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真っ向勝負の先に見えた、新しい二重唱(デュエット)の在り方

椎名林檎と宮本浩次の「獣ゆく細道」について

 二〇一八年、平成から新年号に移り変わる潮目に、椎名林檎たっての希望で叶えられた、宮本浩次の“客演”。だが、これは決して“客演”なんかではない。三十年もの間、これまで共に戦ってきた仲間を残し、一人佇む齢五〇過ぎの男が、不惑の余裕をにじませた策士に真正面から挑んだ、“鍔迫り合い”である―。

 狼の遠吠えのように野性的な宮本の歌声と、猫の呻き声のように都会的な椎名の歌声。そんな両者の歌声は、鋼が堅牢な音を立て、ぶつかり合うかのようにして、聴く者の耳に突き刺さってくる。一番と二番では主旋律と副旋律の役がそれぞれ交換することで、楽曲の全編を通して刃を交えているかのような緊張感がもたらされる。ただ、そこに“乖離性”や“反発性”は微塵もなかった。それどころかむしろ、両者が同じ力で釣り合いが取れているような、“親和性”のようなものが感じられるのだった。

 何よりもそれは、宮本浩次と椎名林檎との間に音域の差を設けず、両者が概ね同じ音程で歌ったということが大きいだろう。西洋音楽における二重唱(デュエット)といえば、男声の音域(テナー)と女声の音域(ソプラノ)に分かれ、そこに存在する男性的なもの、そして女性的なものが調和することで、その美しさを見出すというのが一般的である。だが宮本は、性別や音域による妥協をすることなく、あくまで相手と同じ舞台上に立って調和をすることに徹しようとしている。

 それは結果として、音楽的な位置づけにおける性別の差というものが取り払われているように受け取れる。つまり、男性歌手という枠組みには収まることなく、純粋な歌い手としての潜在能力がいかんなく発揮されているということなのだ。その意味において「獣ゆく細道」は、従来の性別で括るような二重唱を覆す、新しい二重唱の在り方が提示された楽曲であるといえるのではないだろうか。

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