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ヒゲとメガネのあやしくてすてきなおじさん

J Mascisの来日公演を観る

僕はじぶんのことを“おじさん”と云わないように心がけている。もう三十代も後半を迎えているため、だいたいの角度においておじさんにカテゴライズされてしまう昨今、難しい姿勢かもしれないけれどそうしている。
それは何故か? 自称するとそうなってしまうからだ。と、村上春樹がエッセイで書いていたからだ。わざわざ若作りをするつもりはないし時の流れに抗うのは無理な話だけど、みずから進んで老いを自認してしまうこともないなと、その姿勢を真似をさせていただいている。

ステージに立ったそのひとは真っ白な髭と長髪で、キャップをかぶり目には真っ赤な縁の眼鏡、上着にはなぜか目玉がいくつもプリントされていて若干不気味だし、その体型はお世辞にもスマートとは云えない。観客を見遣っては右手を軽く挙げて「ハロー」なんて云うそんなちょっとあやしいおじさんこそが本日の主役、J・マスキスそのひとだった。

2019年4月16日の火曜日、渋谷WWW Xにてアメリカのオルタナティブロックバンド、Dinosaur Jr.のフロントマンであるJ・マスキスのライブを観る。昨年リリースされた3枚目になるソロ作『Elastic Days』のリリースによる来日公演は東京と大阪の二都市を回るツアーで、今日はその初日なのだった。

ライブを観るまえに考えていたのはどんな編成でやるんだろう? ということ。ソロ作もアコースティックギターがサウンドの中心であるとはいえ、ドラムもベースもエレキギターも鳴っている。ひとりでやるのかソロ用のバンドを従えているのか、いったいどっちなのかなと想像をはたらかせていた。
なので会場に入りすぐに無人のステージをながめて、あ、ひとりでやるんだなとわかる。そこにはひとり分の機材しかなかったからだ。
でもVOXのアンプがあるのでそこで僕は首をかしげてしまう。アコギがあるので弾き語りなんだなということはわかるのだけど、エレキギター用のアンプがあるのはなぜだろう?

はじめのうちはごく普通のアコースティックギター(厳密にはピックアップの付いたエレアコだけど)一本の弾き語りだった。思うのはやっぱりメロディと歌声がすごくいいんだよなということで、聴いているとどこかゆったりとして大らかなアメリカの片田舎的雰囲気の風景が浮かんでくるというか、牧歌的と云ったら大げさかもしれないけれど、ロックの性急さとはすこし離れてのんびりとしてやさしくて、あとすこしのノスタルジーなんかがそこに絡んでいるようにも感じられたりする。

そもそもJ・マスキスが作詞作曲とギターとボーカルを担当するDinosaur Jr.は演奏がとても激しかったりうるさかったりするのだけれど、メロディはポップと評してもよいくらい耳なじみがよくて、歌もがなったりではなくて聴きやすいものだったりする。だからこのひとのアコースティックギターが前面に打ち出されているソロ作も、ギターをぶわーっとファズの聴いたエレキギター(ジャズマスター)に差し替えればたちまちDinosaur Jr.の音楽になる様な気がしておもしろい。
なのでおそらくだけど、このひとはソロとバンドが地続きなタイプなんじゃないかななんて思う。たぶん、意識して作風を変えたりはしていなくて、ギターを弾きながらふんふんとつくった曲が伴奏次第でバンドになるかソロになるかという感じなのではないだろうか。つまり表現の芯の部分は変わらないというか、だからこそアコギ一本でも違和感も意外性もなくすっとその歌に入っていけたし、また、このひとのソングライティングがただただ優れているということをシンプルな形で改めて認識することができた。

しかしギター、うまいなあと思う。しかも独特というかすごく細かくて正確なプレイもあればグランジ由来と云うべきかかなりラフなところが同居している感じがすごくおもしろい。歌いながらのコード弾きにかなり器用に音の装飾を加えていてああ、やっぱりこのひとは弾き語りという形であっても根はギタリストなんだな。みたいなことを思った。

と、ここまでは特に異常なしのバンドのボーカリストによるソロの弾き語りのライブだった。
だけど数曲歌ったあとでJ・マスキスはギターのコード弾きを機械の力(ルーパーという機材を足元で操作して演奏をリアルタイムで録音し再生する。それにより自分の演奏を即座に伴奏にできたりする力)でループさせたと思ったら、突如ずこおおおおとファズの効いたひどく歪んだ音を奏ではじめる。僕は激しい音に耳を襲われた瞬間に思わず爆笑してしまった。
アコースティックギターとはいえマイクで直に音を拾うのではなく、ピックアップを介してアンプから音を出しているので、つまりアコギを半分エレキギターみたいに扱っているので、エレキギター用の機材を使うことはまあやろうと思えばできるのだけど、できるんだけど、やるか? いくらこのひとの代名詞的サウンドが深く歪んだファズであるとはいえアコギにもそれをかけてしまうなんて、これはバンドと地続きというかもうひとりダイナソーじゃないか。そりゃVOXのアンプがあるわけだ……と呆れてしまう。しかもこれが真の姿ですみたいな妙な安心感はなんなんだ。おまけに観客各位もその瞬間を待っていましたと云わんばかりに歓声をあげて喜んでいる。そんないろいろがおかしくてかおかしくてしょうがなくて、もうどこまでJ・マスキスなんだよ最高だなと爆笑してしまう。

その後もコード回しをループさせてギターソロをとる場面がたびたびあった。まるで水を得た魚のようにギターを弾きまくるJ・マスキスを予想できなかった形で存分に拝むことができる。やっぱりすごくうまいし、これがやりたかったんだなということがやたらと伝わってくるし、なによりすごくかっこいい。このひとの表現が存分に味わえている感じがして、そのことがとてもうれしかった。

あとは、これは余談だしごく個人的に思ったことなんだけれど、間近で観たJ・マスキスはすごくかわいいというかとてもお茶目なおじさんだった。
音を出しながらチューニングをするところ(僕はこのひと以外でプロアマ問わず音を消さずにギターのチューニングをするひとを見たことがない)、ループをつくるのがうまくいかなくてちょっと焦っているところ、ループができたらほっと一息ついてお茶を飲んでしまうところ(曲の間ですよ!)、テンポのはやい曲でダイナソーのときと同じように体を左右にふらふらと回転させるところ、などなど。そんなひとつひとつの所作がいちいちお茶目で、その風貌と相まってなんだかとても好感度があがってしまう。相手はひとつのジャンルを培った偉大なミュージシャンなのにだ。

ソロの曲もダイナソーの曲もカバー曲も織り交ぜて、ひとりきりでのステージが終わる。バンドではなくソロだったからか、より濃厚にこのひとのこのひとだけの表現が堪能できた気がして胸がいっぱいになったし、いままでよりもさらにJ・マスキスのことが好きになってしまったように思う。

年を重ねることは怖いことでもあるのだけれど、でもこんなにかっこよくてお茶目で不思議な魅力に満ちあふれた素敵なおじさんであるところのJ・マスキスを見ていると、素敵なおじさんはいるし、年をとっても(たぶん)好きなことはできる。なんて変な勇気をもらう。本人はそんな勇気授けるつもりはさらさらないだろうけど、勝手にもらいました。”おじさん”から逃げないできちんと年をとれたらいいなって思います。

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