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2017年5月31日

めぇ (28歳)

『人生の使い方』を考える

Half time Old が埋めた隙間

私は大学を卒業してからずっと同じ会社に勤めている。
満足しているわけではないけれど、辞める決意をするほどのこともない。
好きな音楽があって、それを語れる友人がいて、人並みには楽しかった。
それでも世間一般から見れば何かと<適齢期>と言われる年齢だ。
<選択>を迫られていることには気づいている。窮屈になることも増えた。
転職して活躍する友人に、結婚して新しい家族を作った友人に
「私だって幸せだから」と知らない間に強気の仮面を付けて並ぶようになった。
それに疲れて、何となく疎遠になったしまった人もいる。
でも別に不幸ではない、それくらいの毎日だ。
 

そんな私の日課は通勤時間に愛用のプレイヤーから音楽を選ぶこと。

ある日の仕事帰り、電車の中でいつものようにプレイヤーの電源を入れる。
コレでもない、コレでもない…曲を飛ばす。
聴きたい曲が1曲も見つからない。それは突然やってきた。
「どうしたんだろう。疲れてんのかな。」
ラブソングには気持ちが醒めて、応援ソングには心が追い付かない。
何を聴いても自分が惨めに思えてくる。
好きな音楽でさえ、プレッシャーに感じるのだ。

それでも耳元で何も音が鳴っていないのは落ち着かない。
とりあえず私はラジオを聞くことにした。

そのときに出会ったのが Half time Oldだった。
ラジオを聞き流していたにもかかわらず、一瞬で意識が耳にいく。
とにかく好きな声で、一聴き惚れだった。
曲が終わると名古屋のバンドだということ
今の曲は『シューティングスター』という曲で
最近アルバムをリリースしたばかりだとナビゲーターが教えてくれた。
 

《こんなんじゃ僕はへこたれないと
 1人ずつに与えられて生まれてきたこの人生
 それを探す旅なんでしょう

 いいもんだよ とてもいいもんだよ
 少し迷うくらいで それも人生だよ》/『シューティングスター』

耳から離れなくて、すぐに彼らのことを知りたくなった。
 

《人の弱いとこに目がつくのは自分がそれ以上に弱いから
 人の幸せに目を瞑るには自分にそれなりの余裕がないから
   (中略)
 泣いて笑って生きてくんだよ 明日も君は生きてくんだよ
 自由は僕らの手の中で いつまでも握っていて》/『21世紀にも鐘は鳴る』
 

動画サイトで見つけたMVに、胸が締め付けられる。
ほんの30分前、電車に乗り込んだ私には聴きたい曲なんてなかったのに
彼の声と、この歌詞を求めて何度も何度も繰り返し聴いた。
ボーカル鬼頭大晴の声は、強くて儚くて切なくて暖かった。
気付けば、泣かないようにぐっと力を入れていた。
私はこんな言葉を誰かに言って欲しかったのかもしれない。

この出会いから、すぐにCDを買いに行って毎日聴いている。
同じ日に決まっていた他のライブをやめてワンマンライブに行くことも決めた。
そのとき1番必要だったのは彼らの音楽だった。
 

表題にした『人生の使い方』は彼らのアルバムのタイトルだ。
2016年12月に彼らの初めてのフルアルバムとしてリリースされた。
1曲1曲に違う主人公がいるから、1曲でも自分に当てはまるものがあれば…と
どこかのインタビューでメンバーが答えているのを読んだ。
私はこの考え方がとても好きだ。
いろんな人がいろんな思いで毎日生きている。
だから、このアルバムは多くの人に届く力があると思う。
 

《散々息を吸って吐いてても 飽きることなんて無いのにね
 退屈はどっから入り込んでく 続く生活に絡まってる》/『ミス・サンデー』

《分かり合えた事など1度もないから 誰が自分だ右倣えだ
 はみ出さずに漏れずに生きていかなきゃ 叩く方にあちらに着いてかなきゃ》/『幸福病』

《そもそも人間だ 不満はあるもんな それをいかに 期待だと思えるかだ》/『ミズワリ』
 

キャッチ―なメロディの中から届けられる言葉は、真っ直ぐに刺さった。
歌う声は嬉しそうに、時に不安そうにころころ表情を変えていく。
この時点で私は彼らのライブを見たことはない。
声色で表情が浮かんでくるような、圧倒的なボーカルだと思った。
歌う人の顔が、音を鳴らす人の顔が浮かぶ音楽は、より生活に寄り添ってくれる。
来年はこの曲に助けられるかもしれない、あの頃の私にこれ聴かせてやりたかった、
鬼頭の声からそんな無限の可能性を感じている。
 

「あのバンドが作る曲は全部よくて全部共感する」
昨今のバンドブームでよく耳にする感想だ。
少し捻くれた私はこの感想が嫌いだ。そんなはずはないからだ。
それなのにHalf time Oldの音楽はそれも許してしまいたくなる。
 
 

2017年4月15日 ワンマンライブ 
SEが流れてメンバーが登場、その瞬間にもうすっかり好きになっていた。
セットリストの組み方も、MCも、ステージでの姿も本当に素晴らしかった。
音源で毎日聴いていた曲たちが、カラダを打つ衝撃が心地いい。
どのライブでも予定調和になったアンコールを必死に待ったのは久しぶりだ。
 
 

ずっと好きな音楽には助けてほしかった。救ってほしかった。
でも私には、我を忘れるような恋心も、身を削るように追う夢もない。
誰かの力になりたい純粋な気持ちもなれば、誰かに感謝できるほどの余裕もなかった。
好きな音楽が聴けなくなったときに、それに気づいてしまった。
助ける価値がない、と言われているようだ。

正直、Half time Oldに出会っても、私の状況は変わってはいない。
運命の1曲に出会って人は変われる、なんて夢はもう見ていない。
それでも、コントロールできず積み重なった感情のブロックの間を
彼らの音楽が埋めて、テトリスのごとく消し去ってくれた。
 

私はこれからも変わらず仕事をして、変わらず音楽を選ぶ。
その音楽の中に、Half time Oldがいてくれる、
彼らに『人生の使い方』を考える時間をもらったのだ。
 

Half time Oldの音楽は、きっと日常に溢れるようになる。
そんな日が来ることを楽しみにしている。

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