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2017年5月22日

黒田往宏 (30歳)
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夢の中で柴田聡子に出会う

人生は本当に「あさはか」なのか

 この人生はもしかしたら夢なんじゃないか。

 眠れない夜や、朝早く目が覚めた時、時々そんなことを考える。大人になったからなのか、はたまた僕がまだ青臭いからなのか、それはよくわからない。

 僕がまだ幼稚園に通っていたとき、祖父が死んだ。初孫の僕をとても可愛がってくれた祖父だった。彼との記憶はほとんどないが、写真で見る祖父の顔はとても穏やかで、そして凛々しい。
 僕が「死」というものを意識したのは、病床の祖父を見た時だと思う。ベッドの上の痩せ細った祖父を見て、僕は「人間はいつか死んでしまうのだ」ということをなんとなく理解したのだ。

 柴田聡子の3rdアルバムに「あさはか!」という曲がある。

 柴田聡子を知ったのは、ほんの偶然だった。広島カープのファンである僕は、「カープ」という言葉がとても気になる。そんなとき、偶然見つけたのが彼女の歌う「カープファンの子」という曲だった。

「カープファンのあの子はかわいいね
 いつのまにかバンド組んで
 ギター弾けないからボーカルで
 相変わらずかわいいね

 あの子に子供が生まれる前に
 私に子供ができる前に
 もっともっとひどいこと
 考えておかなくちゃ」

 この歌詞を、何度も何度も繰り返す。同じ言葉なのに、だんだんと気持ちが高まってくる。ギターをかき鳴らしながら、思いきり歌う、丸眼鏡をかけた彼女の姿を見て、僕はヒヤヒヤとして、そしてドキドキした。鬱憤を晴らすかのようでいて、柴田聡子という人物を演じているような、そんな不思議な空気に、すっかり飲み込まれてしまったのだ。

 そして手に入れた3rdアルバム「柴田聡子」。まだまだ虫の音もやまない暑い9月の夜に僕はそれを聴いた。1曲目の「ニューポニーテール」を、可愛い曲だなあ、なんて思いながら聴いていると、あれ?本当にかわいい曲なのか?と、心臓をジリジリと親指で押されているような感覚にも襲われる。彼女の歌はすごい。言葉にはできないのだ。

「この部屋がふとんだらけになればいいのに
 きみとわたしの実家でいちゃいちゃしようよ」

 耳の奥をくすぐるようなギターの音色のあと、彼女の歌が始まる。僕は土曜日の夕方、西日を浴びながら、缶ビールを飲んでいた。

「きみと死ぬまでいっしょにいたいなんて
 そんなこと言わないよ」

「きみと死ぬまでいっしょにいられるわけないから
 ちょっとさめてしまうよ」

 やっぱりこの世界は夢なんじゃないか、と思う。僕はきっと夢を見ているんだと思う。
これが夢だということに僕はすでに気づきはじめているのだ。
 
 そして、いつかこの夢は覚める。絶対に覚めるのだ。
 
 そんなことを考えていると、不思議とかなしくなる。いつまでもいっしょにいるよなんて誓いは限りなく嘘に近い。永遠に生き続ける、なんて無理だ。いつか人間は死ぬ。夢から覚める。

 それでも僕たちは生きる。いつか死ぬことがわかっていても。
 
 「あさはかだな
  どっちが先に死ぬの
  ちょっとかなしくなるよ」

 「あさはかだな
  どっちがさきに死ぬの
  ちょっとさめてしまうよ」

 あさはかだなあ。彼女の歌声に合わせて僕は呟いた。
 祖父が死んだのも、当たり前のこと。そしていつかは僕の両親も、兄弟も、友人も、嫌いな上司でさえ、みんな死ぬ。夢は覚める。

 そして僕の夢もいつかは覚める。ちょっとかなしくなる。

 この世界はもしかしたら夢なんじゃないか。

 今日も僕はそんなことを考えながら、夢の中で生きようとしている。そして、夕暮れに合わせてビールを飲んで、明日に向かって布団に入り、いつの間にか寝ている。

 5月17日、柴田聡子の新しいアルバムが発売された。それを手に入れて、僕はまた彼女の曲を聴く。CD一枚で一喜一憂するなんて、僕の人生はほんとにあさはかだなあと感じる。

 それでも、柴田聡子の曲に出会えたこの人生は、とてもいい夢だと思ったりもするのだ。

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