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2017年6月5日

かやれん (21歳)
36
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夏の匂いがした

My Hair is Bad ハイパーホームランツアー 集大成としての日比谷公演

 
 

2017年5月4日 木曜日 天気は快晴
17時開場を控えた日比谷野外音楽堂は少しだけ夏の匂いがした。
この日はMy Hair is Badの初野外にして過去最大のキャパを誇るステージでの単独公演。

ずっと、ドキドキが止まらなかった。

ライブハウス、小さい箱でこそ輝いていると言われている彼らがこの野外ステージでどんなパフォーマンスをするのか、はたして通用するのかどうか、そんな期待と不安を抱えていた。

入場列に並びながら隣で彼女が「楽しみだね」とつぶやく。僕は「そうだね」と言ってふたり、手を繋いでいた。
お揃いのマイヘアT、お揃いのラババン、僕らは1週間前に付き合ったばかりだった。

18時を回り、ステージ上に現れた椎木知仁、バヤリース、やまじゅん。
彼らは3人ともいきなり戦闘態勢に入っていた。拍手喝采が野音に鳴り響く。
「過去最高の、過去最大のホームランを打ちにきました!新潟県上越マイヘアーイズバッド始めます!」
椎木さんの挨拶から1曲目『告白』が初っ端からアクセル全速でプレイされる。いつもと気合いが違っていた。
彼らが昨年10月に出したアルバム「woman’s」の収録曲順をなぞるように『接吻とフレンド』が披露されたかと思えば、少し過去を遡り『ドラマみたいだ』『マイハッピーウェディング』がすぐさま場をかっさらっていく。
何十回、何百回も聴いた曲なのにどこか新鮮で、耳と感情が追いつかない。
マイヘアの武器である、イントロの爆発力。惜しげも無く繰り出された『アフターアワー』『革命はいつも』に僕は思わずタオルを掴んでいた拳を高々と上げた。

ずっと、ドキドキが止まらなかった。

椎木さんは僕らに休むヒマを与えない。30秒程度の『クリサンセマム』『mendo_931』をブチ込んでくると麻痺した身体に銃口を突きつけ『ディアウェンディ』を掻き鳴らす。自分たちのサウンドで場を圧倒し、観客に媚を売らない。野音はすでに彼らのライブハウスになっていた。
ノースポール(クリサンセマム)の花言葉は”誠実”らしい。
ふざけるんじゃない、『元彼氏として』で元カノが来ていると言いながら中指を突き立てる椎木さんに会場は沸騰した。
ようやくMCに入ったかと思うと初めて楽屋に弁当が出た話、下北沢の古着屋で誰にも声をかけられなかった話(ナインスのTシャツを着ていた子からも)など先ほどまでのバチバチで熱い演奏がサッと身を潜めるようなゆるいトーク。これこそが”ポエマー”椎木知仁の本領であり人気の秘訣なんだと思った。

隣にいた彼女もそんなMCにけたけたと笑っていた。
この日のために普段は聴かないマイヘアを必死に聴いてきたという彼女が愛おしい。僕はその表情を横目に少し安堵した。僕たちはライブハウスで知り合った。
彼女は僕と付き合う少し前まで、3年間付き合っていた彼氏がいた。
僕は自分に自信がなかった。

気づけば野音は徐々に日が落ちてきて、夕暮れ。一番エモい瞬間に突入する。
「大切な曲をやります」椎木さんは優しい口調でそう言った。

“ブラジャーのホックを外す時だけ 心の中までわかった気がした”

それは『真赤』という曲だった。僕にとってマイヘアを好きになるきっかけとなった曲。死んでいた耳と退屈な日々から僕を救い出してくれた曲。
椎木さんは僕の願いを聞き入れてくれたかのように『グッバイ・マイマリー』『最愛の果て』『悪い癖』を立て続けにプレイする。僕は涙を流していた。隣に彼女がいるのに泣いているなんてダサい、そう思ったけれど涙は止まらなかった。

マイヘアの曲はとても人間味があると思う。
そりゃあ椎木さんが自らの実体験を歌詞にしているのだから当たり前なのだがそれだけではない。いつだって僕らの心に寄り添ってくれる感覚があるのだ。
たしかに僕には”君は言う 「あなた犬みたいでいい」って”(真赤)と言われた経験もないし”僕の荷物がまとまり 手紙が置いてあった”(グッバイ・マイマリー)という経験もない。けれどなぜか共感してしまう。カッコよさもカッコ悪さも成功も失敗もすべてをさらけ出す人間、らしさ。曲の中に僕たちは僕たち自身を見つけてしまう。
椎木さんだったら「3年なんて短く感じるくらい、オマエが彼女のこと大切にすればいいじゃん」とでも言うのだろうか。言ってほしかった。

椎木さんにとっての”最低の曲”である『彼氏として』が終わる頃にはすっかり野音は暗闇に包まれていた。静寂した空間でスポットライトが中央に集まる。
過去最高で過去最大のホームランを打ちに来たマイヘアが、たくさんの感謝とたくさんの信念を掲げた渾身の『フロムナウオン』を打ち込む。
「バンドだっていつかは終わってしまう。だけどその瞬間までカッコよくいたい」
内側から燃えるような闘志を弦に乗せて、伝えたいことをありのまま叫ぶ椎木知仁。観客は誰一人として拳を上げてノッたりはしない。ただただ圧倒された。野音のキャパ3000が、まるで相手にならなかった。彼の吐く言葉一つ一つのパワーに僕たちはひれ伏すしかなかった。
ライブも終盤にさしかかり、観客が座る。真っ暗なステージで優しく響いた『最近のこと』『恋人ができたんだ』は隣にいる彼女にどう響いているのだろう。
お揃いのTシャツ、お揃いのラババン。僕らはこれからうまくやっていけるんだろうか。

マイヘアのライブは一種の映画であると思う。椎木知仁の人生という映画。だけど誰しもそこに自分を探してしまう。
僕は彼女の今までを知らない。彼女がどんなことで喜んで、どんなことで悲しんできたかを知らない。3年という歳月が、どれくらいの重みがあるのかを知らない。
そんな映画のエンドロールは、椎木さんが大切なもう一曲と言った『優しさの行方』だった。明日への希望に満ちた素晴らしいナンバーである。

“無理をしたっていいのさ 誰もが誰かの時間に生きてる”

僕は背中を押されたような気がした。彼女の手を握った。
彼女は僕のほうを振り返り、手を強く握り返した。
 

2017年5月4日 木曜日 天気は快晴
夏の匂いがしていた日比谷野外音楽堂は18時を回ってもまだ明るかった。

“こんな時間になっても まだ明るいだなんて
電線の向こうには 今年も夏が待ってる”

アンコールは『夏が過ぎてく』だった。僕は右手を高々と挙げてワンツーと叫ぶ。ありがとうという意味だった。
僕の期待と不安は、とうになくなっていた。
マイヘアはどんなに大きいステージでもライブハウスに変えてしまう。
彼女とのこれからも、きっとなんとかやっていけるような気がした。

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