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最弱者への殴撃

堕落した私に中指を立てたclimbgrowの愛

2019年。1月になっていた。
そういえば、受験期前最後の楽しみにと去年の今頃、立て続けにライブに行っていたよなぁ、と思い出して溜息をつく。
大学受験が迫っていた。
私のやる気は奈落の底に落ちていた。
そこにあるのは、ただの恐怖や焦りではない。この1年間を振り返れば振り返るほど、自分の堕落に目がいってしまう。
専門学校に行けばいいと突然言い出したり、大学受験をしない周りの友達と遊んだり、女は最悪風俗でどうにかなるなんて言ってみたり、なんだかんだずっと受験をする覚悟ができないまま、1月になっていた。
センター試験が迫り、高校の同級生でTwitterをやっている人などもうほとんどいない中、私はTwitterを眺め、YouTubeを垂れ流し、LINEを開いては閉じてを繰り返していた。
劣等感、自己嫌悪、嘲笑。私の中にある黒いものに対する感覚は、「悔しさ」を通り越して「諦め」に変わっていた。
私はただ彷徨っていた。
「格好良くあれよ!」と呼びかけてくれる大好きなバンドの曲でさえも、響かなくなってしまった私の脳。もうロックも音楽すらも無力に感じた。
それでも脳はただただ刺激を求めて、刺激をくれそうなバンドを記憶の中から引っ張り出そうとしていた。

ふと、1年前の対バンライブで聴いた、ガラガラ声を思い出した。
ライブのあの日の映像が蘇る。1曲めで浴びせられた、予習していた曲とは歌い方がまるで違う、がなる歌声。イマドキな他のバンドとは明らかに違う荒削り感。終始攻撃的な、それでいてどこか優しさの破片が見える視線を向けながら1曲を歌い切ったボーカルは、私たちにこう言ったのだ。
「おい、格好良いと思った奴、手ェ挙げろ!」
一瞬でフロアが拳で埋め尽くされた。
私も拳を高く上げていたのだった。
モッシュやダイブがあるわけでもなかったのに、彼らのライブを最後まで見るためには、体力を必要とした。
それでも私は一瞬も飽きることなく、そのライブに釘付けになっていた。

「climbgrow」
YouTubeで検索する。
ライブの次の日に大体の曲は聴いていて、気に入った曲はそれ以降もたまに聴いていた。
愛犬へのレクイエムだという「POODLE」、ダンサブルで攻撃的な「ラスガノ」、色気に酔いそうな「LILY」、予習していった美しい定番曲、「極彩色の夜へ」。
画面をスクロールしていくと、ひとつだけ、一度も再生されていないミュージックビデオが目に入る。
どこか汚れたような、きついピンクの背景。その上に半透明の白としっかりした黒で書かれた太い文字。「悲劇のヒロインになれる神経」その文字は画面の向こうから私を指差しているようだった。
私は、このミュージックビデオを再生することを、忘れていたのではない。恐れていたのだ。
その曲のタイトルは、「くだらない」。

そのミュージックビデオのフリップを見るたびに覚えてきた通りの、何度目かの恐怖に襲われる。あぁ、尊敬する人に、嫌われる。少しだけ血の気が引く。
しかし、血が引くような気分になったのも久々に思えた私がいた。
自分の無気力を救えるのはこの曲だけかもしれない、この際どんなに苦しくなってもいい、刺激さえ手に入るのなら、それがいい。
私はおそるおそる、「くだらない」を再生した。

私は音楽に、殴って、殴って、殴られた。

私は何もできないよと弱音の毛布にくるまって床に座り込んでいたところを彼らに見つけられてしまったのだ。
そして彼らに殴られ、胸ぐらを掴まれ、無理やり立たされた。
『弱点探し
迷える子羊が
良い人振るから
余計に馬鹿っぽくってさ』
ー違う。
『ずっとわかってる
フリをしてんだろ
虚しさは限界を越える
のうのうと苦しいよ痛いよって
そのまま誰にエゴをぶつける?』
ー違うって。
『悲劇のヒロインになれる神経
本当に良く出来た頭だね』
ー私は違う…

次々と繰り出されるその歌詞はまるで「テメェ、ダセェんだよ」と私一人を怒鳴るように響いた。
ー違う違う違う…私は…
そんな自己防衛も、彼らの言葉の前では無力だった。
違くなかった。私は弱さに甘えていた。そして自分を正当化していた。
自分のダサさに気付かないように、ずっと言い訳をしていた。
climbgrowに胸ぐらを掴まれて分かったのだ。
…私、努力してない。

それからというもの、私の受験勉強のBGMはclimbgrowになった。
失っていた攻撃的な視線を、彼らは私に与えてくれた。
climbgrowの音楽と過ごした1ヶ月ちょっとの受験追い込み期間は、あっという間に過ぎていった。

私は逃げたくなかったのだろうと思う。
受験から、努力することから。
「逃げたくないなら、戦えよ。」
climbgrowの愛の殴撃は、向上心の無い者を突き放すだろう。でも、心の底に向上心が眠っている最弱者には、鬼教官の言葉のように響くのだった。

この春、私は大学へ進学した。
第一志望の大学は落ちたけれど、自分に合った大学に進めたのだと思う。
最初から努力をしていた友達は良い大学に受かっていた。最後まで努力をしなかった友達は浪人になっていた。
勿論努力をしたのに浪人になっている友達もいる。
でも私を含め全員、「努力した以上の結果は出ない」それだけは同じだった。

卒業式、1月からを振り返った私の目に涙が溜まっていた。後ろでclimbgrowのメンバーが、腕を組んで私を見ているような気さえした。

『努力するだけ無駄なんて事言う/君に届けばいいと平凡な願いを込めて/メロディーに乗せた/凡人行進曲空は見ている』

『彼奴らに届けばいいと平凡な願いを込めて/中指に込めた愛を歌ってるよ/君が困ってる夜も壊れてしまいそうな夜も/歌い続けるこの声が枯れるまで』
 

私は4月10日に、climbgrowのライブに行く。受け取ったこの強い愛を、一生忘れないために。
 

※引用
前半3つの『』内(『弱点探し〜』〜『悲劇のヒロイン〜』):「くだらない」/climbgrow より
後半2つの『』内(『努力するだけ〜』、『彼奴らに〜』):「極彩色の夜へ」/climbgrow より

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