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『重力と呼吸』は、Mr.Childrenにとっての通過点である

デビュー25年超のキャリアで迎えたターニングポイント

去る2018年10月3日。Mr.Childrenにとって3年4ヶ月振りとなる待望のニューアルバムがリリースされた。

その名も『重力と呼吸』。

リリース間近、公式サイトで発表されたアルバムタイトルを目にした時に、ただならぬ高揚感に身体中が支配されたのを鮮明に覚えている。

それもそのはず。久しぶりの日本語タイトルにして、重厚な雰囲気を纏った言葉の響き。
Mr.Children史上最大の問題作と言われる名盤『深海』を想起せずにはいられなかったのだ。
「まだミスチルは、“深海”という概念に囚われているのだろうか」と。それはもちろん良い意味で。

「25周年を経ても尚、ロックバンドとしての“叫び”を持ち続け、音楽に対する情熱、憧れ、愛、衝動に、もう一度4人が必死に立ち向かった渾身のアルバム」
「現状を超えロックバンドとして更にスプリントしていく」
「Mr.Children史上最も4人の音楽に対する情熱がダイレクトに音として伝わる力強い作品」

アルバム特設サイトに掲載されたこのような仰々しい宣伝文句も、僕の期待値とワクワク感を最大級に高めてくれた。
 

今アルバムの本格的なレコーディングに入る前、Mr.Childrenは大規模なアニバーサリーツアー『DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25』を敢行していた。
年初まで続いたホールツアーでのサポートメンバーも加え、生演奏で過去の名曲群を出し惜しみなく演奏したメモリアルツアーにおける彼らの姿は、ファンの期待に最大限応えた、言わば「みんなの“ミスチル”」だった。

同ツアーで初披露され、好評を博したNEW SONG「himawari」は、結果としてバンドの新たな方向性を提示した楽曲となり、アルバム『重力と呼吸』のカラーを決定付けた重要な楽曲であったが、同曲を披露する際に見せた彼らの鬼気迫るパフォーマンスや尖りまくったロックサウンドは、最早「みんなの“ミスチル”」ではなかった。
並々ならぬ決意と堂々たる風格でもって、ロックバンドとして全力疾走する「Mr.Children」の姿がそこにはあったのだ。
僕は、その姿に新たなバンドの片鱗を感じ取り、これからのMr.Childrenへの期待が否応なしに膨らんでいったのだった。
 

ツアーを終えて間もなく始まった長期のレコーディング中、2018年の年明けに配信限定でリリースされた新曲
「here comes my love」もまた、「himawari」同様にストリングスを入れつつも、力強いバンドサウンドが響き渡る渾身のバラードナンバーだ。
デビュー以来のプロデューサーであった小林武史を離れて制作された、初のセルフプロデュース作品『REFLECTION』に収められた楽曲と比べても、サウンドの質感が全く異なる。より洗練されつつも逞しさや激しさを増したエモーショナルなバンドサウンド、そして間奏の長尺ギターソロ。
このとき既に、次のアルバムの制作が公式サイトにて予告されていたが、明らかに新たな境地に達した彼らの奏でる音に感動した僕は、アルバムのリリースが待ち遠しくて仕方なかった。
 

結果的に新しいアルバムは、「here comes my love」からおよそ9ヶ月を経てリリースされることになった。
前述したように、『重力と呼吸』という重厚で意味深なアルバムタイトルや、既出曲から感じられる新たな息吹は、アルバムに対する僕の期待値をとんでもなく膨れ上がったものにしていた。

一方、23曲という膨大な曲数でもって当時のミスチルの総てを出し切ったように感じられた3年前の前作『REFLECTION {Naked}』を聴いた時に抱いた、

「セルフプロデュースを選択したMr.Childrenは、次のアルバムこそが正念場であろう」

という感想が頭の中に再び蘇ってきた。

結局、これらの予想や感想はいずれも『重力と呼吸』を聴き終えた際に、その正否を再び強く認識させられるものとなったのだ。
 

結論から言うと、『重力と呼吸』は素晴らしいアルバムだった。しかし今思えば、何かが足りない。批判をするつもりは毛頭ないが、そんな印象も同時に抱く作品なのだ。

それは、3年4ヶ月という過去最長のインターバルを経ての新作にも関わらず、全10曲とかなり少ない曲数がそう思わせたのかもしれない。
あるいは、リリース前からアルバムに対するハードルを上げ過ぎたことが要因なのかもしれない。

いずれにせよ、今回も良いアルバムだ!と大いに感じられるにも関わらず、どこか拍子抜けしてしまう部分もあったということだ。何故なのだろうか。

「最高のアルバムが出来ました!!」

アルバムリリースに際したコメントにて、桜井さんはそう強く語った。確かにそれは間違っていない。メンバー1人1人の奏でるバンドサウンドが前面に出た、良曲揃いのアルバムだったのだから。

しかし、僕が予想していたものとは大きく違う作品だったことも事実であった。
“バンドサウンド”をアルバムのコンセプトとして掲げて繰り返し強調しているのだから、リスナーとしてはもっと重厚な、それこそ『深海』や『DISCOVERY』のようなヘヴィさすら想像したって何ら不思議ではない。
ところが、このアルバムにはそうしたヘヴィなロックナンバーは1曲も無かったのだ。

アルバムへの期待を煽った上述の既出2曲に加えて、メンバー4人で好きな音を奏でられる“今”への幸福感がひしひしと伝わってくる「Your Song」、王道メロディーと粗いバンドサウンドのミスマッチ感が絶妙な「SINGLES」、今作には数少ない混沌としたピアノロック「addiction」、最後を飾る感涙モノの大名曲「皮膚呼吸」など、Mr.Childrenらしい良曲は勿論のことしっかりと存在する。
各楽曲のクオリティだけで言えば間違いなく“大満足”と言えよう。

ただ、意味深なアルバムタイトルの真意も未だに不明だし、何より全体の雰囲気があまりに淡々としすぎていて、どうにも掴み所のない作品である…という印象は、何十回と今作を聴き込んだ現在でも拭えないのが正直なところである。

前作『REFLECTION』は、セルフプロデュースを謳いながらも一部の楽曲では小林武史が参加しており、それらのカラフルなアレンジがアルバムの幅広さを形作っていた部分があったのだが、今作にはそれが無い。
メロディーや歌詞の変わらぬ良さに反して、どこかモノトーンで淡白な印象をリスナーに抱かせてしまうのは、小林さんやそれに準ずる一流のアレンジャーが不在であるからではないだろうか。これは、セルフプロデュースを選択したバンドにとって大きな壁であるに違いない。
 

初となる“完全”セルフプロデュース作品は、確かにこのご時世では破格と言える大ヒットを記録したものの、いちリスナーの感想としては “大成功” とまでは断言できないように思えた。セールス的な意味ではなく。

今作の方向性は “いつまでも未完成なバンド” ゆえの実験とも言えるだろうし、それを踏まえると今作は1つのターニングポイントであると同時に、今後のMr.Childrenへと繋がっていくための通過点に過ぎないのだろう。
いつまでも同じ場所に留まらないロックバンドだからこそ、僕はこれからもMr.Childrenの活動を、常に新鮮な気持ちで応援していきたい。

バンドは今、新たな局面に差し掛かっているのだ。それはこれからもずっとそうであり、常に彼らは過去を越えていこうと必死でもがき続けるだろう。

僕はそう信じている。

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