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2017年6月1日

重 (19歳)

私が選ぶ私

iri 『Watashi』

「かわいい」ってなんだろう。「女子」ってなんだろう。
女として生まれて19年経つけど、その答えは見えてこないし、どんどんわからなくなるばっかりだ。

高校の卒業式に、当時好きだった人が、クラスのマドンナ的存在の女子と、写真を一緒に撮っていた。一文で表わすことのできるこの出来事は、私の中でトラウマになるほどの深い傷になっている。勉強ができて、真面目で、謙虚。彼のそういうところに私は惹かれたし、憧れてもいた。その人が、マドンナに写真を頼むときは、普段の姿からは想像できないほど嬉しそうで、照れていた。マドンナの横に並んで、ピース。カメラのシャッター音とフラッシュ。私はものすごく冷静にその出来事の始終を見ていた。写真を撮りあう人が溢れる廊下で、私の頭の芯はショックで冷えきっていた。

私がこの出来事から導いた答えは、「女子は見た目がすべて」ということ。
そして、私は女として選ばれない。また、女として選ばれるかわいさや性格、魅力を持っていない、ということを強制的に理解させられた。

だから、大学に入学したときにまず考えたのは「かわいくなること」だった。無理して、パステルカラーの洋服を着て、チークは濃い目に入れて、髪はふんわりとした茶色に染めた。私の頭には、いつだって高校時代のあの出来事があった。人の「かわいい」「かわいくない」という声に耳を澄まして、毎日必死でかわいくなろうとしていた。私の基準は、他人に「かわいい」と認められること、ただそれだけだった。「かわいい自分」を演じることに、ものすごい疲労を感じながらも、ここでやめてはいけない、と自分に鞭を打っていた。「かわいくなければ負ける」という考えに、私はしがみついていた。

iriを見つけたのは、スポーツブランドのNIKEの広告『わたしに驚け』に提供された『Watashi』だった。

《囚われない もう戻らない 誰のものでもないの 私 / もう譲らない 縛る糸はない》
《廃れた人混みかき分けて淘汰 / 目に見えぬ糸ならウチらから透過 / whatever 動けば放たれてく》
《君と未知なsceneにdive》

かっこいい。私もこうなりたい。素直にそう思った。
唯一無二のクールな歌声、芯のある歌詞、都会的なのに、野性味も感じさせるサウンド。私は、息が詰まるほど衝撃を受けていた。圧倒的な「実力」を、音楽でここまで表現できるんだ、と驚いた。今まで、「かわいい」にこだわってきた自分が、安っぽく、薄っぺらく、幼く見え、急に恥ずかしくなった。そして、女の子はかっこよくてもいいんだ、と自分の中に新しい考えが生まれてもいた。

『わたしに驚け』の広告内でも、奇抜なファッションに身を包んだ女性が、道行く人に怪訝に思われながらも堂々と歩くシーンがある。そのシーンが一番好きで、印象に残っていた。これだ、と私は確信を持つ。

自分を変えよう、と思った。もともと、女の子らしい服装は苦手だった。メンズの服装を参考にするようになった。チークはやめて、色の強いリップを買った。髪をブリーチした。失いかけていた自分を取り戻すようで、解放感と清々しさを感じた。人からの「かわいいかどうかの」評価は、いつの間にか気にならなくなっていた。不思議なことに、服装を変えてから褒めてもらうことが増え、褒め言葉を素直に受け入れることができるようになった。

自分が、なりたい自分を選べるということ。基準は、自分が「良い」と思うこと。忘れがちになるそれらを、『Watashi』は、教えてくれた。
《弾けて見せてよ your power / 誰だって ルールはないから》
《弾けて砕く your power / 覆して 戸惑いもないまま》

高校の卒業式から約一年経ったころ、好きだった人からご飯に誘われた。なんでこんな人を好きだったんだろう、となぜか笑いそうになった。その人を吹っ切ることのできた私は一言、「行けない」と返信する。

自分を取り戻すのに、私は長い寄り道をした。でも、もうきっと迷わない。「かわいい」や「女子」を求めていた私はもういない。

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