1722 件掲載中 月間賞発表 毎月10日
この数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。

約束の桜

BUMP OF CHICKENがツアー全公演でpinkieを歌った意味

その歌は、桜の季節に交わした約束を未来に伝える使命を持って生まれた、ひとひらの花びらのようだった。

BUMP OF CHICKENのTOUR 2017-2018 PATHFINDERで全29公演歌われ続けた「pinkie」のことだ。
2010年にリリースされた「HAPPY」のカップリング曲という立場である性質上、BUMPの数ある曲の中ではメジャーな曲とは言い難かったし、リリース以後一度もライブで演奏される事もなかった。
しかしながら前述した通り、秋から始まったツアーの全公演で演奏されることにより、秋なのに桜の歌であるpinkieがスポットライトを浴びることになったのだ。
音楽配信サイトで8年前の曲がランクインするなんて珍しい現象すら起きるほどの出来事だった。
勿論、私はずっと大好きな歌だったのでライブで聴けるのはとても嬉しかったのだが、
なぜこのタイミングで、このツアーで、なぜこの歌を全公演歌ったのだろうか。
感慨深さもありつつ少し不思議な気持ちも抱いていた。
 
 

『未来の私が笑ってなくても あなたとの今を覚えてて欲しい』

pinkieの始まりの言葉は、未来の自分へ伝えたい願いだ。
この歌は未来と今と過去が複雑に、色彩絵の具が混ざり合う時のマーブル色のように混じりあっていく歌である。
藤原さん自身がそう言っていたのだから、リスナーが歌詞を理解するのも容易くはない。
だが、確かにこの歌に存在する桜色の景色と、何か漠然とした未来への願いを感じているのではないだろうか。
私がその「漠然とした未来への願い」について、ひとつ答えを見つけられたのは、ライブで、肉声で、この歌を聴くことができたからだ。
その答えを紐解いていきたいと思う。
 
 
 

『自分のじゃない物語の はじっこに隠れて笑った
そうしなきゃどうにも 息が出来なかった
たいして好きでもない でも繋いだ毎日』
主役的な存在がたくさんいる世界の中で、脇役として端っこで作り笑いするしかなかったような、大して好きでもない毎日。
桜といって連想するのは学生時代の卒業や入学や新学期だが、確かに未来の私が見た過去の私はそんな日々だった。
そして多かれ少なかれ、そんな毎日を過ごしてきた人はいると思う。
短い文節で、自分では言い表わせられなかった過去にふわりと触れたかと思うと

『あなたのためとは 言えないけど
あなた一人が聴いてくれたら もうそれでいい』
と歌うのだ。
そんな私に、聴いてもらえたらもうそれでいいと歌うのだ。

まるで散り際の桜の花びらみたいだなと思った。
──あなたの為に咲いたわけではないけれど、あなたひとりが見てくれたならもう散ってもいい──
というような儚さを感じて、その控えめさが愛しくてせつなくて、どうにも泣きたくなる。
 
 
 

この歌には、唯一主題である「桜」が登場するフレーズがある。

『滲んでも消えない ひとり見た桜
眠りの入り口で 手を繋いで見てる』

1人で見たのに、手を繋いで見てるとはどう解釈したら良いのだろうか。

私が思うのは、実際に1人で桜を見ていた「過去のあなた」と、今その光景を思い出している「今の私」が出会えたことを『手を繋いで』と歌っているのではないかということだ。
過去と現在と未来がマーブル色に混ざり合うようなこの歌のどこかで「過去のあなた」と「今の私」が出会えた桜の咲くその地点が『眠りの入り口』だったのではないだろうか。
 
 

そして
『過去からの声は何も知らないから
勝手な事ばかり それは解ってる』
と、「過去のあなた」がこの歌を聴いているであろう「未来の私」宛てに独り言のようにまたつぶやく。
勝手なことばかり言ってるさ、とは思いつつも
『誰か一人が認めてくれたら もうそれでいい』
と、
『あなたとの今を覚えてて欲しい』
と思いを遂げるのだ。
 
 
 
 

ツアーPATHFINDERで特に印象に残ったフレーズ、この歌の役目を見つけたフレーズはこれだった。

『未来のあなたが笑ってないなら
歌いかける今に 気付いて欲しい』

藤原さんがステージの上から届けたのは、目の前にいるリスナーであることは勿論だが、それと同時に目の前にいるリスナーの未来へ送ったのではないだろうか。

ツアーが終わったあとの遠い未来宛てに、過去からの藤原さんが、楽しかったライブの想い出を、心を開放した日のことを、いつか思い出せるように仕掛けたのではないだろうか。
ライブのその日だけではなくて、未来に作動するように
─まるで時限装置のように─
全公演の全リスナー宛てに、あのツアーで聴いた全てを、見た全てを、感じた全てを、いつか大丈夫じゃなくなるかもしれない私達の未来で作用するように予め仕込んでいたのではないだろうか。
そして私たちも無意識のうちに、未来で思い出す事を約束していたのではないだろうか。

現に今私はpinkieを手掛かりにして、あのツアーの記憶を思い出しては心の支えにして生きているのだから。
 

奇しくもツアーが終わったのは、2018年の3月半ば。
(本来は2月11日で終わるはずだったが、藤原さんのインフルエンザ発覚によりひと月と少し、ツアーが延長されたのだ。)
偶然にも、桜の芽がほころび始める頃にPATHFINDERという物語は閉じた。
たくさんの涙と優しさと愛を残して。

pinkie=桜の色、小指で結んだ約束 を残して。
 
 

そして、また今年も桜が芽吹き始めた。
 

  • 投稿作品の情報を、当該著作者の同意なくして転載する行為は著作権侵害にあたります。著作権侵害は犯罪です。
  • 利用規約を必ずご確認ください。
  • ハートの数字はTwitterやFacebookでのリツイート・いいねなどの反応数を合算して算出しています。
音楽について書きたい、読みたい