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ミュージコロジーを貴方に

プリンス2004年発表の「音楽学」を音楽文で書いてみる

 もう何年前になるだろうか。ある時、子供達に、一番好きなプリンスのアルバムを尋ねてみたことがあった。娘は『ミュージコロジー』と答えた。息子は『3121』だった。

 それから数年。廃盤になっていた1995年以降のオリジナル・アルバムをフィジカル発売していくカタログ・リリース・プロジェクトが発進した。まずは、2004年に発表された『ミュージコロジー』を初めとして2006年発表の『3121』、2007年発表の『プラネット・アース』の3枚が、ここ日本ではBlue-spec CD2仕様でのCDと、特殊パープル盤によるアナログ・レコード(輸入盤に日本で帯・歌詞対訳・新規解説・対談を付けたもの)で発売された。

 現在は二人とも成人となった子供達にインタビュー(?)をしてみると、ミュージコロジーは「聴き易い」そうだ。幼少時から「門前の小僧習わぬ経を読む」ばりにプリンスの音楽を浴びて来た子供達をしてそう言わしめるわけだから、推して知るべしだ。息子などは、「プリンスのアルバムって何から聴き始めたらいい?って聞かれたら、ミュージコロジーって答える」とまで言っていた。私などは考え過ぎて答に詰まってしまうプリンス・ファンの永遠の課題である「どのアルバムから聴いたら良いか」問題も難なく解決だ。

 このアルバムのコンセプトは、表題曲“ミュージコロジー(音楽学)”及び、プリンスのオフィシャルYouTubeチャンネルでも公開中の同曲のミュージックビデオに顕著だ。ビデオのキャストである男の子がプリンスのコンサート・チケットを購入するとフリーで貰える同曲の7インチ・シングル・レコードを「へぇ、こんなの貰えるんだ」なんて感じで嬉し気に受け取り、自宅でそのレコードをかけながら被せてギターを弾いたり、ステージ上でのマイク・パフォーマンスやアクションを「プリンスになったつもり」で披露している微笑ましい展開だ。ビデオ後半では、いよいよコンサートに駆け付けた男の子が、ノリノリになったり、ステージに乗っけられて踊りまくったりという、その昔ジェームス・ブラウンのステージで幼いプリンスが実際にした体験を模したであろうシーンが再現されている。音楽は繋いで行くものなのだ。

 プリンスは、以前から数多くの作品を他者に提供・プロデュースしてきた人だし、同世代や上の世代ではなく、明確に次世代である、ボーイ・ソプラノも美しいテヴィン・キャンベルに曲を書き下ろしてプロデュースしたり、才能ある青年ドラマーをサポートしたりして来た人で、現行のミュージック・シーンから目を逸らさなかった人だと思う。そして、次世代、次々世代アーティスト達への「自覚的」「教育的」な態度が、作品を発表し、ただライブを見せるというだけ(いや、それだけで凄まじい説得力を持つライブを彼は絶え間なく続けて来たのだけど)でなく判りやすく公になり始めたのは2001年(日本盤2002年)発表の『レインボー・チルドレン』やそれに続くツアー『ワン・ナイト・アローン…ツアー』における「本物のミュージシャンによる本物の音楽」といった宣言であり、そこにはプリンスの行動原理の一つである現行シーンへのカウンター的な態度とか、「わかる奴は着いて来い!」的なリーダーシップがあった。

 そんなプリンスが、多岐にわたる試行錯誤や先駆者としての挑戦を行った上で、芸術的にも、興行的にも大成功を収めたのがこのアルバムとツアー(同ツアーは2004年の興行成績No.1ツアー)だ。現在ではそれ程珍しくなくなった「コンサート・チケットに最新作を付ける」という画期的な手法を編み出したプリンスが、アルバムの制作過程から同手法を意識していたのかどうかは知る由もないが、『ミュージコロジー』というコンセプトやその一見「聴き易い」作品を広く知らしめるには非常に理に適ったやり方で恐れ入る。

 全曲の感想には敢えて手を出さないが、例えばグラミー賞の最優秀男性R&Bヴォーカル・パフォーマンス賞を取った“コール・マイ・ネーム”。歌詞に出てくる「君のことを歌った曲を作らずにはいられないんだ」という独白は、何ともプリンスらしい恋人への最大限の賛辞だろう。そして、この世界には実際に彼に曲を書かせた幸せな女性たちが実在する。他にも多種多様なシチュエーションでの恋愛・人間模様が描かれている。
 また、この「沢山の人に届ける」作品には、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロに纏わるストーリーを歌った“シナモン・ガール”や、ブッシュ政権に苦言を呈する“ディアー・ミスター・マン”が収録されている。アルバムだけに留まらず、欧英で“シナモン・ガール”がシングル・カットされた際には、カップリングに“ディアー・ミスター・マン”のライブ・ヴァージョンが使われた上に“ユナイテッド・ステイツ・オブ・ディヴィジョン”という新曲(米国では独立記念日にオフィシャル・ファンクラブでダウンロード・リリースされた)までもが用意され、同曲中では明確に「Everybody stop fighting!(皆、戦いを止めるんだ!)」「Everybody make love!(皆、愛し合うんだ!)」と叫んでいる。その年の一番の売れっ子が、そういうことをやっているのだ。

 上記の“ディアー・ミスター・マン”のライブテイクは2004年4月20日にニューヨークのウェブスター・ホールで行われたもので、現在はプリンスのオフィシャルYouTubeチャンネルでも映像が公開されている。嬉しいことに、同会場での“ミュージコロジー”や、ギター弾き語りによる曲披露も併せて全5曲の映像も順次公開途中だ。

 でも、5曲じゃ足りない!そんな私が夢見ているのは、このプリンスの『ミュージコロジー・ツアー』が米国でスタートした際、2004年3月29日のロサンゼルス公演が全米各地の映画館で衛星生中継されたという映像を日本の映画館で観るということだ。当時、米国でそんなに素晴らしい企画が持ち上がっているのに、日本は箸にも棒にも引っかからないというのが、本当に悔しかったものだ。極上の素材はもう揃っているのだ。アルバム再発のこのタイミングを逃す手はないだろう!お願いだから、実現して欲しい。子供達も大喜びで付き合ってくれるはずだ。たぶん。
 
 

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