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ファンが夢見た一夜限りの〈物語〉フェス

堀江由衣、花澤香菜らのキャラクターソングで彩られた、極上のファンイベントを観た

5月11日、幕張メッセイベントホールにて、物語シリーズ10周年を記念したイベント『〈物語〉フェス』(以下・物語フェス)が開催された。今回はそのレポートを記したいと思う。
 

レポートに進む前に、まずは今回のイベントの概要から説明する必要があるだろう。
 

『物語シリーズ』とは西尾維新の青春怪異小説シリーズ、及びそれらのアニメ作品を総称して呼ばれる言葉である。物語シリーズは一般的に広く知られている『化物語』から『傷物語』、『偽物語』や『猫物語』といったいくつもの物語に分かれており、それぞれ異なるキャラクターを主軸として進行していく。
 

魅力のあるキャラクター、西尾維新による独特な言い回しやストーリー展開が話題を呼び、その広がりは凄まじいものとなった。原作小説は一冊あたり約1500円と高値ながらも、僅か5巻で120万部を突破。更に後のアニメに関しては、当時のアニメシリーズの最高売上を記録。シリーズ累計100万本以上を売り上げるという、文字通りのバケモノ作品となったのだ。
 

物語フェスは、そんな絶大な人気を誇り続ける物語シリーズの、10周年を記念した大々的なアニメイベントである。ややもするとDVD・Blu-ray化して莫大な売上を見込めるイベントではあるのだが、『一夜限りの夢物語』と事前に告知されていた通り、何とテレビ放映やDVD化は一切なしと言うのだから驚きだ。
 

会場に選ばれた幕張メッセは1万人以上が収容可能な大型施設としても知られているのだが、もちろんチケットは瞬時に完売。その人気の高さを改めて裏付ける形となった。
 

ちなみに、今回のイベントの出演キャストは以下の通り。
 

[キャスト]
・神谷浩史(阿良々木暦 役)
・斎藤千和(戦場ヶ原ひたぎ 役)
・加藤英美里(八九寺真宵 役)
・花澤香菜(千石撫子 役)
・堀江由衣(羽川翼 役)
・喜多村英梨(阿良々木火憐 役)
・井口裕香(阿良々木月火 役)
・早見沙織(斧乃木余接 役)
・水橋かおり(忍野扇 役)
・井上麻里奈(老倉育 役)
・三木眞一郎(貝木泥舟 役)
・坂本真綾(忍野忍 役)
 

当初出演が予定されていた沢城みゆき(神原駿河 役)、櫻井孝宏(忍野メメ 役)については残念ながら出演キャンセルとなってしまったものの、結果としてアニメファン、声優ファンならずとも感嘆の声を上げざるを得ない豪華出演者陣には脱帽である。
 

更にこの布陣にプラス『〈物語〉フェス スペシャルバンド』なる総勢十数人にも及ぶ豪華演奏者の出演も発表。要はこの発表により、物語シリーズのOP、EDを各話ごとに彩っていた各自のキャラクターソングにもスポットが当たることがほぼ確定事項となったわけだ。
 

しかしながらその全貌は、事前情報だけでは伺い知ることが出来ないというのが正直なところである。実際に何を演奏するのか分からないし、アニメの名シーンを再現する生アフレコがあるのかも、一向に不明なままだ。そんな一種の期待と不安が交錯した心持ちのまま、一夜限りの歴史的イベントは幕を開けたのだった。
 

時刻は開演を示す定時ジャスト。しかしながら、会場には未だ物語シリーズのアニメの日常パートの音楽が鳴り響き、主要メンバー勢揃いのキャラクタービジュアルがスクリーンに大映しになっている状態が続いていた。早くもペンライトを点灯させたり、痺れを切らして思い思いの歓談を行う観客を見ながら、次第に緊張感が高まっていくのを感じた。
 

17時10分を過ぎた頃、暗転。大歓声を前に現れたのは、神谷浩史(阿良々木暦役)と坂本真綾(忍野忍役)であった。
 

記念すべきイベントのオープナーということもあってか、各日常パートの冒頭を彷彿とさせるコメディ色強めの展開で進んでいく。
 

『ひたぎクラブ』や『まよいマイマイ』、『するがモンキー』といったサブタイトルを例に上げ「『まくはりメッセ』と書くとまるでサブタイトルのようじゃな」といったトークや、アニメ化されていない外伝作品をイジったり、幕張メッセの最寄り駅として実際の最寄り駅より遥か遠くの駅を教えるなどの怒濤の流れは、コメディパートに定評のある物語シリーズならではのスピード感だ。
 

その後も何度かキャラクター同士の掛け合いがあり、アニメ版と同様に喜多村英梨(阿良々木火憐役)と井口裕香(阿良々木月火役)の次回予告がスタート。「予告編クーイズ!」「クーイズ!」というおなじみのやりとりの後「アニメが放送開始されたのはいつでしょう?」との問いに対して瞬時に回答する火憐であったが、月火の「ですが~……」の引っかけに悪戦苦闘。
 

本来であれば答えが発表された直後「次回!ひたぎクラブその2!」といった次回予告で終わるのが定番なのだが、「次回!『staple stable』!」と曲名を叫ぶという、観客も予想だにしていなかった展開に。
 

暗転後、ステージには斎藤千和(戦場ヶ原ひたぎ役)がシックな衣装を纏って登場。そのまま移行したのはアニメ版化物語の記念すべきファースト・ソングである『staple stable』だ。
 

背景にはアニメのOP映像と共にリアルタイムで撮影された斎藤の姿が周囲に加工を施され、美麗に映し出されている。
 

〈重さじゃ量れない こんな想い〉

〈君だけに 今 伝えるから〉
 

斎藤の歌声は大舞台の緊張もあってか、お世辞にも安定しているとは言い難い。楽曲自体も1番のサビまでの進行と、テレビサイズで若干物足りない感も否めない。しかしながら楽曲内に含まれる多大なメッセージ性には、ファンならばグッとくるものがある。
 

この楽曲が流れたのは今からちょうど10年前のこと。蟹の怪異に体重を奪われた戦場ヶ原ひたぎを阿良々木暦が助けたことから、物語シリーズの全ては始まったのだ。その後も暦は様々な怪異と仲間に出会い、身を挺して救っていく。そしてそんな真摯な姿に心打たれたひたぎと暦は、次第に惹かれ合う……。
 

もちろん今現在まで物語シリーズは続いているわけで、これらの出来事は過去の産物に過ぎないかもしれない。しかし物語シリーズ10周年を記念した今回のイベントの最初の曲として『staple stable』を選択したのは、間違いなく大きな理由があったのだろうと推測する。ここから全てが始まった、いわば『始まりの歌』なのだから。
 

斎藤が去った後「みなさん!盛り上がって参りましょう!」との一言でスタートしたのは、爆速BPMで進行する『帰り道』。ピンクを基調とした衣装で現れた加藤英美里(八九寺真宵役)はさながら小学生である八九寺を彷彿とさせ、綺麗というよりは圧倒的に可愛らしく見える。
 

八九寺は当初の物語上では蝸牛の怪異に取り付かれ、死者でありながらも成仏できないでいる存在であった。そのため母親の家を探し続けるその姿から『迷い牛』という名を付けられていたのだが、この日の加藤はまさにそんな『迷い牛』と呼ぶに相応しい挙動で、だだっ広いステージ上を右往左往していたのが印象的だった。
 

今回のライブで最も驚いた場面を問われれば、個人的には次曲の『ambivalent world』だと言わざるを得ない。というのもこの楽曲を歌唱している沢城みゆき(神原駿河役)は、今回のライブの出演者の中にはいなかったからである。そのため『ambivalent world』と『the last day of my adolescence』の2曲に関してはセットリストから除外されるのだろうと、てっきりそう思っていた。
 

しかし結果的にはこの2曲は演奏された。では沢城がサプライズで登場したのかと言えば、そうではない。沢城自身が歌唱したオケを使い、沢城不在の中フルでやってのけたのである。
 

イントロが流れた瞬間、観客は「ええ!?」と驚きの声を上げる。……これはもちろん前述したように沢城の不在が分かりきっていた故の驚きなのだが、『ステージに沢城の姿はなく、しかし沢城の歌声ははっきり聴こえている』という状態で進行。ステージ上にはかつて阿良々木暦を半殺しにした猿の怪異が跋扈し、所狭しと動き回る。観客はまさかの展開に腕を大きく挙げて答えていた。
 

『the last day of my adolescence』も同様で、沢城はやはり不在で歌声のみが聴こえている。大きく違うのは『神原駿河がいる』という点。要はVTuberや初音ミクのライブの如く、立体的な映像として神原駿河がスクリーンに映し出されているのである。
 

場所はかのライバルと最後の対決をした、思い出深き体育館。水が次第に満ちていく描写も、アニメ版を忠実に再現している。そこで歌い踊る神原の姿は決してリアルとは程遠いのだが神々しくもあり、今回のライブのひとつのスパイスとしては上手く機能していたようにも思う。
 

神原曲の間に挟まれて披露された、喜多村が歌う『marshmallow justice』も素晴らしかった。阿良々木月火とふたり合わせて『ファイヤーシスターズ』と呼ばれ、特に火憐は正義感の塊として活躍しているのは周知の通りだが、そんな彼女を体現するかのようにスクリーンにはメラメラと燃え上がる炎が映し出されていた。歌唱も安定感抜群で申し分ない。結果として喜多村がその次に歌唱する瞬間は最終曲の『wicked prince』のみであるため、言い換えればそれまで長いおあずけとなるわけだが『marshmallow justice』の大盛り上がりは名状しがたいものがあった。
 

さて、ここまで読んでいただければお分かりの通り、今回のイベントでは『まくはりメッセ第○話』と題し、各話『数回のオリジナル朗読劇+数曲の主題歌歌唱』の流れで進んでいく。
 

よって続いては『まくはりメッセ 第二話』となるわけだが、ここでは原作での関わりがある程度あったメンバーによるトークを主軸に行われることとなった。
 

第二話では阿良々木暦と井上麻里奈(老倉育役)、神原とひたぎ(神原役の沢城は不在のため実際の生朗読はなし)、早見沙織(斧乃木余接役)と忍と八九寺のトークなど目白押しであったわけだが、中でも面白かったのはかつて困難を共にしたスリーマンセルコンビ。
 

斧乃木は「僕はキメ顔でそう言った」という彼女曰く『黒歴史の語尾』が復活しており、その他にも「イエーイ」「ピースピース」といった無作為なボケを連発。原作ではツッコミ役も多くこなしていた斧乃木だが、この場では真顔でガンガンボケまくる役を担っていた。
 

更には八九寺もボケ役を担当。斧乃木の語尾を真似て「私は太陽のような笑顔でそう言いました!」など、やりたい放題。忍が徹底してツッコミに回らざるを得ない状況となり、もはや一種のカオス状態。客席は笑いに包まれ、心なしか声優陣も楽しそうだ。まるで自宅でドラマCDを聴いているかのような、多幸感に満ち溢れた空間が徐々に広がっていく。
 

「火憐だぜ!」「月火だよー!」「二人合わせてファイヤーシスターズ!」との流れでスタートした二度目の予告編クイズでは、「この10年間で最も多く主題歌を歌ったのは誰でしょう?」という火憐曰く『ガチなクイズ』が進行。
 

実際の答えは斎藤千和(戦場ヶ原ひたぎ)なのだが、火憐は一貫して「はい!月火ちゃん!月火ちゃん!」と譲らない。当初は「お手付きは3回までです」と真剣モードだった月火だったが、遂には根負けしたようで「もー!正解!火憐ちゃん大好き!」とグダグダで終了。最後に「次曲、オレンジミント!」と声を揃えて去っていった。
 

暗転後に披露された『オレンジミント』では自身が演じる斧乃木余接同様に、至って無表情に歌い上げる早見沙織。実際の音源としての『オレンジミント』は自身のサンプリングボイスを多用してパーカッション的役割を担っていたのだが、全生楽器で演奏された今回のライブにおいてはそういった打ち込みはなし。ズドンと心臓に響く重厚なサウンドでもって、会場中を掌握していく。
 

映像についても書き記しておきたい。無数の扉から無作為に斧乃木余接と早見沙織が飛び出す展開は、エンターテインメント性抜群の出来。無表情でポーズを決める早見も愛嬌たっぷりで、その姿はファンならずともイチコロだったろう。
 

『terminal terminal』終了後は、いわゆるダークサイド系の曲が多数披露される展開に。物語上でも特に重要な部分を担っていた『つばさキャット』の主題歌である『sugar sweet nightmare』は、歌手としての実力も高い堀江由衣(羽川翼役)の高らかな歌唱によって強く心に響き、ラストで猫のポーズを決める堀江には心からキュンとさせられた。
 

冒頭の含み笑いも忠実に再現した花澤香菜(千石撫子役)が歌う『もうそう♡えくすぷれす 』は、一見するとポップな歌に聴こえるものの、全ての結末を知っているファンからするとゾッとするホラー楽曲だ。タイトルこそ可愛いがその内容は暴走する列車の如く突飛かつ理不尽であり、キュートな花澤香菜との対比がまた、楽曲の良さを際立たせているようにも思えた。
 

『mathemagics』と『decent black』の2曲に関しては放送開始からあまり時間が経っておらず、OPサイズでなくフルで聴くこと自体貴重なために若干盛り上がりに欠けた印象は否めないが、それでも美麗なVJと楽曲の持つキャラクター性が織り成すサウンドは、素晴らしいものがあった。
 

さて、今回のライブは物語シリーズのファンであれば、全編通して名場面であったことは疑いようもない事実である。しかしながら個人的に「最も感動した場面は?」と問われれば、間違いなく『白金ディスコ』と答えるだろう。
 

「ハァーどっこい!」というおなじみの歌声が聴こえた瞬間、『白金ディスコ』は怒号のような大歓声で迎え入れられた。スクリーンにはOPで披露されていたダンスシーンが投影され、ダンサーと共に三位一体でダンスを踊る井口。その歌い方は自身が演じる阿良々木月火というよりは井口裕香そのものであり、『可愛く』というよりは何度もライブで披露してきたような、極めてソウルフルな感覚で歌い上げていた。
 

中盤では兄である阿良々木暦がスクリーンに投影されるサプライズも。しかもその姿が『白金ディスコを完コピで踊る』というアニメ版のワンシーンを再現したものであるから、噴飯ものである。「プラチナっていうのは“プチ”を略したもので、別にそれ自体に大きな意味はないんだよ」とは月火の弁だが、もしも月火がこの光景を見たら「何これ!プラチナむかつく!」と言うに違いない。
 

終盤の『ディスコ!』3連発に関しては、本来であれば疑問符を付けたりポップにといった形で歌われる場面であるが、ここでの『ディスコ!』は全編通して叫ぶように歌い上げられた。その姿はまさに『ライブ体験』といった様相で、エモーショナルに会場に響き渡った。
 

続いては『まくはりメッセ第三話』へ移行。ここでは本編での関わりが一切なかったキャラクター同士の会話が、物語上では絶対にあり得ない形として出現。まさにファンにとっては大喜びの展開だ。
 

中でも阿良々木暦+老倉育+千石撫子が共に会話を共にするという驚愕の展開は、特筆すべきだろう。そもそも暦と千石は“いろいろあった”挙げ句にその後の関わりはなかった……というか“会うこと自体がタブー”なわけで、老倉と千石に至っては関わった経験すらないという謎の組み合わせ。
 

暦と老倉のトークに「なーでこーだYO!」と無理矢理割り込む千石。この『千石撫子・謎のDJラッパーキャラ』はアニメDVDの副音声機能を使ってのみ登場するもので、コアなファンでなければ理解不能な代物なのだが、とにかく。「今最もチケットが取れないラッパーなのだぞ?」と老倉が語るも、「そもそもチケットを売ってないからな」とツッこむ暦。
 

阿良々木暦とフェスの幹事・羽川翼のトークでは、今回のフェスの趣旨について説明がされた。今回のセットリストの冒頭で初期の楽曲が多く披露されたのも、ドレスコードが決められていたのも、全ては『10周年のお祝いの席』という意味合いと『また再び初心に立ち返ろう』といった思いが込められたものであったことが明らかとなった。
 

今回はファイヤーシスターズのクイズはなし。「次曲、『chocolate insomnia』」と羽川が語ると、そのまま堀江由衣(羽川)が歌う『chocolate insomnia』へ。
 

〈本当は 全部 識(し)らなかったの〉

〈本当は 全部 理解(わか)っていた〉
 

この楽曲が本編で流れたのは『猫物語(白)』であり、この物語は今まで隠し続けてきた阿良々木暦への想いを解き放つ内容となっている。暦の「お前は全部知ってるなあ」という一言に対し、羽川がお決まりのセリフとして「全部は知らないわよ。知ってることだけ」と返す流れが物語シリーズでは多用されるが、暦に対する淡い想いだけは、唯一羽川が『自覚してはいるが絶対に表に出さないようにしてきたこと』なのだ。
 

ひとつの結果として、羽川の恋は実らなかった。しかし堀江が高らかに歌う『chocolate insomnia』を聴いていると、この選択は必然でまた最良の結果であったことを裏付けるようにも思えて、グッと込み上げるものがあった。
 

去る寸前、小さく「せーのっ……」と発した堀江。おそらくはこの時点で大半の観客は次曲の予想が出来ていただろう。そう。ここにきての『恋愛サーキュレーション』である。
 

花澤香菜が冒頭に「せーのっ」と発した瞬間の盛り上がりは、この日一番だったのではなかろうか。化物語史上瞬間最大風速を記録した楽曲でもあり、物語シリーズ屈指の人気曲。花澤が「でも そんなんじゃ」と歌った瞬間に観客が一丸となって「だーめ!」のレスポンスを返す様は圧倒的。
 

かつて花澤香菜は自身のソロコンサートにて、一度だけこの『恋愛サーキュレーション』を歌唱したことがある。その際はこれらのレスポンスを全て観客に託していたのだが、今回のライブではこれらの「だーめ」や「ほーら」他、中盤の「コイスルキモチハヨクバリcirculation」など、本来観客に託しても良さそうな場面も全て自身でカバーしていた。
 

おそらくこれは『物語シリーズのイベント』という部分を意識してのことだったのではなかろうかと思う。ただ盛り上げるだけなら観客に歌を託す方法が最もボルテージを上昇させ、観客の思い出にも残るだろう。しかし疑う余地もなく千石撫子、ひいては花澤香菜のイメージソングとして広く定着したのはこの楽曲だ。物語シリーズを通して築いた縁や、物語シリーズを通して認知されたこと。これらに対しての花澤の心からの感謝の思いが伝わってくるようだった。だからこそ花澤はこの楽曲を盛り上げるでもなく、全て自身で歌い切ることを選んだのだろう。最後に「ありがとう!」と笑顔で去っていった花澤の笑顔は感極まったようでもあり、素敵に写った。
 

その後も比較的新しめの楽曲が次々披露され、あっという間に最後の楽曲へ。今回のイベントの出演者が一同に会しての本編最後の楽曲は、スマートフォンゲームアプリ『〈物語〉シリーズ ぷくぷく』のテーマソングでもある『wicked prince』だ。
 

〈誰にでも 君は すごく やさしいから〉

〈勘違いしちゃったんだ 知らないふりで〉

〈誰にでも 君が くれる その笑顔を〉

〈何度だって 夢に見ちゃう〉
 

『wicked prince』は物語の主人公、阿良々木暦に向けての感謝の念や信頼をストレートに表したメッセージソングだ。今までテーマソングを歌ってきた女性陣が、マイクをスイッチしながら各パートを歌うその姿は、当然エンディングに相応しく明るいものだ。
 

しかし同時に素晴らしい時間の終焉を告げるセンチメンタルな感情も襲ってくるわけで、中でも大量のぷくぷく風船が客席に降り注ぐ場面で僕の脳裏では、「楽しかったなあ」という単純な感想だけがグルグルと駆け巡っていた。
 

『君の知らない物語』のBGMをバックに、出演者が笑顔でステージを降りていく。その姿は心から楽しんでいるようにも、終わってしまう寂しさを噛み殺しているようにも、プレッシャーから解き放たれたようにも見えた。
 

一夜限りの歴史的イベントは、こうして幕を閉じた。映像化なし、テレビ放映なし。僕らがこの興奮を誰かに伝えようとしても、時が経って再度余韻に浸りたいと思っても、それは不可能だ。『一夜限りの夢物語』と銘打たれた今回のフェスは文字通り、物語ファンにとっては夢のような瞬間だった。
 

しかし本編終了後のスクリーンに表示された『アニメ新シリーズ制作中!続報を待て!』との一報が明かされたことからも、物語シリーズはまだまだ終わらない。きっとこの先もファンの期待を上回る何かが、続々と発表されていくだろう。
 

これは終わりではない。新たなる始まりなのだ。物語シリーズは10年経って、また新たな局面へ入っていく。神谷浩史もラストの一幕で語っていたが、これは言うなれば「始まり」である。
 

「めでたし、めでたし」で終わる昔話があれば、「はじまり、はじまり」でスタートする新たな物語があってもいい。そしてそれは物語シリーズでしかあり得ない。僕らは『物語』という新種の怪異に取り憑かれながら、その日をじっと待つしかないのだ。

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