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Voyagers

BURNOUT SYNDROMESワンマンツアー明星〜We have a dream〜 追加公演東京

「雨・・・。」
意気揚々と開けた玄関のドアの先には、湿った地面が見えた。これでは自転車で駅まで行けない。本数の少ない電車を乗り逃がし出鼻をくじかれた私は、焦らすような各駅停車を乗り継ぎ渋谷駅へ向かった。

 一人で歩く渋谷駅はいつも心許なく、手元の画面の地図とにらめっこだ。やっとの思いで着いた会場付近、見慣れたグッズを身につけた人がチラホラと見え始め、竦んでいた肩が解けていく。今日会う約束をしている友人と連絡を取りつつ、薄暗い物販の列に並ぶ。今日私は、数人の友人に挨拶をし、ラバーバンドを買って帰るのだ。ぼんやりと眺めていた階段の上で私に手を振る二人の影が見えた。ようやく見知った顔に巡り会えた安心感からか、はたまた逆光のせいか、とても眩しかった。ほどなくして物販が開始され、ゆるゆると列が進む。何事もなくラバーバンドを購入し、階段を降りると先ほど手を振ってくれた二人が見えた。小心者の私はおずおずと声をかけた―――

 開場時間の午後六時。
スタッフさんが整理番号を呼び上げる声が響く。こんな夢のようなことがあるだろうかと震える手には、私の元に漂着した一枚のチケットと、母からの返信を待つスマートフォンが握られていた。忙しなく画面を点灯し通知を確認しているうちに、右上の電池のマークは黒の比率を増やし、赤く染まり、数字は桁を減らし・・・。会場前に溢れていた人が知らぬ間に消え、心細さがどっと押し寄せた時、小さなフキダシのマークが画面に浮かぶ。覚束無い指先をスライドさせると、

「明日、ちゃんと起きて学校に行く。それと、九時になったらライブ途中だとしても帰る。守れるなら行っておいで。」

今までで一番優しいのではないかと思う母の言葉。こみ上げる何かを零さないように手で口を覆い、指が弾く文字と同時に小さく「ありがとう」と呟いた。斜線で切られた電池マークと”1%”の赤い光に安堵し、引き寄せられるように入口へと向かった。

 遅れて入った会場には、いっぱいの人。きっと途中退出しなければならない私は、センターから上手がよく見える出入り口付近の壁に寄りかかった。小学生くらいの子供から、同い年くらいの女の子、スーツを着たお兄さんお姉さん、私の母と同年代くらいの女性三人組・・・。そこにいる全員が同じそわそわを共有していた。空いていた私の前のスペースには三十歳前後だろうか、男性二人組が立ちにこやかにセットリスト予想を展開し始める。意識的か無意識かはわからないが、その肩も頭も私の視界を遮ることがなかった。そんな小さな幸せをワンドリンクの水で飲み込み、緊張で痛む腹をあたためた。

 しばらくすると場内アナウンスが入り客席の照明が落ちる。恒例のオープニングムービーが、私達を別世界へと引き込んでいく。これから起こることへの期待と先の読めない不安が混じった緊張が最高潮まで張りつめた時、ステージに火が灯る。真っ先に飛び出してきたBa&Choの石川、それに続くDr&Choの廣瀬とGt&Voの熊谷・・・。3月23日の公演から約一ヶ月ぶりに目にしたその姿に自然と涙が溢れた。三人がそれぞれ楽器に手をかけ鼓膜を震わす。ステージまでの距離なんて関係ない、三人の思いが痛いほど私の元へ届いた。先月のライブでは聞けなかった曲。私の進路を決めるきっかけになった曲。朝学校に向かう道で聞いて一日を明るくしてくれた曲。傾いた私の心を支え続けてくれた曲。机に向かい自分と向き合い続けた日々の後ろに響いていた曲。これらの素晴らしい曲に出会うきっかけになった曲。曲と共に私の中の記憶が次々と思い起こされ、頭の中を駆け巡った。赤く腫れたペンだこ、黒くなったルーズリーフ、枕に閉じ込めた弱音、不安に押しつぶされそうだった夜、満員電車、全てが輝いて見えた。私は何度も息を呑み嗚咽を漏らし、ステージから目を離して俯いた。瞳に溜まった涙があまりに重かった。

 この日ライブTシャツを着て、スニーカーを履いていこうと思ったこと。翌日の一限が休講であったこと。母の優しさ。行き場のないチケットがあり、そのチケットを私に譲ってくれた人がいたこと。戸惑う私に「大丈夫だよ。」と優しく背中を押してくれる人や「楽しみましょうね!」と声を掛けてくれる人がいたこと。まるで私の進むべき道は決まっていたかのような偶然の数々。ここに書いたこと、書ききれなかったこと、全てに感謝したい。ありがとう。彼等のライブのあとは、いつもありがとうが足りない。

 案の定、アンコール前に約束の九時を迎えた私は、確かに存在した引力を感じながら会場を去った。

 彼等の夢のような世界をまた見ることは叶うだろうか。
・・・きっと大丈夫だろう。彼等が、そして私達が旅を続ける限り。
互いの引力がまた私たちを巡り合わせてくれるだろう。

  キミの旅路に幸多からんことを、“アディオス”

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