁ……なんて思ったり、大好きな「海岸通り」を聴きながら、明日もまた頑張ろうと背中を押されたり。
社会人になってからも、私は当たり前のように彼らの音楽に沢山の日常を助けられてきた。
それでも、大人になった私は少しずつ、好きなアーティストのライブに足を運ぶことや、新譜のリリース日を指折り数えることが減ってきていた。
特にライター業を始めてからは常に睡眠不足になりがちで、ライブに行くよりも家に帰って早く寝たかった。
確実に感性のつまらない大人になっていってるなあと気づきながらも、どうしようもなかった。
だけど、そんな私だからこそーー。
今作の『ホームタウン』を通じて、こうして大好きなアジカンと再会できたのだろう。
今の彼らが鳴らしている音に、自分の心がピタリと重なった気がした。

<<俯いていては / 将来なんて見えない / ほら 雨上がりの空から / 子供たちが覗いて笑う / ホームタウン>>
(出典:「ホームタウン」/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文)

2曲目に続くのは今作の表題曲でもある「ホームタウン」。
まぶたの裏に眩しさと共に浮かんでくるような、希望に満ちた風景が歌われる。
今作全体の空気感を捉えた一曲で、そのあまりの「アジカンらしさ」に思わずクラクラする。
そして、その一方で彼らが音に乗せているのは決して希望だけではない。
希望の前には、当然のことながら時にうんざりしてしまうほどの沢山の現実がある。

<<でも 愛想笑いのスキルを / ピカピカに磨く暇なんてないかも>>
( 出典:「サーカス」/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文)

やりたくない事をやっている暇なんて、本当は私達の人生には無いのかもしれない。
それでも私達の日々には、残念ながら行きたくない飲み会もやりたくない仕事も山ほどある。
そんな日々をまるっと抱きしめて愛して行こうぜという提案は、彼らは決してしないのだ。

<<満たされないけど / 投げ出せそうもない / 少しずる何かを削るような毎日>>
( 出典:「UCLA」/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文)

誰もがなんとなく抱えている閉塞感にそっと寄り添うようなフレーズで包み込む。
アジカンの歌う希望が、全く押し付けがましくない理由が此処にあるのかもしれない。

<<誰も彼も消え去ったって / 闇も夢も連れ出して / もう どこへでも行ける気分さ>>
(出典:「ダンシングガール」/作詞:後藤正文、Rivers Cuomo 作曲:後藤正文、Rivers Cuomo)

後半の「ダンシングガール」では、今のアジカンのポテンシャルを示すかのような力強い言葉が並ぶ。
力強いギターのリフに乗せられて、気づけば心をグッと引き上げられている。

<<脱ぎ捨てれば / 僕たちは また / オールライト>>
(出典:「さようならソルジャー」/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文)

私達は、いや私はーー。
一体今までに何度、後藤正文が歌う「オールライト」という言葉に救われてきただろうか。
空気を変える魔法のような何かが、彼の「オールライト」には込められている。
(個人的には、カタカナを選択しているところも良いと思っている。)
先述の歌詞の通り、アジカンは決して希望ばかりを歌っているわけではない。
現実を前にして蔓延る屈折した感情や時代の暗い空気なんかに対しても、繊細な目線を忘れずにいるバンドである。
だからこそ、彼らの描く希望の色はとても鮮やかだ。
別に根拠なんかなくたって良いし、いっそ無責任な言葉でも構わない。
アジカンは、こうして「オールライト」と歌っているうちに、気づけば時代の空気すらをも作っていくバンドなのだろう。

『ホームタウン』を聴き終えた時、私は思った。
彼らが、私の大好きな格好いいアジカンをこんなにも正面切ってやってくれた。
だからこそ今の私が書ける最高のレビューを書かねばならない、と。
『ホームタウン』を何度も何度も聴き込んで、自分の中に落とし込んだ。
キーボードを叩いては消してをひたすら繰り返した。
メンバー自身の想いや、色んなリスナーの感想にも目を通した。
そうしてなんとか記事が自分の書きたい形になってきて、私は私の好きな仕事で、小さな小さな夢をまた一つ叶えた……はずだった。

もうこれはライターとして、公言して良いのか迷うほど恥ずかしい事だ。
(しかも憧れのロッキング・オン媒体に書くなんて恥知らずもいいところだ。)
いつかこの文章のせいで石をぶつけられたり、仕事を貰えなかったりするかもしれない。
でもあえて書かせて欲しい。
私はあと数百字足りぬままの状態で、まさかの朝まで眠ってしまったのだ。
間違いなく夜の12時という納期内に書き上げることが出来なかった。
新譜に関する記事なので納期は短く、スピード性を求められる仕事だと分かった上で引き受けた仕事だった。
それは何処に書かずとも、自分が誰よりも分かっている紛うことなき事実だ。
翌朝飛び起きて青ざめたままで何とか書き上げて、そのまま会社へと向かった。
記事自体は満足のいく出来で書き上げられたものの、納期遅れの為に結局世間に公開されることはなかった。

そして、私はその失敗の為にその媒体での他の仕事も失うことになった。
私は自分の最もやりたい事で、なんとも大きく蹴躓いてしまったのだ。
もはや呑気にオールライトなどとは言ってられない状況である。
全て自分が悪いのだが、ショックのあまり、時に節操無く泣いたり、ヤケ酒をしたりもした。
これを機に、記事を書く手も止まりがちになった。
そんな日々でも積み重ねていく毎に、少しずつ感情の縁とはぼやけていくものだ。
たまにふと、思い出しては永久お蔵入りのその記事を一人読み返してみたりもする。
今読み返してみると、とんでもなく荒削りでヘタクソな記事で思わず笑ってしまう。
書き上げた時はゴッチも喜ぶ最高傑作だと思ったのに、文章とは本当に難しい。

そんな私の書くへなちょこな文章とは裏腹に、アジカンの鳴らす音楽は今日も相変わらず最高だから全く困る。
未だに毎朝、iPhone上を滑る私の指先は無意識に『ホームタウン』を目指す。
アジカンは私が音楽を聴き始めた頃から今までずっと、アジカンで居てくれた。
そして、これからもそのキャリアは続いていくだろう。

<<まだ はじまったばかり / We've got nothing>>
(出典:「ボーイズ&ガールズ」/作詞:後藤正文 作曲:後藤正文)

こんなにキャリアがあるバンドであるにも関わらず、まだはじまったばかりだと言ってのける。
継続が何よりも難しいという事を私は誰よりも実感している。
何年もの間、自分達の音楽を最前線で鳴らし続けてきた彼らのその道のりを長さを想う。
自分が選んだやりたい事だからこそ、どんなに怖くても失敗しても逃げ場は何処にもない。
だけど、私もまだはじまったばかりじゃないかーー。

何も成し遂げていない私のような人間が躓いている暇は無いぞ、と自分に喝を入れる。
そしていつかは胸を張って彼らに見て貰える文章を書くぞ、とこっそり自分との約束をする。

オールライト、転がる僕の人生に捧ぐ。
 

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