2250 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

光溢れた夢の続きはOfficial髭男dismと共に

2019年2月2日、島根県民会館で思うこと

Official髭男dismは、甘くて酸っぱくて苦くて渋い、私の高校生活の想い出の引き出しを引っ張る取っ手みたいな存在だ。

彼らの音楽に出会った、あの微温い初夏のことを思い出す。
17歳の初夏のこと。

ホームルームで返された模試の判定結果を参考書とノートの間に挟んで、鉛のように重いバックを膝の上に置いて、耳元でラジオを流していた。確か、藤原と小笹が生演奏をするコーナーがあったラジオ番組だったと思う。
 

《「今会いたいな。嫌なことあったから」
そう言って僕は真夜中 君を起こした》
- コーヒーとシロップ / Official髭男dism
 

前後のトークも、MCの性別すらも覚えていないのに、この曲が始まった瞬間のことだけは恐ろしいくらいにはっきりと覚えている。

腰掛けていたあの席から見える景色も、閉め忘れた窓から入り込んだ初夏の香りも、ドアから抜ける冷たすぎる冷房の風が肌を滑っていくあの感じも、全てが生々しいくらい脳裏にこびりついて離れないのだ。

"Official髭男dism"小難しいバンド名を一度きりでは覚えきれず、コーヒーとシロップ、その曲名だけをなんとか小さな脳みそに詰め込んで、家へと走った。

ちゃんと挟んだはずの模試の判定用紙は、走るうちに鞄の中で跳ねて、結果と同じくらい散々なことになっていた。

家に帰って得た情報は、Official髭男dismのこと。
コーヒーとシロップと、もう一曲、生演奏してくれた日曜日のラブレターが収録されたアルバムが発売されること。

そのアルバムは17歳のわたしに馬鹿みたいに刺さった。コーヒーとシロップを聴いたとき、この曲はわたしのことだと思った。

大学受験という重い言葉に押し潰されそうだったあのとき、わたしは弱っていた。相当滅入っていた。
くしゃくしゃの判定用紙に負けないくらいくしゃくしゃな気持ちをなんとか押し潰して、今すぐ泣き出したい気持ちを笑顔の裏に隠して毎日学校に通っていた。
 

《朝が嫌になった テレビも嫌になった
いつも時間に数字に 追われる毎日
不思議に思った 君は平気なんだろうか?
笑顔の裏に隠した 言葉はなんだ?》
- コーヒーとシロップ / Official髭男dism
 

本試験の日は一日、また一日と着実に近付いていくのに、模試やテストを重ねても重ねても、点数も判定も伸び悩み、朝が来るたびに嫌気がさした。
毎日、時間と数字に追われていた。
周りの友達はどんどん点数が伸びているように見えたし、自分の努力だけが報われなくて、自分だけが不合格になる気がした。自分だけが落ちこぼれであるように感じたし、自己採点のペケは、自分の人格を否定する行為に感じた。

間違いなく、わたしの歌だった。
社会人の、もっと大人の話をしているのは一度聴けば分かったし、17歳の高校生をめがけた歌じゃないことくらい分かっていた。わたしのことを歌ってる。そんなの絶対にあり得ないと分かっていても、でも、わたしをめがけて歌ってきている、そう勘違いしてしまいたくなる歌だった。

社会人になったらきっともっとつらいこともあるだろうし、理不尽なこと、うまくいかないこと、我慢しなくてはならないことだらけだろう。そんなこと分かっているつもりだ。

でも、17年とちょっとしか生きていないあの頃の私にとって、終わりの見えない受験勉強は本当に辛かったのだ。そんな自分に寄り添ってくれたのも、そんな自分をすくいあげてくれたのも、彼らの音楽だった。
 

《clap clap clap 手を叩け! 憂鬱を追い出せ!
「報われない」なんてさ 立ち止まってなんかいないで
clap clap clap 目を覚ませ! 退屈を抜け出せ!
すばらしい世界さ 目を開いてちゃんと見つめて》
- Clap Clap / Official髭男dism
 

彼らの音楽には不思議な力があるように思う。

頑張れ、と言われているようにも、これ以上頑張らなくていいよ、と言われているようにも感じるし、寄り添ってくれるようにも、持ち上げてくれるようにも、引っ張っていってくれるようにも感じる。

彼らの音楽に対して色んな気持ちがあるなかで、ただひとつ、確信を持って言えるのは、あの辛い時期、私の側にはずっとOfficial髭男dismの音楽があったということ。バンドのホームページに、キャリア初の東名阪ワンマンツアー、と書かれていたことを思い出す。

今すぐ会えない距離に、私めがけて歌を歌っている彼らが居ることを知って、切なく感じたあの頃を。2年以上の月日を経て、今がある。
 

今、目の前に広がる景色。
 

2019年2月2日、島根県民会館大ホールの2階で、私は彼らの最大規模のツアーのファイナルを観ていた。

中盤のMCで小笹が高専時代の思い出話をこぼした。
文化祭でこの大ホールでライブをした時、

「僕だけかも知れないけど、行けると思った。」
そう思ったのだという。

Official髭男dismは、行けるんだと思ったと。

高校生の無謀な夢でも、妄想でもなんでもない。見下ろせば満席の1階。そして振り返ればパンクしそうな立ち見席、見渡せば子供から大人までたくさんの笑顔で溢れかえる2階。
会場の1500人、そしてここに来られなかった何千何万ものファンが、これが現実であることを物語っている。

真っ白な歓声と、たくさんの「おかえり」に包まれた県民会館。バンドにとっての地元で、最後の曲の前に藤原が言う。
 

「レベルを上げていくというのはもちろん重圧もある。ああしんどいなと思う時もあります。そんなとき、この島根という街で4人で朝から晩までただ音を鳴らして曲を作って練習して。そんな日々が今の僕らを支えていると思います。」
 

2018年、テレビ番組で楽曲が評価され、ドラマ主題歌に抜擢、そしてソールドアウトのツアーに超満員の夏フェス。たくさんのタイアップとEPの発売、入場制限の冬フェス、そしてこのツアー。

ただ楽しいだけの一年でなかったことくらい容易に想像がつく。彼ら自身も変わっただろうし、変わらざるを得なかっただろうし、彼らを取り巻く環境も変わらなかった訳がない。めまぐるしい一年の中で、ブレイクへの階段を凄まじい勢いでかけ登ってゆく彼ら。彼らを見ると、恍惚としてしまう。彼らの存在自体が、まるで、ひとつの夢のようだった。
 

「全部、希望の歌に変えてやるから」
 

藤原の一言とともに、最後の一曲、Stand By You が始まる。
 

《光溢れた夢の続きは君と共に》
- Stand By You / Official髭男dism
 

ああ、ツアーが終わる。
3ヶ月、24公演を終えたメンバーの顔は、晴れ晴れとしているようで、幸せなようで、そして満ち足りたようでいて、でもどこか、まだこれ以上の何かを秘めているようにも見えた。

このツアーで流した涙も汗も、喜びも、全ての感情は、時を重ねて確実に今よりも遠い場所へ行ってしまうけれど、こうやって感じた感情と、その感情が自分の中から生まれたという事実は、変わるはずがないから。変わるわけがないから。

光溢れた夢の続きを見たい。彼らを照らすスポットライトから溢れた光から、彼らと共に見る未来が見えたような気がした。

季節は巡って、また、彼らと出会ったあの、微温くて、そして薫る初夏がやってくる。
7月8日、あの玉ねぎの下に、目を真っ赤にするギターが、酔っ払いみたいに顔を赤くするベースが、いつもと変わらない笑顔を見せるドラムスが、そして、藤原が、堂々と立つ。そして、4人のあの音楽が鳴る。夢にまで見た武道館公演が実現しようとしている。
 

光溢れた夢の続きは、Official髭男dismとともに。

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい