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2017年5月22日

なっすん (20歳)

ロックンロールの神様

高橋優が歌うロックンロールの力

人に誇れるものなんて何一つ無かった。
浅ましい虚栄心から過去形にしたが、悲しいことに、それは今でも変わらず僕の心に劣等感として力強く根を張っていると思う。
 

中の下の容姿と成績。体のいい友達はいたが、親友はいない。
ただただ流され、やることなすこと全てが中途半端。
熱血教師に指導されることも、青春ドラマのような甘酸っぱい経験も何一つとして起こらなかった。
存在するのは、自己保身や傷の舐め合い。自分のアイデンティティを他人に求める人たちとの交流。

そこに僕の心など微塵もありはしない。溶け込んでしまえば飲まれてしまうと直感していた。
そうして半透明な実体から距離を置いて、馬鹿のくせに哲学書なんかを貪るように読んで、現実世界からの逃避を図っていた。
活字の世界に逃げ込んだ僕が、何気なく見ていた「Q10」というドラマから、心地の良い声が聞こえてきた。

普段なら、音楽なんてイケイケの人たちのカルチャーだと嫌悪するところだったが、何か見えない者に手を引かれるように、親に払ってもらっている携帯料金に上乗せする形で、「僕らの平成ロックンロール」というアルバムを購入し、ダウンロードした。

そのアルバムの中の「16歳」という曲を聴いた時に、嗚咽を漏らした。“嘘つかなきゃ生きられない?強がらなきゃ生きられない?”と問いかけられ、背伸びをしている自分が、あまりにも滑稽で馬鹿らしかった。

僕が初めて本物の音楽と出会って、ロックンロールという存在を叩きつけられた日だった。

その日から何かが変わった訳もなく、いつも通りの退屈な生活が待っていた。
ただ無理をするのをやめた。一人ぼっちだと思われたくない一心で、必死にしがみついて、離すまいとしていた、くだらないものを自らの意思で手放した。

音楽で世界は変えられない。音楽にそんな力は無い。

でも、本物の音楽は、傍に寄り添い背中を押してくれる。
それが正解なのか間違いなのかは分からないけれど、踏み出すことの意味を教えてくれた。

そうやって背中を押された僕自身も音楽を始めた。
稚拙な真似事ではあるけれど、心の底の底から笑えている。
背伸びせずとも共に過ごせる人たちとも出会わせてくれた。
相変わらず勉強も運動もできないし、素敵な出会いがあるわけでもないが、こんな僕でも“この世界は素晴らしい”と思うことが出来ている。

どうしても逃げ出してしまいたい時にはライブハウスが僕を包んでくれる。

そこは、音楽と音楽が好きな人達だけで成り立つ世界。

一人のようで一人でない聖域。

溢れる音に身を任せ、誰にも邪魔することのできない僕らの防空壕。

あの日にロックンロールと出会うことが無かったら、この小さくて大きな世界を知ることもなかっただろう。
 

そんな僕にも夢ができた。
身に余るものを与えてくれた音楽に恩返しがしたい。真似事をするのに精一杯の僕に、僕自身を救ってくれた高橋優さんのような歌が歌えるとも思えないし、才能もない。
だけど歌を歌うだけが、音を奏でるだけが音楽と繋がる方法じゃないから。

恥ずかしいと縮こまるのではなく、笑われながらでも夢を叶えてやろうと僕らのロックスターが歌っているから。

自分で出来なくとも音楽に関わる方法はいくらでもあるのだから。

ロックンロールの神様は、確かに存在する。僕のような、どうしようもない人間の元に舞い降りて、こんなにカッコいい世界があるんだぜと教えてくれる。僕はもう一度、あの人に会って「ありがとう」と伝えたい。
それまでは、死んでも生きなきゃいけないと思う。

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