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City Lights~松室政哉が灯した光~

初の全国ツアー・ファイナル公演を振り返って

2019年2月25日。渋谷のライブハウス、TSUTAYA O-WESTで、シンガーソングライター・松室政哉の記念すべき初の全国ツアー “City Lights”ツアーがファイナルを迎えた。今ツアーは、昨年10月にリリースされた初のフルアルバム『シティ・ライツ』を引っさげて5都市で開催され、私は2本目の大阪、ファイナルの東京に参戦。ここではファイナル公演を振り返る。

アルバムタイトルの由来となった、チャップリンの“City Lights”を想起させてくれるレトロなメロディーのSE。その音が止み、いよいよ迎えるオープニング。
映し出されたのは、イラストレーターの坂内氏が手掛けた、アルバムの世界観とマッチしたジャケットのイラスト。まさかこれが動き出すなんて…私には2本目だった東京では、この演出が来ることは既に知っていたのだが、それでもこの幕開けに既に涙でぼやける視界。出演者の名前が映し出されるのも、こういうオープニングの映画あるよなぁ…やっぱりむろさん(大の映画好き)だなぁ…と感じさせてくれる。

アルバムツアーということで、当然最新アルバムの収録曲は全曲セットリストに含まれているのだが、アルバム以前の既存曲のチョイスも絶妙。特に、1曲目の「Theme」には思わず息を呑んだ。私は1曲目に来る曲は、そのライブの印象を左右すると思っており、勝手ながら、アルバム名を冠したツアーの1曲目にはその中の曲が来ると予想していたが、「Theme」は彼のインディーズ時代にリリースされたシングル曲。この曲は私自身にとっても大切な曲。個人的に複雑な事情を抱えつつも、家を離れ、ずっと願っていた留学に行く直前にリリースされ、慣れない土地で不安も抱えた時期を支えてくれた思い入れのある曲…というのは一個人の主観だが、それを差し引いても、このツアーで描く世界の最初に置かれるのにはやはり相応しかったのかもしれない。『シティ・ライツ』以前の曲ながら、この中にも街が描かれ、「錆びれた街灯に浮かんだ 猫背の僕を見たら君は笑うよな」と、アルバムのキーワードとなる【街灯】という言葉も出てくる。
そんな街灯りに照らされた、迷いや不安、焦りの中から前に進みだそうとする主人公の登場と共に幕を開けると、2曲目には「衝動のファンファーレ」。「握ったハンドル もう迷いは無いんだ だから もっと加速するんだ」とは、決意した主人公か駆け出していく様なのだろうか。
3曲目は、どんなスタイルで音楽を届けていくのかを綴ったような「Jungle Pop」。この開始3曲だけでも、彼自身がどんな思いで音楽の道を進んできたのかを想像させ、序盤にして既に涙が溢れてきた。

それに続くは、再会や別れその後の心の動きまでも含めた恋模様を描く曲達。
「Fade out」では、植松慎之介(Ba.)と外園一馬(Gt.)がそれぞれ下ハモと上ハモを担当、バンドで演る相乗効果がとても表れていて、そのハーモニーの美しさについつい聞き入る。「午前0時のヴィーナス」では、ライブならでは、音源にはない、皆で揃えての手拍子も加わり、身振り手振りも交えて歌う姿になんだかこちらもにこにこしてしまう。その再会から一転、別れを描いた「きっと愛は不公平」は、以前書いた本人も辛くなったと語っていた程、言ってみれば重たい曲。単なる失恋だけでなく、「痛み」も描いたのだというこの曲がエモーショナルに歌い上げられると、やはり聴く側にもずっしりと響いてくる。

それを中和してくれたのが次のアコースティックパートの2曲。
松室&外園のギターデュオでの日替わりコーナー、ファイナルで披露されたのは「オレンジ」。これもまた失恋ソングではあるものの、前の「きっと愛は不公平」では色彩をも失う感覚に陥るのに対し、こちらは差し込むオレンジの温かな光との対比がかえって切なさを生む曲。しかし、シンプルさにより一層映える外園のギターテクに魅了され、そのサウンドもどこか温か。続く「群像どらまちっく」では、バンドメンバー全員が横並びになり、山本(Key.)は鍵盤ハーモニカ、松室、外園だけでなく、植松、神谷(Dr.)までもアコギ抱えている…ん?神谷さんアコギ(!?)と思いきや、こちらはジャンクギターを改造した打楽器なのです!!(流石某中古用品店に通い詰めているだけあるアイデア)「いやカポいらんでしょ!」と松室が突っ込む小ネタも挟み(笑)、ほっこりしたところでこの曲を届けてくれた。
前者はインディーズ時代からの代表曲、後者も、群像劇を描きたかったというアルバムの主題を色濃く反映した軸となる曲。その大事な2曲を、バンドツアーの中、あえてのアコースティックサウンドで演奏し(「群像~」は音源も然りだが)、このバンドの多彩さも見せてくれた。

そして、ツアーファイナルも一つのハイライトを迎える。ここから続く3曲に圧倒された観客は、この日が初めてでない方も含めて多かったのではないだろうか。
というのも、それまでの公演では無かった演出が加わっていたから。ただでさえエモーショナルな「Matenro」「アイエトワエ」「海月」では、この日限りの映像演出が背景に添えられていた。この時ばかりはメンバーではなくスクリーンに釘付けとなり、一層膨らんだ世界観にフロアごと包み込まれたような感覚になった。そしてこの感覚、どこかで感じたような…と思ったのだが、思い返せば約2年前に、今回の真向かいにあるライブハウスで行
われたワンマンライブでも、映像をバックに歌っていた記憶が蘇った。当時まだインディーズではあったものの、このライブを見た時、もうメジャーデビューも秒読みなのでは…なんて思っていたが(実際その年にメジャーデビュー!)、そんな懐かしさにも浸りつつ、あの時も今も、その曲が持つ空気に引き込むのが上手いなぁと思っていた。(後にこの映像は学生さんが制作したものと知り更に驚き!)中でも「海月」は、まるで海の中にいるような幻想的な映像で、終盤にはタイトル通り無数の海月が映し出されたのだが、ここでは昨年何度か行っていた、水族館ライブを思い出したり…色々と回顧しすぎなのだが、まさに流した涙の海に浮かんでしまった。

流石に場内も多少しんみりとしてきたところで、終盤の盛り上がりパート到来!
「今夜もHi-Fi」では、City Lightsバンドが生み出すグルーヴに乗り、「踊ろよ、アイロニー」「毎秒、君に恋してる」でも、とっても楽しそうなむろさん!!ソロ回しもあり、バンドとしての盛り上がりも最高潮を迎えたが、楽しい時間は早いもので、いよいよ次で本編最後。

ラストは、アルバムでも最後を飾る「息衝く」。私は、このアルバムを初めて聞いた時、この曲に最も涙した。自分でも驚くほどに。なんならこの曲について考えながらこの文を綴っている今も鼻をすすっている。それはあまりにこの曲に色んな思いを投影しすぎているからかもしれない。実のところ、この曲をアルバムで初めて聞いた時も、いやそれよりも前から、今に至るまで、ずっと葛藤し続けていることがあり、この曲の「僕」に自分を重ねずにはいられない。(偶然にも、私自身東京に暮らし、中央線もよく利用するなんて細かい所も同じ。)それに、松室政哉が歩んできた音楽の道の断片しか見てきていないとはいえ、彼の音楽に惹かれたひとりとしては、この1曲の中にこれまでの曲を想起させる要素が散りばめられているのではないか、なんて深読みまでしてしまう。音源では冒頭の生活音に聞こえる自転車の音から「衝動の~」を、同じく電車の音や時計というワードから「毎秒、~」を思い出したり、痛みという言葉からは「きっと愛は~」を思い出したり、薄暮・(指すものは違えど)オレンジからはやはり「オレンジ」を。
「誰に笑われたっていい 裏切られたっていいや その先へ その先へ 秒針を回せ」という詞もあるが、「衝動のファンファーレ」にも「誰に笑われたって 風ふりきって がむしゃら I don’t mind」というフレーズがある。うん、ファンの妄想かな、なんて思いつつ、メジャーデビュー1年目の最後の日にリリースされたアルバムの最後の曲、ある種今の時点での集大成として込めた意味合いもあるのかな、なんて想像もしている。(実は先にも挙げた2年前のワンマンでも披露されているのでやはり考えすぎかもしれない。でもこの考えが正解か不正解かよりも、そんな想像の幅を与えてくれる表現こそが本人の意図だったりするのかな、とも思う。)
もしかしたら、この薄暮の下に、人波に飲み込まれた僕やがむしゃらに駆け抜けようとする彼がいたり、とあるカフェで別れを切り出された青年がいたりするのかも…。やや脱線気味に、この曲について長々と綴ってしまったが、これまでの色んな曲で描かれた人々も、彼自身も、そしてこの曲を聴いている私自身も、それぞれの日常があって、それぞれ事情や思いを抱えて、日々を生きている。そんなことを思わせるこの曲を生で聴いて、心を動かさずにはいられない。

そして、アルバムジャケットのアニメが再び投影され、映し出されるfin.の文字。終幕。本当に、ライブ1本見たというだけでなく、映画1本見たという様な感覚。舞台袖へとはけていくメンバーを見守りつつ、あぁ、終わってしまったのかと寂しい気持ちと、記念すべき初ツアーを見届けられたという喜びで胸がぎゅっとなった。

それも束の間、アンコールを求める拍手にメンバー再登場。グッズ紹介を挟もうとすると、事務所の先輩・さかいゆうが登場するという大サプライズもあり(笑)、またも沸き立つフロア。流石に戸惑う本日の主役は、ステージに残る先輩風をぶんぶんと手を振って払いのけると(笑)、アンコール曲へ。

それまでの公演では、アンコール1曲目はご当地曲。東京は何だろー?とファン同士でも、予想合戦をしていたのだが、予想のはるか上を行っていた。なんと新曲…。あまりの驚きからその場で受け止めることで精一杯で、正直なところ歌詞もメロディも記憶に殆ど留まっていない。それでも、あの場で必死に追いかけたその詞から感じたのは、松室政哉が歩んできた軌跡。それこそ、大阪から上京し、東京という「人いきれの街」でもがいていた時期がありながらも、音楽に向き合おうと覚悟を決めて進んできた。そして彼の確固たる意志が生んだ大きな出会いから歩を進め、遂にメジャーデビューを果たし、活躍の幅を広げていくサクセスストーリー。本編の流れからもぼんやりとそんなことを思っていたが、この新曲にも詰まっているのでは…またファンの重い思い込みですか?いや、でも歌詞冒頭のその数字が表しているのはきっとさ…号泣必至なのでした。

そして最後の最後を飾るにはこれしかないとばかりの「ラストナンバー」!ミラーボールまであってぴったり!!この曲の「現実逃避だって現実の一部なんだよ」という詞が大好きなのです。そう、今のこの時間も、現実から離れているようで現実に還っていくんだ。

拍手に見送られるメンバーとむろさん。これで本当に最後…と脱力し、茫然として名残惜しんでいると、フロアでは終演後のSEと共に、曲を口ずさむ声もちらほら。そして突然の歓声(というかほぼ悲鳴)にハッとしてステージを見上げると、なんと松室政哉再々登場!!!
頭が真っ白になる中、フロアからはいくつかの曲名が投げかけられる。ギターを爪弾いたり、首をひねったりしつつ、これにしようと始めたのは「ハジマリノ鐘」。
今のところ音源にはなっていないが、メジャー以前から大切に歌われてきたこの曲。Wアンコール自体予定外だろうし、その場のリクエストを受けて急遽決まったはずの曲なのに、この曲もまた“City Lights”の世界を形作る一つになっていた様に思えた。この曲にも登場する「痛み」。この曲には、私たちが暮らす世界の中の悲しみも痛みも肯定し、優しく寄り添ってくれるような空気感がある。やはりどこか『シティ・ライツ』の世界に通じる部分があるような気がした。それを弾き語りでストレートに伝えてくれ、聞き入る観客。声と楽器1本のみの弾き語りという表現形態が持つ、音を幾つも重ねた時に生み出されるのとはまた違った表現の強さ。このライブ何度目かの涙と共に、心の中が充足感でいっぱいになり、“City Lights”ツアーは本当に幕を下ろした。

実は、アルバム音源も含め、このCity Lightsの世界観に浸っていく内に、私の頭に浮かんだある曲があった。彼のインディーズ時代の「写真少年の憂鬱」という曲。メジャー以前から彼の音楽に触れていたファンからは今も人気のある曲の一つ。
その中で「理想の世界は(略)ぼやけてしまって」、「知らぬ間に迷いこんだ ビルに囲まれた街」で憂鬱を抱え、もがいてた主人公。まるで「Theme」や「息衝く」の彼のようではないか。

しかし後半では、
「ファインダー越しの街はまるで映画のように輝くんだ いつの日か僕が描いた理想の世界に」、
「この世界にあふれる光を集めて 僕だけの瞬間を手に入れるんだ 未来を見つけた」、
と、自分の世界を見つけ、その手に掴んでいく。

この写真少年の心の変化は、まるで歌う彼自身の未来を予期していたかのようにも思えないだろうか。「息衝く」のみならず、「東京」や「モノローグ」等、これまでも東京という街やそこで主人公がもがく姿を描いた曲も少なくない。SSWとはいえ、全ての曲の主人公=松室政哉自身とは言い切れないにせよ、東京という街を描いた作品には、少なからず彼自身の姿が滲んでいるように思える。
こうして一歩ずつ前に進み、少しずつ拾い集めてきた「あふれる光」は、今その街に灯されたのだろうか。だとすれば、あの写真少年の想いも報われたのではないだろうか。
現所属事務所で初めて出したEPを締めくくる曲で描いたことが、メジャーデビューを経て、段々と輪を広げ、今まさに現実となってきているのは偶然か、はたまた彼自身が掴んできた必然か…。

松室は「このツアーをもって、『シティ・ライツ』の世界が完結する」と言っていた。確かに初の全国ツアーとして、各地の街に灯りをともしてきた。でもライブ後も、彼のSNSではこんな言葉がちょこちょこ登場している ―「シティ・ライツは続く」。

この言葉が本当に意味するところはわからない。でも、これからも松室政哉が描いていく人物や景色が、また新たな群像劇を生んでいくのだろうなと思う。というのも、既存の曲も、新たな曲と交わりあうことで新たな光を帯び、更に広がったストーリーを見せてくれるから。相乗効果で、膨らんでいく世界観。これとこれはこう繋がってるんじゃないか、等と想像するのも楽しい。それもまた、他のアーティストにはない、映画好きの彼らしい部分だなぁと感じるところでもあり、彼の音楽を聴く面白さでもあるのです。こうして松室政哉が描く世界はどんどんと広がり、より多くの人の元にも伝わっていくんだろうな。

むろさんが音楽を通してどんな世界を切り取り、私達の元に届けてくれるのか。ツアーは終われど、これからも楽しみは続いていくのです:)

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