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9割のおふざけと1割の真面目

ヤバイTシャツ屋さん、そりゃ売れるよなあ。

私が初めてヤバTことヤバイTシャツ屋さんのライブを観たのは2015年の出来事だった。自慢させてもらおう。ありぼぼさん側の最前列だった。
 

「ライブって楽しい!」
それだけで最初から最後まで押し通せるパワーは当時から健全で、売れるやろな〜、と思った次の瞬間には売れていた。
なんなら私が知った時には既にインディーズ界隈で超新星として活躍していたんだが。

彼らの地元大阪のライブハウス、BIGCAT(キャパシティ850人)でのワンマンのタイトルが「まだ早い。」だったかと思えば、その日にはメジャーデビューの発表があって、瞬く間に、それこそ飛ぶ鳥を落とす勢い、ていうか飛び立ってだれにも捕まえられない鳥。鳥でした。
気がついたらチケットも取れないしフェスは規制かかるし凄い人と対バンしてるし、少しの気後れを感じたまま、最後に行ったライブから2年が経とうとしていて、そんな中で今年久しぶりにライブに行った。

会場はZepp東京。キャパシティは2700人。ビッキャの3倍以上。
パンパンなんてモンじゃない。これ以上一人たりとも入らない。

年齢層は若い子も中年層も。ゴリゴリのライブキッズもいると思えば完全に仕事を早めに切り上げたサラリーマンもいる。不思議。

どちらの世代・コミュニティにも需要のある音楽だからこそ客層が広いというのは理解できても、「どちらにも需要がある音楽ってなんだ?」という部分がどうしても謎が解けない。

最近は「何も考えずに聴ける音楽だからいい」とか「なんにもなさが心地いい」という類の『褒め言葉』をよく目にして、確かに「ネコ飼いたい」しか言わない歌があるくらい「中身がない」のが売りやったし、私もそれが好きなんやけど、とはいえ、フェスで一番広いステージを満杯にする程、みんながみんな受け入れられるものか?というのが正直な気持ちで、「ライブが楽しかったらそれでいい!ウェイ!」という人にウケるのは理解できても、「普通、音楽に、もう少し救いを求めない?意味のある歌詞に救われたり、『伝えたい事がある』方が心に響くんちゃうの?」と、思ってしまう。

しかし、実際にライブを見終わった後は完全に反省した。
「ライブが楽しかったらそれでいい」は、十分、というか、救いの部分で言えば100%の正解である事を、思い知らされたライブだった。

そもそもの話をします、ヤバT、めちゃくちゃ演奏も歌も上手くなってた。売れていく中でちゃんと応えられるだけの努力をずっとずっと積んできたのが一曲目の演奏でわかった。

音楽のクオリティが高ければそれだけで広いライブハウスだろうが人を魅了できるもので、
人間にオーラって私間違いなくあると思うんですけど、会場の広さに勝てる実力がある人は、どんなに遠くから見てても「遠い」と思わせないんです。逆も然り。
Zepp東京の後ろの後ろで見てたのに、4年前に初めて見た一列目よりも断然近かった。

そして客席の熱狂。全員、「今日は馬鹿騒ぎするぞ」と思って待ち構えてるから、音が一つ鳴れば全身で踊り出して、次の音は俺が鳴らす、と言わんばかりに一緒になって歌う。

2700人全員がそんな風に豹変するのを目の当たりにして、驚きで思わずたじろいでしまった。
みんな、ここまで全力になれるもんなの?

先述した通り、歌詞に意味がない事の方が殆どで、それでも純粋な音楽の良さやノリの良さで「ライブって楽しい!」をどんどん重ねていくライブは、虚しくなるどころか、跳ね上がるテンションの終着地点をも奪ってしまい、かと思えば「やりすぎ」「イタイ」ともならずに絶妙なラインで最高潮な瞬間をキープし続けていた。

あまりにも楽しくて、「終わって欲しくない」などという気持ちすら湧かなかったのに、「終わり」について話を始めたのは演者側のこやまさんだった。
「これが終わったらあと5曲で終わります。」

真面目な事が言い慣れてないのは昔と変わらずみたいだが、慣れてないなりに、彼はここまで全力で演りきった「おふざけ」をただの「おふざけ」にしないために、このライブを、みんなにとってどういう経験にしたいのかを話した。

「今日はみんなを全力でヘラヘラさせてヘラヘラしたまま帰ってヘラヘラしたまま寝させる為にライブやってます」
「いろんなことあると思うけど、今日はもう楽しんで楽しいまま帰ってください。」
 

こんな「ありがち」な言葉でもハッとしてしまうのは、彼がわざわざこんな事を言わなかったら、ほんまに「わーたのしー!たのしかったー!」って何も気づかないまま今頃布団に入って幸福感いっぱいで眠りにつくだけだったのが安易に想像できたからで、
彼がそれを敢えて言葉にしたのは、ちゃんと自分たちの音楽で何がしたいのかという事を伝えていきたかったからだと思った。

音楽の中身に伝えたい事がなくても、音楽を楽しむという経験自体が人を救う。

「なんにもない」のが心地いいんじゃなくて、「音楽が楽しい」からみんな救われてるんだよな。とそこで気がついた。

そしてここに来ている人はきっとみんなそれもわかっていた。真面目な彼の姿を真面目に受け止めている。
お客さんは「騒げ」と言われて騒ぐのと同じで、「ヘラヘラして帰ってください」と言われたらヘラヘラして帰るのだ。彼の願いであり、彼が実現したい事を、ちゃんと受け止めて、叶える。
多分今日のライブまでに培ってきた信頼関係はもちろんのこと、この一日で共有したこの瞬間をみんな信じているから、最後まで楽しませてくれるだろうと確信して、ほんなら、最後までヘラヘラしていくで。と。

そこには年齢層やコミュニティの差は関係ないのだ。
みんな各々に「いろいろ」があって、しんどい事も苦しい事も楽しい事も嬉しい事もそれぞれにあって、
でも、とりあえず、今日は「音楽が楽しい」という経験をして帰るだけのことなのだ。
それに救われる人もいれば、「楽しかった」という気持ちだけを求めて足を運ぶ人もいるのだ。
 

そんなちょっぴり真面目なMCをした後は、また元の「げんきいっぱい」なライブが始まって、あっという間に終わってしまった。
最後の一曲です、という呼び掛けに、あんなにも楽しそうに答えるオーディエンスは、生まれて初めて見たな。
 

苦しい境遇を理解してくれなくても、とりあえずガム噛む、くらいのノリで、とりあえずライブ行けばいいと思う。悩みは解決はしなくても、その日は楽しく終わるから。

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